(荒部 好)

『求道の旅人 小島章司とフラメンコの世界』

大久保元春 著
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今年、文化功労者に選ばれたフラメンコ舞踊家、小島章司の評伝が刊行された。表題に<求道の旅人>とあるが、小島章司の故郷、徳島、阿波の国の伝統的文化の中心ともいえる空海・弘法大師の人生と小島の生き方を照応させて描く、というかなり思いきった着想から話を起こしている。
というのも、今年6月、空海の降誕祭の前夜祭として高野山の真言宗総本山金剛峰寺に、小島章司によってフラメンコが奉納され、開山以来初めてフラメンコと声明のコラボレーションが実現したからだろう。
今年、古稀を迎える小島は、金剛峰寺に踊りを納める前に、故郷では幼い頃からお遍路さんをお接待するなどしてきて「生きることの素晴らしさ、いのちの大切さ、物心つくかつかない頃、私に人生の真実をこっそり教えてくださった弘法大師に、我が魂と肉体のすべてを賭けて、踊りを奉納したい」と誓いの言葉を述べた、と言う。

筆者の大久保は、小島章司との関わりも長く、高野山へのフラメンコ奉納にも一役買っているそうだが、『求道の旅人 小島章司とフラメンコの世界』を執筆するにあたって、空海、ロルカ、世阿弥の世界と往来しながら小島章司の人間像を浮き彫りにしようと試みている。それはつまり、簡単に言うとフラメンコという観点だけから小島章司に迫っても、その全体像を描くことはできない、と思ったからだろう。
そして筆者は、小島章司が『鳥の歌 A PAU CASALS』『FEDERICO』『戦時下の詩人たち《愛と死のはざまで》』という愛と平和の3部作を完成させた後に、小島の生い立ちの地の風土、文化を訪ねて旅に出る。ここから綿密な探求が始まり、まずは、小島がスペインに行ってフラメンコを究めよう、と固く決意するまでを追う。
さらに強運にも恵まれたがそれを最大限に生かす刻苦勉励により、東洋の果てからたった一人で訪れた本場スペインでの活躍。帰国後の展開と小島章司の求道の舞踊人生を追っていく。そしてそれは、ついに<フラメンコ道曼荼羅図>としてまとめられることとなる。
こうした方法によって小島章司像を描くことは、日本とスペインの文化への深い造詣なしには叶わなかったはず。そこにこの一冊の価値があると思われる。

角川SSコミュニケーションズ 刊
定価:本体2,200円+税