荒部 好

『田中泯 海やまのあひだ』

写真/岡田正人
 舞踏家、田中泯と写真家、岡田正人の30年におよぶコラボレーションが、一冊の写真集として上梓された。
『田中泯 海やまのあひだ』には、1970年代東京のごみ処分場「夢の島」の泥の海から、東尋坊の闇の海辺、南方熊楠ゆかりの神島、稽古場、田中泯の拠点である山梨の桃花村の森と山、などで踊る舞踏家、田中泯を捉えた凄絶ともいうべき写真が集成されている。時代の闇にたゆたい、劇場の精となり、森に木霊し、30年間の時空を天翔る一人の舞踏家の命のあリ様が、まず圧巻である。
 田中泯は「僕の踊りは実際にお客さんに見えているのは三分の二ぐらいで、残りの三分の一は見えない部分で表現している場合も多い」と言う。写真家、岡田正人は、田中泯の身体は「視覚の限界を乗り越え」て、「なにやら<原初的な感じ>がむき出しにされているのだ」と言って、踊りと場の交歓を闇に焼き付けているのである。
 岡田正人は神戸出身で、工作舎の写真家として田中泯に出会った。民俗学者の折口信夫を追って南信州や熊野の撮影を始めたが、病を得て果たせず。昨年、この写真展が終った4日後に亡くなったという。
 岡田正人の文とともに、宇野邦一、松岡正剛、木幡和枝、などがそれぞれ興味深い文章を寄せているが、撮られた側の田中泯が、撮影の瞬間に感じていたことなどを述べている文章「岡田くんとの<事件>の日々」が、たいへんおもしろかった。
田中泯〔略年譜1966-2007〕が付いている。




写真集『田中泯 海やまのあひだ』
写真=岡田正人
工作舎 刊
9,450円  (本体価格 9,000円)