(荒部 好)

『夢へ翔けて』戦争孤児から世界的バレリーナへ

ミケーラ・デブリス、エレーン・デブリス/著
田中奈津子/訳

映画『ファースト・ポジション 夢に向かって踊れ!』をご覧になった方は、ユース・アメリカ・グランプリ(YAGP)に挑戦する6人の子どもたちの中に、黒人の少女ミケーラがいたことを忘れている人はいないだろう。黒い肌であっても、バレエに賭ける情熱の熱さは人一倍感じられたはずからだ。情熱だけではなく、どこか冷静で差別的感情を絶対に受け付けない厳しい強さが併せて感じられ、強い存在感が印象に残っている。

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20歳になるミケーラ・デプリスが自伝を出版した。20歳で自伝の出版? ちょっと早いにじゃないか、と言うなかれ。ミケーラが生まれたシエラレオネ共和国は、エボラ出血熱の流行でも知られたアフリカの大西洋に面した国。いつ終わるとも知れない内戦と、劣悪なインフラのために平均寿命が46歳くらいで世界でも最も低いといわれている。そうした恐るべき環境の中でもさらに不幸だったと思われる、ミケーラの幼少のころの残忍な経験が幼い少女の目を通して語られる。この前半部分は、読めば鬼でも落涙は免れないだろう。
そうした死の恐怖をかいくぐりながら生き延びた少女のたったひとつ心の支えは、アメリカのダンスマガジンの表紙を飾ったバレリーナの写真だった。いつかこの写真のようなバレリーナになって、観客の喝采を浴びたい、という夢だけを頼りに表紙を握りしめて生き延び、やがて素晴らしいアメリカ人夫妻の養子になるという幸運が訪れる。そこからは映画『ファースト・ポジション』の世界へと繋がっていく。
結局、ミケーラはその表紙はアメリカに渡る途上で失ってしまうが、後日、マスコミ関係者などの努力により、表紙のモデルとなったバレリーナとめぐり会うことがができた。
これは、バレエという芸術が、ひとりの想像を絶するような不幸な少女の人生を救った感動的な物語である。ミケーラは現在、オランダ国立バレエ団で踊っている。そしてこの物語は、アメリカで映画化されることになっているそうだ。
 

『夢へ翔けて』戦争孤児から世界的バレリーナへ
ミケーラ・デブリス、エレーン・デブリス/著
田中奈津子/訳

ポプラ社 刊
定価・本体1,600円(税別)