アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase
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『ツィガーヌ』は、バランシンのミューズの一人でありながら、結婚によりMR.Bの逆鱗にふれ、バレエ団を離れることを余儀なくされたスザンヌ・ファレルが、NYCBに復帰した際に創作された小品。ロイヤル・バレエは同作品を今回バレエ団の演目に加えるにあたりスザンヌ・ファレル本人を指導に招いた。

 ファースト・キャストは、マリネラ・ヌニェズとティアゴ・ソアーレス、セカンド・キャストはアコスタとタマラ・ロホ。主役の2人が仲間の8人を率いて踊る作品構成。
 ジプシー女ならではの情念を見せ、アンサンブルの中、一人光を放ったヌニェズに対して、セカンド・キャストのロホとアコスタは、スター同士の火花散る一騎打ちを見せた。同じ音楽性と技量を持つ2人が、目にも留まらぬ高速シェネで、舞台の上手と下手から現れ舞台中央で一つになると、コヴェント・ガーデンの観客が沸いた。
 通常バランシン作品の男性主役には、女性より一歩下がった品位と節度が要求されるが、良い意味でそれを裏切るアコスタの熱い個性が、ロホとともに観客の興奮を大いに煽りたてたのである。二人は、それが11分たらずの出演であろうと、スターなら観客に充分大きな喜びで満たすのだ、ということを見事に証明して見せたのである。

ヌニェズ、ソアーレス
『ツィガーヌ』
ヌニェズ、ソアーレス マリネラ・ヌニェズ マリネラ・ヌニェズ

『田園の出来事』は、貴婦人ナタリア・ペトロヴナが、息子の家庭教師としてやってきた魅力的な男性ベリャーエフと許されぬ恋に落ちるというツルゲーネフの小説を元に、アシュトンが、アントワネット・シブレーとアントニー・ダウエルの2人に振付けた作品である。

 ショパンの美しい音楽、貴族の館と美しいロシアの夏の風景、短いながらも感動的なストーリー展開を持つ優れた小品で、初演以来イギリスの観客に愛され続けている。

 観客の目にこそ美しく優しく映るが、ダンサーにとっては上半身を常に美しいポール・ド・ブラ(腕の動き)とエポールマンを保ちながら、すばやい足の動きや小さな跳躍を次々と披露し、流れるように舞台上を移動しながら踊るソロやデュエットが盛り込まれ、踊ることで物語や文化背景を語る、非常に消耗する作品であり、かつ優れた演技力が必要とされ、各々の音楽性と演舞の実力を大いに試される作品である。
 まだ演技力が充分ではなかった頃のシルヴィ・ギエムも、ジョナサン・コープを相手役に、かつてこの作品に挑戦したことがある。技巧・音楽性ともに申し分なく、彼女の美貌も役に似合いであったが、この作品を愛する批評家や観客には「演技が伴わない」と評判が芳しくなかった。

 今回ファースト・キャストの女性主役ナタリア・ペトロヴナにはアンサネッリ、ベリャーエフにはプートロフ、セカンド・キャストのナタリアにはヤノースキー、ベリャーエフには怪我から復帰のルーパート・ペネファーザーが扮した。
 ファースト・キャストのアンサネッリは女優バレリーナとして、許されぬ恋に苦悩する女性を何とも魅力的に演じた。一方プートロフのベリャーエフは、朴訥なベリャーエフで、感情表現も控え目。

ベリャーエフ ベリャーエフ 束の間の幸せ
束の間の幸せ 夫人とベリャーエフ 『田園の出来事』

夫人への想いを打ち明ける
 セカンド・キャストのヤノースキーは貴婦人らしい気品に溢れながらも、アンサネッリのような豊かな喜怒哀楽の表現ができずやや単調であったのに対して、ここ数年役者として大いに成長したペネファーザーが、控えめなダンスール・ノーブルの仮面をかなぐり捨て、別れの場面で迫真の演技を見せ観客を驚かせた。

 主役以外で印象に残ったのが、ベリャーエフに激しい恋心を抱くナタリアの召使のヴェラを演じたべサニー・キーティングである。非常な音楽性とともに繰り出す小さな跳躍は、どれもバレエの教習本写真から抜け出したかのように美しく正確で、腕のポジションやエポールマンもエレガント。セカンド・キャストの脇役ながら、アシュトン・バレリーナとしては主役のアンサネッリ、ヤノースキーをしのぐ完成度を見せた。
 キーティングといえばロイヤル・バレエ・スクール時代から、その才能の片鱗をうかがわせ、関係者の誰もが注目したバレリーナである。これほどの存在に成長しながら、なぜか昇進が遅く、最近では目立った役への抜擢も少ないのが惜しまれる。

 またボールを持ってのソロを披露するお坊ちゃまのコーリャ役は、代々バレエ団の小柄な男性ダンサーが踊るのが常だが、やはりどうしても不自然になりやすい。
今回ファースト・キャストで同役を演じたポール・ケイは、ソロでも力まず演技も自然で子供らしさに満ち溢れ、ここ20年間に同役を演じた踊り手の中で、最も評価されるべき存在であった。

 3月15日に『シルヴィア』を主演したゼナイダ・ヤノースキーは公演後に、夫でオペラ歌手のサイモン・キンリーサイドとの第一子を妊娠中であると発表。その後、3月31日からコロシアム劇場で予定されていた「カルロス・アコスタとロイヤル・バレエの仲間たち」公演からの降板が発表された。
 ヤノースキーといえば、同バレエ団日本公演中も『シルヴィア』の主役に予定されている。残念ながら、この配役にも変更が加えられるのではないだろうか。
コーリャ アンサネッリ 夫人とラキーチン
アンサネッリとプートロフ 束の間の幸せ 別離
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