フェリペ5世の実際にあったお話をお芝居にした『FARINELL AND THE KING』をブロードウェイで観ました

イタリアのカストラート(男性ソプラノ歌手)歌手ファリネリとスペインのフェリペ5世の実際にあったお話をお芝居にした『FARINELL AND THE KING』をブロードウェイで観ました。映画『ファリネリ』でも有名な歌手が歌うことでフェリペ5世の病気が治っていくというお話です。 シンプルな演出で美しく、笑いもたくさんあり素敵な舞台でした!

『FARINELL AND THE KING』

フェリペ5世を演じているのは映画『ブリッジ・オブ・スパイ』でアカデミー助演男優賞を取ったマーク・ライランスです。グローブ座の芸術監督も10年務めたレジェンドですが、こんな間近でお芝居が観られるのはとても嬉しかったです! ファリネリ役は、Netflixの「クラウン」シーズン2にも出演しているSam Craneです。
舞台は躁鬱病を患って気がおかしくなっているフェリペ5世役のマークが、金魚鉢から金魚を釣っているのですが、そんなところへ女王エリザベッタがファリネリを連れてきます。出だしからファリネリとフェリペ5世の掛け合いがあるのですが、とてもリズミカルで可笑しく、瞬く間に二人の過去のストーリが見え始め、本を一気に読み進んでいる気持ちになりました。

(c) Joan Marcus

(c) Joan Marcus

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フェリペ5世は、ファリネリが歌うことで安らぎ、病気が治っていくのですが、この素晴らしい役者が歌うのかなと思っていると、同じ格好をしたもう一人のファリネリ役の人が現れます。彼が静かに芝居の中に入ってきて、演技をしている役の俳優の前に出てきてファリネリを演じ(歌い)出します。
その間、(最初からいる)演技をしている方のファリネリは、口パクをするのでもなく、歌っている気持ちを持ったまま立っています。
時々、歌っているファリネリと演技のファリネリが王に向かって別々の仕草をするのですが、両方ともそれぞれの演技で同じ気持ちなので変に見えません。かえって二人が全く同じ動きをするのではないのが新鮮で、ある意味、衝撃です。
歌い終わったファリネリ役の役者は静かに捌けます。演じている方がすぐに話し始めます。
小さな楽団も舞台の2階にあるので観客から観られ、その時代の格好をしています。
この歌手は、Iestyn Daviesという方で、三つもGramophne Awardsを受賞した有名な方だそうで、夜公演だけ歌うそうです。マチネ(昼公演)は他の歌手、James Hallが歌うそうです。そうですよね、あれだけ高い声を週に8回公演は大変ですものね。

(c) Joan Marcus

戯曲は、フェリペ5世を演じているマークの実際の奥様がアレンジしたのでこのカストラートの歌が 「今から歌います」という感じではなく、物語に自然と入っていて、またイタリア語なので意味が分からない私にも何を歌っているか分かるように前後のお話に溶け込んでいます。2幕では空中からぶら下がって面白く歌うのですが、あの時代の絵画のエンジェルみたいで可笑しく、でも美しい声でした。この奥様、クレア・ヴァン・カンテンは脚本も担当し、彼女の処女作だそうです。
最後のシーンで、フェリペ5世が死んだ後に、コートを作った人物が出てきて、大事な質問をファリネリにします。なんだかオンディーヌの皿洗いの女みたいだな、と思ったのですが、この役を他の人がするのではなく、フェリペ5世を演じたマークが演じています。どうしてそうしたのか演出の意図はわかりませんが、この短いシーンがまだ素晴らしいのです!
少ない質問でフェリネリが答えるだけで、今までの人生が全部見えるのです。
そして、彼が歌いだします。(歌手の方が出てきて)その時に音も立てず、存在を消しながらこのコートを作った役のマークが奈落にドアを開けて捌けるのですが、舞踏のような静かにゆっくりと動き、観客はフェリネリの歌に聞き入ります。この最後のシーンだけで観ても良いぐらい感動します。
実を言うと、私の夫が小道具で代行をすることになり、それで観に行ったのですが、夫は衣装を着て最初から何度も王のお城に働いている役で舞台に出て、しかも後半は「やりたくない」演技をするように演出家に言われて、召使役でもう一人と出てきます!

『FARINELL AND THE KING』

休憩では、美しいたくさんのキャンドルを一度全部消して、先を整え、またつけるのですが、それをチェックするスタッフさんも衣装で出てくるのですが、私は役者かな。と思ったぐらいそのスタッフさんたちも楽しんで演じて点検していました。:)
夫は、一度小道具を持って捌ける時に私が座っているボックス席を見上げたので、後で「私の方見たでしょう!」というと「探したけどわからなかった。」と言っていました。まだ2回目なのに堂々としていること・・・呆れました((+_+)))
夫がこの仕事の勉強で観た時に隣に座っている女性に休憩の時に「どう思いましたか?」と聞くと「良いと思うけど、あなたは楽しんでいる?」と聞かれ「こんなに良い作品を観たのは久しぶり。あるいは今まで観た芝居で一番良い作品かも」と答えると「それは良かった。実をいうと私が脚本、戯曲のアレンジをしたの」と言ったそうです。なんと、マークの奥様でした!
オペラを観に行くはずが、夫の関係で芝居を観ましたが、素晴らしいカストラートも聞けてしばらくはこの余韻に浸りたい感じです。

(c) Joan Marcus

インタビュー & コラム

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友谷 真実 Mami Tomotani

マーサ・グラハム・サマースクール、劇団四季研究所、川副バレエスクールでダンスを学ぶ。
★主な出演作品:
ニュー・アドべンチュアーズ『くるみ割り人形』(クララ、キューピット役ほか)、『白鳥の湖』、『カーマン』、『エドワード・シザーハンズ』(ペグ 役ほか)、『Highland Fling』(愛と幻想のシルフィード)、州立バレエ・リンツにてロバート・プール、オルガ・コボス、ピーター・ミカなどの作品(オース トリア)、 アルティ・ブヨウ・フェスティバル(京都)、ベノルト・マンブレイの振付作;スイセイ・ミュージカル『フェーム』、『ピアニスト』; 劇団四季『キャッツ』、『ジーザス・クライスト=スーパースター』、『アスペクツ・オブ・ラブ』、『ウエストサイド物語』、『オペラ座の怪人』、『ハン ス』、『オンディーヌ』など
★TV/映画:『くるみ割り人形』(BBC)他。
★振付作品:『just feel it?以・真・伝・心』個人のプロローグ(02年);アルティ・ブヨウ・フェスティバル(98年)、他。
http://ameblo.jp/mami-tomotani/

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