荒部 好

『進化するミュージカル』

小山内 伸/著

 最近、電車の中で若い女性が「私はだいたい年に3回くらいは『キャッツ』を観るわ」、と話しているのが聞こえてきて驚いた。かつては、ミュージカルをそんなふうな見方をする人はいなかったと思う。もっとも”リピーター”という言葉自体もあまり使われていなかったから、ミュージカルに限ったことではないのかもしれないが。
 それにしてもミュージカルのメガヒットが次々と現れるのには驚かされる。そのミュージカルが大ヒットする秘密に迫っているのが、この『進化するミュージカル』という一冊である。

 まず第1部は「ロンドン・ミュージカルの隆盛」として、『キャッツ』『ジーザス・クライスト=スパースター』『エヴィータ』『オペラ座の怪人』『アスペクツ・オブ・ラヴ』『レ・ミゼラブル』『エリザベート』『マンマ・ミーア!』。続く第2部は「ブロードウェイ・ミュージカルの復興」として『ラグタイム』『ライオンキング』『レント』『キャバレー』『シカゴ』『ジキル&ハイド』『プロデューサーズ』『ヘアスプレー』『ウィキッド』『モンティ・パイソンのスパマロット』『ドラウジー・シャペロン』という非常にポピュラーなヒット作をとりあげて、詳細に分析解明を試みているが、基本的には音楽とドラマがどのように関わっているか、を中心に分析している。特に同じメロディを状況が変わっても、反復して使用する効果を述べているところは説得力があった。
 私などはいつもドラマに注意がいってしまって印象が希薄になりがちなのだが、ミュージカルをミュージカルらしく音楽的に感じとって解説しているので、改めて理解できたこともたいへん多かった。
 著者は、観劇目的で1986年から88年末までロンドンに滞在し、その後もロンドン、ニュ-ヨークを頻繁に行き来しているという。それだけに熱がこもっているのだが、しかし無駄のない簡潔な批評で正鵠を射ているのには感心させられた。
 これだけロングラン作品が続出しているにもかかわらず、今日のミュージカルを正面から本格的に論じたのは、恐らく本書が初めてだろう。



   

『進化するミュージカル』
小山内 伸/著
論創社刊
1,890円
(本体価格1,800円)