荒部 好

『日本のバレリーナ』

文園社編
 日本に初めてクラシック・バレエが伝えられた初期から、大戦後、バレエの隆盛 期を迎える頃までの優れたバレリーナ 20名をとりあげて紹介した一冊である。

  大戦中や戦後の混乱期は、ただ生き延びていくだけでも厳しかった時代だったは ずである。そんな中で、未だ社会にはっきり認知されていたとはいえなかった クラシック・バレエに、全身全霊を捧げた人々の情熱とはいったい何だったの だろうか。当時よりもはるかに生きやすいと思われる今日、私たちはどれだけ バレエと向き合って生きているだろうか。そんな想いが自ずと沸いてくる。

  取り上げられたバレリーナは、貝谷八百子、谷桃子、松山樹子、橘秋子、服 部智恵子、太刀川瑠璃子、大滝愛子、小林紀子、大原永子、小川亜矢子、加美 早苗、松尾明美、石井清子、岡本佳津子、佐多達枝、アベ・チエ、笹本公江 、多胡寿伯子、雑賀淑子、谷口登美子の 20名。

  貝谷八百子の歌舞伎座貸し切り公演や終戦直後の『白鳥の湖』全幕公演の驚 異的ロングラン、海外の著名舞踊家の招聘、バレエ学校の設立、外国のバレ エ団のダンサーとしての活躍などなど、第一次クラシック・バレエ受容時代 に果たしたこれらの人たちの功績は数えあげても余り有る。現在では、ごく 当然と考えられていることがどれほど困難なことであったか。そういった諸 々の感慨を抱かせるところが、この本のミソかもしれない。

  いずれにせよ、先達に敬意を払わずしては、何事も優れた事を成すことはで きないのである。


『日本のバレリーナ』  日本バレエ史を創ってきた人たち
文園社編
1,680 円 (本体価格 1,600 円)