(森 瑠依子)

『超展開バレエマンガ 谷ゆき子の世界』

図書の家 編集
倉持佳代子 編集協力
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今から半世紀も前になるが、1960年代後半からおよそ10年の間、谷ゆき子という漫画家が「小学一年生」「小学二年生」といった学年誌で次々とバレエ漫画を発表し、幼い読者の間で絶大な人気を誇っていた。彼女の作品は単行本化されなかったため、当時の読者以外に知る人は少ないが、熱心なファンたちが過去の掲載誌から原稿を起こし、当時の関係者、同業者へのインタビュー、詳細な年表などを加えて本書『超展開バレエマンガ 谷ゆき子の世界』を完成させた。

谷ゆき子の連載バレエ漫画には8作の「星」シリーズがあり、本書に復刻掲載されているのはその第2作『バレエ星』の一部。主人公のかすみが、病気でバレエをやめた母の願いをかなえるため、不屈の努力でバレリーナになって母が構想した作品『バレエ星』を上演する、という物語だ。バレエ漫画には欠かせない意地悪なライバルがこの漫画でかすみに仕掛けるいやがらせは、トウシューズに画びょうどころではなく命にかかわる犯罪レベル。おかげでかすみは大きな滝から落ちそうになり、ヘリコプターで救助される。復刻ページは怪我を負ったかすみが病院を抜け出し、松葉杖をつきながら危険な吊り橋を渡り始めるシュールな場面で終わってしまうのだが、その後にはほら穴でダイナマイトが爆発して生き埋めになりかけたり、母が亡くなって妹と心中未遂を起こしたりと「常に予想を裏切る超展開」「すべてが想像の斜め上!」という帯のあおり文句が大げさに思えない、怒濤の展開が待っていたという。

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本書の終盤には谷ゆき子によるカラーの表紙絵や口絵が多数収められている。色鮮やかでかわいらしい絵柄は少女たちの夢の世界を描くのにぴったりで、不幸てんこ盛りの波瀾万丈ドラマのものとは思えない。実は谷ゆき子のバレエ漫画の超展開ストーリーは、マネージャー役の実姉や編集者が練り上げていたらしい。当時は『巨人の星』『アタックNo.1』といったスポ根漫画が人気を博していた。谷漫画は華やかなバレエの世界を描く美しい絵と、主人公が努力と根性で成功を勝ち取るというスポ根ストーリーのみごとなハイブリッドだったのだ。

『バレエ星』の人気のほどは、欄外に掲載されている当時の読者の熱いメッセージや、テーマソングのレコード(ソノシート?)が作られて発売されたり、バレエ香水やかすみちゃん着せ替えが付録についたりしたことからもわかる。幼いかすみファンは次号の発売日をさぞ心待ちにしていたことだろう。現代の目から見ても『バレエ星』の続きがたいへん気になるのだが、原画が残っていない作品の復刻には膨大な時間と費用がかかる。「読みたい」という声が大きくなれば悲願の復刻につながるそうなので、ぜひ多くの方に谷作品のおもしろさを知っていただき、全ページ復刻が実現することを願いたい。

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『超展開バレエマンガ 谷ゆき子の世界』
(株)リットーミュージック
定価:本体1,600円(税別)