(荒部 好)

『深読みミュージカル』歌う家族、愛する身体

本橋哲也 著 / 青土社 刊

『深読みミュージカル』は、世界的に大ヒットしてロングランされ、映画としても有名なミュージカル10作とりあげ、家族、言語、身体、他者、という4つの論点から分析している。とりあげられたミュージカルは、『サウンド・オブ・ミュージック』『ライオン・キング』『メアリー・ポピンズ』『マイ・フェア・レディ』『ウエスト・サイド・ストーリー』『キス・ミー・ケイト』『ラ・マンチャの男』『ジーザス・クライスト・スーパースター』『オペラ座の怪人』『レ・ミゼラブル』で、どれも多くの人がどこかで馴染んだことのある親しみやすい作品ばかり。同時にかつてミュージカルといえば、どちらかといえば映画ファンの中でも少数派だった時代もあったが、今では映画でも舞台芸術でもメジャーとなっていることにあらためて気付かされた。

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著者は上記のミュージカル作品それぞれの「人々が日ごろ気つかない力関係や、心の奥底で抑圧している望みや恐れ」を鋭く分析して、白日の下に明らかにしている。
かつてアメリカのミドルクラスの実態を描いた映画は古くは『紳士協定』であり、『陽のあたる場所』や『必死の逃亡者』だった。当時もそうであったのかも知れないが、今日は状況ははるかに複雑になり、金融資本の活動などにより格差拡大の問題などに発展してきている。本書の著者は、そうした現代的視点がしっかりしており、人種問題やジェンダー、階級社会、植民地、言語などを今日の社会からみて鋭く分析している。
とりわけ感心したのは、『マイ・フェア・レディ』の主役の一人、言語学者ヒギンズ教授の自己中心的な存在の姿を徹底的に追及していることだ。映画『マイ・フェア・レディ』でヒギンズを演じた、レックス・ハリソンの皮肉が効力を発揮しないもどかしさ漂わせているような表情を思い浮かべながら、そ、そこまで言わなくても、などと思いながらも分析力の切れ味を楽しんでしまった。そして『マイ・フェア・レディ』の「フェア」の美しいという意味がフェアプレイの「フェア」に転化する、という展開には感服した。英語と日本語の違いはあるが、『メアリー・ポピンズ』は箒を放棄するする話である、というウィットに富んだ洒脱な解説にもまた脱帽。

『深読みミュージカル』歌う家族、愛する身体
本橋哲也 著
青土社 刊
定価 本体2,200円(税別)