荒部 好

『クリエイティブな習慣』

トワイラ・サープ
 7月に来日公演を行うアメリカン・バレエ・シアターは、トワイラ・サープの新作を上演する。先日来日したABTのプリンシパル、ジリアン・マーフィーは日本公演でこの新作を踊る。しかし彼女によると、既にリハーサルはかなり進行しているものの、6月早々にメトロポリタン歌劇場で世界初演されるこの新作のタイトルは、未だ決まっていないという。
 2003年に刊行されたサープの著書『クリエイティブな習慣』には、02年にブロードウェイで初演された彼女のミュージカル『ムーヴィン・アウト』が、やはりぎりぎりまでタイトルが決まらなかったことなど、公演までのプロセスがかなり詳細に書かれている。

 トワイラ・サープ演出・振付・原案の『ムーヴィン・アウト』は、ラスタ・トーマス主演で日本でも上演されたので、ご記憶の方も多いと思う。この作品は、サープがビリー・ジョエルの曲に想を得て、ひとつの新しい物語を構成している。最初のアイディアからすべてをサープがイニシアティヴをとって創り上げた舞台である。
 まず、ビリー・ジョエルにこのダンスのアイディアを説明して許可を得るために、どういう方法をとったら最も可能性が高いか、の想が練られるところから、「クリエイティブな」アクションがスタートする。そしてダンサー、スタッフとともにダンスが創られ、シカゴで試演される。しかし、観客の反応も批評もあまり芳しいものではなかった。
 サープは言う。「すべてのクリエイティブな人は、失敗にどう対処するか学ばねばならない。失敗は、死や税金と同様、免れられないものだからである。レオナルド・ダ・ヴィンチやベートーヴェンやゲーテですら時には失敗したのに、どうしてあなたはその例外だと思うのだろうか?」さらに、「最悪の事態の後に最高の仕事をする」(ジェローム・ロビンス)「私は自分が勝った試合からは何も学ばなかった」(ボビー・ジョーンズ/プロゴルファー)といった言葉の引用されて、失敗とその対処について論じられる。
 そしてサープは、『ムーヴィン・アウト』をブロードウェイで成功に導くまでの、多くの異なる種類の失敗と訂正の実践を、ケーススタディとして分解し、いかに対処したか、雄弁に語っている。

『クリエイティブな習慣』は、12章に分けられ、32の実践的なエクササイズも付され、クリエイティブな活動を行うために有効な様々な考え方を説いている。
 その中では、ジョージ・バランシンやジェローム・ロビンス、あるいはお馴染みのフィリップ・マーロウを生んだハードボイルド作家、レイモンド・チャンドラーなどのクリエイティブな活動の特徴を、巧みに引用を織り込みながら語っている。
 引用が楽しく読めるのは、ドライヴイン・シアターを経営する両親の元に育ったサープが、アメリカ文化を存分に吸収しながら育ったからだろう。
 ハウ・トウ・ブックのスタイルを使ったなかなか洒落た、啓発に富んだ一冊であり、人気振付家、トワイラ・サープのニューヨークのクールな生活の一端も垣間見ることができる。




『クリエイティブな習慣』 右脳を鍛える32のエクササイズ
THE CREATIVE HABIT LEARN IT AND USE IT FOR LIFE
トワイラ・サープ
杉田晶子 訳
白水社 刊
2,520円 (本体価格2,400円)