(荒部 好)

『フランス的クラシック生活』

ルネ・マルタン 著 / 高野麻衣 解説
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「一流の演奏による45分間の公演をいくつも低料金で楽しめる」という新しいコンセプトの下、1995年にフランスのナントで始まったクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ(熱狂の日)」は、大人から子供まで多くの聴衆を集めた。そしてスペインやポルトガル、ブラジル、ポーランドでも開催されるようになり、2005年には「ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン」として東京国際フォーラムで開催され(今年は震災の影響で縮小された)、金沢や新潟、びわ湖、鳥栖へと大きな広がりをみせている。この音楽祭を始めたアーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンが初めて著したクラシック音楽ガイドの本が『フランス的クラシック生活』である。

「ムッシュー・マルタンが暮らしの中で誰もが経験するような”シチュエーション”を取り上げ、そんな場面にぴったりのクラシックをご紹介し、みんなでシェアする」という構成だ。全体を「ある金曜日」「クラシック歳時記」「恋、そして人生」「音楽の効能」という4つのチャプターに分け、それぞれのシチュエーションを仮定してお薦めの楽曲を紹介している。
チャプター1「ある金曜日」では、<朝の日課を楽しむ>としてサラ・サーテがビゼーのオペラ『カルメン』のキラーチューンをヴァイオリンの演奏会用にまとめた『カルメン幻想曲』を挙げる。朝は美しい音楽を聴いてシャワー、洗濯、朝食などを行う。冒頭の静かな躍動から、ハバネラなどを経て終盤の大迫力へ。リズミカルだから仕事もはかどる、というわけだ。確かに一日を始めるアクセルを踏む気分をもたらしてくれるように思えてくる。
そして<さあ、バーゲンセールへ!>では、ハチャトゥリアンのバレエ音楽『ガイーヌ』〜剣の舞。<電車内の読書のお供に>は、ショスターコヴィチ『ジャズ組曲第2番』第2ワルツ。<くたびれた帰り道>は、チャイコフスキーのバレエ音楽『くるみ割り人形』〜金平糖の踊り。といった推奨もある。
チャプター2「恋。そして人生」では、<恋に落ちたら>サン=サーンスの組曲『動物の謝肉祭』〜白鳥。<つまらないデート、つまらないケンカ>はサティの『グノシエンヌ第一番』で癒す。<会いたくてたまらない>時には、マスネの『タイスの瞑想曲』で乗り越える。<結婚式の朝>は、エルガーの行進曲『威風堂々』第1番で。ともなっている。
そのほかにも特に体系的ではないが、時々に応じた「フランス的」な生活の中の音楽的アフォリズムが散りばめられていて、興味深く読み進むことができる。
ところどころに乙女文化を追求している高野麻衣の解説が付されているが、映画とクラシック音楽、あるいは少女漫画とクラシック音楽などに関する記述がおもしろくかつ参考になった。
ここに登場するルネ・マルタンお薦め楽曲のコンピレーションCDも出ているというから、興味のある方は聴いてみたらいかがだろうか。

『フランス的クラシック生活』
PHP新書
定価:本体 800円(税別)