荒部 好

『ケインズとケンブリッジ芸術劇場』

中矢俊博 著
 ジョン・メイナード・ケインズは世界的経済学者として知られる。ディアギレフ率いるバレエ・リュスのプリマとして活躍した、リディア・ロプホワがケインズと結婚したことも、バレエに関心を持っている人ならご存知だろう。
 ほとんどバレエとは無縁に思われる著名な英国の経済学者が、どうしてロシア人のプリマと結婚することになったか、その疑問にはこの『ケインズとケンブリッジ芸術劇場』が答えてくれる。
 ケインズは、バレエ・リュスがロンドンで公演を行っていた1918年ころから、このカンパニーの公演を観に行っていた、という。一方、ロプホワは1910年にバレエ・リュスの参加したが、一時離脱し、アメリカで踊った。その後復帰し、1919年にはロンドンのアルハンブラ劇場で『奇妙な店』(振付マシーン、音楽ロッシーニ)のカンカン・ダンサーを踊って評判になり、ピカソも関心を寄せている。ロプホワは当時のロンドンの人気バレリーナだった。
 そしてディアギレフはアルハンブラ劇場で『眠れる王女』(『眠れる森の美女』のタイトルを変更したもの)を製作、上演した。ケインズはこの公演を通して、ロプホワと親しくなり、彼女のマネージャーになることに成功している。
 ケイインズは、ケンブリッジ大学のキングス・カレッジの出身で、ロンドンのブルームズベリー地区の文化人たちが作っていた、ブルームズベリー・グループの一員だった。これは英国の上流階級のグループで、ロシア人のロプホワとの結婚は様々の波紋を呼んだ。
 そうした結婚の余波や、ケインズがケンブリッジに芸術劇場を設立したこと、また世界大戦後のコヴェント・ガーデンの復旧に努力したことなどが、この一冊から読みとることができる。
 経済学者の人生を描いているので、バレエとは縁のない難しい事柄も論じられているが、バレエに関わるケインズとロプホワ夫妻の話は、なかなか興味深いものがある。


   

『ケインズとケンブリッジ芸術劇場』 リディアとブルームズベリー・グループ
C中矢俊博/著
同文館出版/刊
2,415円 (本体価格2,300円)