(荒部 好)

『吉田都 一瞬の永遠』英国ロイヤルバレエ・プリンシパルのすべて

写真 篠山紀信
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この一冊には、吉田都が英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルとしてロイヤル・オペラハウスで踊った『オンディーヌ』(2009年)『ロミオとジュリエット』(2010年。ロミオ役はスティーヴン・マックレー)英国ロイヤル・バレエ団の日本公演などの舞台写真、コヴェント・ガーデンのアシュトンスタジオやクロアスタジオのリハーサルの風景やバックステージのスナップなどの、篠山紀信が撮影した写真が80ページにわたって収められている。そこにはロンドンと東京で咲き誇った花の一瞬の美しさが、永遠のイメージとなって見事に定着されている。
そしてまた、5章に分けられた吉田都のバレエと自身の人生についてのエッセイも収められている。
吉田都の文章は、まるで彼女の舞台上の姿のように優しく柔軟で、素敵に脱力して淡々と彼女のバレエ人生を振り返えっている。ごく日常的な平易な言葉で読者に語りかけているので、それはバレエを習得しようとする人が、人並みの努力をして英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパル・ダンサーにまで至った、と語っているかのように読めてしまうかもしれない。しかしその背景では、彼女がバレエ人生の節目で踊った『シンデレラ』のような奇跡や引退の演目となった『ロミオとジュリエット』のようなドラマティックな出来事が、次々と生起していたことはいうまでもない。じっくりとこのエッセイを読んでいくと、彼女の物静かな語り口が返って彼女のバレエ人生の、バレエにかけた情熱の激しさを際立たせているのが分かる。

ポアント・シューズへの憧れから始まったバレエへの道をひたすら歩む中で出会った、松山樹子やピーター・ライトなどの彼女の師たちの言葉を、彼女の舞台をみればその意味するもの以上の果実を育てているとも思えるのだが、じつにしっかりと正面から受けとめて大切にしている。この謙虚さに彼女の人柄がはっきりと顕れているのである。
そして吉田都は、ロイヤル・バレエ・スクール時代に一時はホームシックに陥るが、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団に入団し、怪我などいくつかの挫折を乗り越えてプロフェッショナルなダンサーへとゆるぎない精神性を獲得していく。その姿は、真実の愛に生きる女性としてのかけがえのない精神性を獲得していくマクミラン版『ロミオとジュリエット』のジュリエットの姿を彷彿させる。
そしてまた、彼女が英国ロイヤル・バレエ団のプリンシパルを退くことを決めたタイミングと決断も絶妙。彼女のサヨナラ公演が万雷の喝采を贈られた感動的なものだったのは、当然のことといえるのかもしれない。それは人知れず極限まで励んだ彼女の努力に対して、神が与えた最良のプレゼントだったからである。

『吉田都 一瞬の永遠』英国ロイヤルバレエ・プリンシパルのすべて
写真 篠山紀信
世界文化社刊
定価1,680円(本体1,600円)