荒部 好

『ICON 伝説のバレエ・ダンサー、ニジンスキー妖像』

監修/芳賀直子
 20世紀の初頭、ディアギレフが率いたバレエ・リュスのヨーロッパ興行は、衝撃的な反響を呼び、舞踊のみならず芸術的、社会的な事件として受け止められた。その衝撃波は、ベノワやバクストの美術、ストラヴィンスキーの音楽など様々な要素から生まれたが、やはり、ニジンスキーの驚異的な跳躍と鮮烈なキャラクターが観客に最も大きなインパクトを与えたからであろう。
 バレエの舞台にダンサーが描く跳躍が、観客にどれほど強烈な印象を与えるか、ガラ・コンサートなどをご覧になったことのある方は、充分お分かりだと思う。
 ニジンスキーはまず、野性的エネルギーを秘めた恐るべき跳躍によって噂となり、『牧神の午後』や『春の祭典』の振付の神秘的、異教的な表現力によって注目を集めた。
 さらにディアギレフとの性的なスキャンダルと軋轢、神と同化するかのような自意識の吐露などによって、ついには神話的な存在へと昇華してしいったのである。
『ICON 伝説のバレエ・ダンサー、ニジンスキー妖像』は、踊るニジンスキーのたいへん魅力的な写真を集め、"ICON VASLAV NIJINSKY"の実際を見せている。
 写真の他にも、1910年のパリ・オペラ座を始めとするバレエ・リュスのプログラム、ディアギレフに馘首にされたニジンスキーが座長となって上演した<セゾン・ニジンスキー>のプログラム、ジョルジュ・バルビエ、ドロシー・ミュロック他が描いたニジンスキーのイラストレーションや木版画などが収録されている。
 資料としては、ニジンスキーの生涯はもちろん、年表、学生時代からマリインスキー劇場、バレエ・リュスの出演・振付作品リスト、晩年のニジンスキーを病からダンスに目覚めさせようとする動きの紹介などが掲載されている。
 熊川哲也も寄稿しているが、その中でニジンスキーの『牧神の午後』の振付について触れ、ダンサーにとってジャンプでアピールすることがどういう意味をもつか、を語っているところが興味深かった。ダンサーならではの視点である。
 いずれにしても、これはニジンスキーに関する貴重な1冊である。




『ICON 伝説のバレエ・ダンサー、ニジンスキー妖像』
監修/芳賀直子
講談社
定価:3,150円 (本体価格3,000円)