荒部 好

『速度ノ花』

山田せつ子
 山田せつ子は明治大学在学中に笠井叡に師事し、天使館で舞踏を学んだ。1977年からソロダンスの活動を行った後、ダンスカンパニー「枇杷系」を設立し主宰している。

 この『速度ノ花』は、そうしたダンス活動の折々に書いた文章をまとめたもので、本人はダンスエッセイ集と呼んでいる。
 不思議な魅力を持った文章である。ダンサーとして当然のことなのであろうか、様々な折りに、非常に濃やかに感じとる繊細さがある。そしてからだが感じることと同時に発する感覚にも鋭敏である。また、それを表すボキャブラリーも豊かで、使い方に快いリズムがある。

 たとえば、若い頃には舞踊家を志し、しかし体を壊してしまった父への想いを綴る章は非常に魅力的。幼い頃、人混みの中で見失ってしまった自分を探し走ってくる父。病いのために走っている姿を見たことがなかったため、初めて見る痛々しい驚きを受け止める幼い頃の自身の感覚が甦ってくる有り様が、活き活きと描かれている。

 舞踏を選ぶようになる以前に、<「舞踏」という名は闇の中からにゅっと手をだしているように感じていた>とか、<映像は思いがけないところで切断されたり結合されたりする瞬間、部分が限りなく増幅されていく時間、かたちや色の質感の微細な変容、非日常的速度のあらわれが物のイメージを飛躍、感覚の逸脱を招く。このような、映像の中で当たり前のように起きることは実は踊るからだにも起きている出来事なのだ>と、ランダムにどこを切りとってみても不思議な説得力を秘めた文章で、ついつい読み進んでしまう。

 この一冊を読むと山田せつ子のダンスがいっそう感じ易くなること請け合いの本である。



『速度ノ花』
五柳書院
¥2,100 (本体価格¥2,000)