今月はロシア、モスクワよりお届けします。

私の第3の故郷とも言えるロシア、ボリショイ・バレエ学校の研修旅行のために、未来のバレリーナたちを連れて、私の人生の土台を作ってくれた場所のうちの1箇所であるモスクワを訪れました。
毎回この学校に来るたびにいろいろな思いがこみ上げてきて、胸が一杯になります。
決して楽で楽しい思い出ばかりではなく、厳しいことも多々有りましたが、それが私の人生の土台を築いてくれ、多々の経験を与えてくれました。
ペレストロイカの真っ最中だったため、今ではもう経験できない事ばかりでした。
凍える中、唯一暖かい場所だった地下鉄の駅や劇場で両親に手紙を書き2か月かかって日本に届く、両親からの手紙が2か月かかって届くのを楽しみにしていた日々。
食べるものがなく、パンを買うのに1時間の道に並んだこともありました。地下鉄でガス銃をうたれ見知らぬロシア人のおばさんに助けられたこともありました。
決して裕福な時代ではなく貧しい時代でしたが、劇場だけはいつも豪華で、ほぼ毎日生演奏と共に見たバレエは心を満たしてくれました。
そしてその一つ一つが私の心の引き出しに1つの1つのページとして残っています。

ボリショイ劇場

ボリショイ劇場

クレムリン

クレムリン

赤の広場

赤の広場

(C) Emi Hariyama(すべて)

ロシアバレエは、ワガノワメソードを中心に今でもその伝統を守っています。
毎年ロシアに戻ってくるたびに、基礎、ポジション、手の動き、アンディオールやつま先など、本当にベーシックなことの大切さを再確認します。
今回も初日はプリエ、タンジュ、そしてポールドブラだけに30分以上もかけてしっかり教えていただき、決して妥協しない先生の指導法に、私も勉強にさせていただきました。
200年以上前から変わらないその伝統が次々と受け継がれ、そして進化しながらその美しさを守っている、本当に素晴らしいことだと思います。
子供たちは、一瞬の時さえ無駄にしないよう、何度も何度も繰り返して体で覚えようとしていました。

ボリショイ・バレエ学校では、3つのグループに分かれてレッスンをしましたが、バリエーションのクラスでは、なかなか日本では見る事が出来ない珍しいバリエーションなども教えていただき、とても興味深かったです。
ヴェルディの四季からピサレフ版の『春』、«Наяда и рыбак» はロシア語ですが、日本ではオンディーヌとして知られる、プニー作曲のバレエに出てくるバリエーション、またブルラーカ版『ハレキナーダ』の幕物バレエの中からワルツなど、合計で10種類以上の作品を教えていただきました。

そして、色々な体験を出来るだけさせてあげたいと言う私の強い思いがあり、何度も交渉したうえお知り合いの方に本当にご尽力いただき、バレエ学校に加えロシア・バレエ団でレッスンを受ける機会を設ける事が出来ました。
本場のキャラクターダンスの授業では、バーレッスンから各国の踊りの特徴を教えていただきましたが全幕バレエを踊るには欠かせない授業でした。先生がカルメンやロシアダンスの見本を見せてくださる姿に見惚れてしまいました。
またクラッシックでは、アーティストとしての心構えと基礎を大切にしたレッスンをバレエ団の先生にしていただき、バリエーションレッスンでも舞台上で大切なことから基礎まできっちり指導していただきました。

『白鳥の湖』の公演

『白鳥の湖』の公演

滞在中、モスクワ・クラッシックバレエ団の『白鳥の湖』を見ました。
芸術監督のカサトキナとワシリョフ振り付け演出のバージョンで、DVDで何回も見たことがありましたが、本場で見たのは初めてでした。
2幕の白鳥のコールドの出だしなどは、同じロシアでもボリショイ劇場と全く違う振り付けで、4人ずつ違うパで出てきたり、ステージを彩る群舞の配置が舞台の美しいフレームになっていました。
そして3幕もこのバレエ団のオリジナルの振りで新鮮だった上、キャラクターダンスをバレエ学校でしっかり学んだダンサー達が踊ると、足のパ、手の使い方などやはり迫力が違いました。
4幕のコールドバレエのフォーメーションもとても美しく、オーケストラも情感溢れる演奏で見応えある舞台でした。

ボリショイ劇場の前の噴水

ボリショイ劇場の前の噴水

『くるみ割り人形』をみた劇場

『くるみ割り人形』をみた劇場

それと、ボリショイ劇場の横にある小劇場の方で『くるみ割り人形』を見ました。
『くるみ割り人形』は久しぶりに見ましたが、やはりチャイコスキーの音楽は素晴らしく、聴いているだけでも幸せな気分になります。振付は、ロシアの元祖の振り付けで、コンパクトにまとまっていて良かったです。

観光では、赤の広場をはじめ、見るだけでもロシアの歴史を感じる建物や街並みを見てロシアの文化に触れました。
またグリシコの工場を訪れる機会をオルガナイズする事が出来、それはとても貴重な経験でした。
普通は、まずありえないことなのですが、グリシコの社長様も全員を迎えて下さり、一人ずつにノートのプレゼントまでいただきました。
トゥシューズを作る過程などは普通見る機会がないのですが、一人一人が手作業をする現場、トゥシューズの型を取る過程、生地をニスのようなボンドで貼っていく過程、そしてハンマーでトウの部分を叩いて立ちやすく平にする過程など、全てを見せていただくことができました。私自身もこのような過程を見せていただく事は初めてでした。
子供たちも大興奮で見学し、一足のトゥシューズの為に大勢の人々が日々働いて作ってくださっていることも理解でき、いろいろな面で勉強になったと思います。

(C) Emi Hariyama

(C) Emi Hariyama

(C) Emi Hariyama

グリシコ工場

バレエシューズを作る過程も見せていただきました。
工場は、地下から2階までとても大きなファクトリーで、1人の職人が、1つの過程を繰り返し行っていました。ハンマーで叩いて最後の仕上げを見せてくださったSelgeiさんは、27年間同じ作業をしているそうです。
仕上げ担当の方々は、1日に20から25足しか作れないそうで、トゥシューズが出来上がっていく過程を見せていただきトゥシューズへの一足一足に感謝の気持ちが芽生えました。本当に貴重な機会でした。
いつもロシアに来ると芸術の立場、そして国民がバレエを愛しているということ、アートが日常にあることを感じます。アーティストとしてこれから羽ばたく若い子供たちが、ロシアの街並みや、雰囲気、その空気から感じた一つ一つの経験から内面的にも大きく豊かな人間に成長しそれが踊りに出る様なダンサーになってくれれば良いなと思います。

来月もまたヨーロッパの様子などお届けします。

(C) Emi Hariyama

(C) Emi Hariyama

(C) Emi Hariyama

グリシコ工場

インタビュー & コラム

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針山 愛美 Emi Hariyama

13 歳でワガノワ・バレエ学校に短期留学、16歳でボリショイ・バレエ学校に3年間留学した後、モスクワ音楽劇場バレエ(ロシア)、エッセン・バレエ(ドイ ツ)、インターナショナルバレエ、サンノゼバレエ、ボストン・バレエ団(アメリカ)、と世界各地のバレエ団に入団し海外で活躍を続ける。
2004年8月からはベルリン国立バレエ団の一員に。

1996年:全日本バレエコンクールシニアの部第2位、パリ国際コンクール銀メダル(金メダル無し)
1997年:モスクワ国際バレエコンクール特別賞
2002年:毎日放送「情熱大陸」出演 、[エスティ ローダー ディファイニング ビューティ アワード]受賞
Emi Hariyama Official Page

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