アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase
※画像をクリックすると別ウィンドウで大きな写真が開きます。
> >

マルケス、プートロフ
 20日、ロベルタ・マルケスとイヴァン・プートロフのデビュー公演を観る。マルケスは小柄なプートロフの相手役として3年前にコベント・ガーデン・デビューを遂げた。
 02年モスクワ国際バレエ・コンクールの銀賞受賞者で強いテクニックと、表現力に富むバレリーナだ。プートロフとは、これまでも『ジゼル』『バヤデール』で共演している。今年30歳になるが古典バレエの少女役が非常に良く似合う踊り手である。
 マルケスは、乳母と遊ぶ登場シーンでは「甘えん坊の幼いお嬢様」を、ロミオと出会い初恋に胸を高鳴らせる場面、バルコニーのパ・ド・ドゥ、そしてヴェローナの街を離れるロミオと一夜を過ごした寝室シーンで、人を愛する喜びに目覚めた「大人の女性への変貌」を、鮮やかに演じ踊ることによって表現して見せた。
 パリスとの結婚を申し渡されローレンス神父に助けを求める必死さ、仮死状態から目覚め死んでいるロミオを見た後の驚き、嘆きなどの表現も見事で、短剣を胸に突き立ててから、死を目前に愛するロミオに触れようと手をさしのべる場面など、作品の要所要所で観客の心を奪い涙させ、今シーズン最も心に残るジュリエットとなった。

 プートロフは、現ロイヤル・バレエの男性舞踊手中最もロミオ役が似合う容姿の持ち主である。初恋に夢見心地の甘やかなロミオとして、マルケスと共にこの作品にうってつけの魅力を持つ。当日はマキューシォにマーティン・ハーヴェイ、ベンヴォーリオを蔵健太という、今バレエ団で最も旬の男性ダンサー2人が登場、プートロフと共に演舞に若さを発散してみせた。

 1幕プートロフは緊張のせいか、舞踏会に潜入する前、ハーヴェイと蔵と共に踊る場面で2人に遅れをとってしまったが、その後ジュリエットの奏でる音楽で踊るソロでは深窓の令嬢の心を奪うには充分魅力的であり、バルコニーのパ・ド・ドゥも申し分なかった。
 だが秘密の結婚式の後、街でティボルトとマキューシォが剣をふるう場面でハーヴェイが登場すると、プートロフとハーヴェイの主役、準主役という立場がまるで入れ替わってしまったのである。

蔵、マルティン、プートロフ マルティン、プートロフ、蔵 マルケス、プートロフ
マルケス、プートロフ ホワイトヘッド、エイヴィス マルティン、アコスタ
ピクリング、サーンダース ロッホ、アコスタ ロッホ、アコスタ
ロベルタ・マルケス ロベルタ・マルケス 佐々木、マルティン、アコスタ

 先シーズン『マイヤリング・うたかたの恋』のルドルフ皇太子役に抜擢され、またバーミンガム・ロイヤル・バレエの芸術監督で振付家のビントリーからの信頼も厚く、現在2つのロイヤル・バレエで活躍をするハーヴェイは、演舞に優れた包容力のあるダンサーである。
 ティボルトの刃に若い命を奪われるマキューシォ役も、表現と求心力に富み、非常な魅力で、主役を演じながらどこか存在感の希薄なプートロフから、観客の関心を一身に奪いとってしまった。

 そんな事態からプートロフが再び盛り返しを見せたのは、クライマックスのジュリエットの墓の場面であった。
 愛する少女の死を前に号泣する様は、過去にロミオ役を得意とした英国人ダンサーたちの誰にも見られなかった激しい感情のほとばしりで、スラブ民族の彼ならではの表現。関係者や観客はそんなプートロフを目の当たりにし、サポート面での少しの不手際など忘れ、心を大いに動かされたのである。

 表現力に富み、強い技術を持つマルケスと、芸術性に富みながらどこか存在感が希薄なプートロフは、これまで身体的特徴以外では、全くそぐわないペアだと言われてきた。だがこの作品のクライマックスで、二人が見せた激情により、この2人が現在『ロミオとジュリエット』に必要不可欠なペアであることを見事に証明して見せたのである。

マルケス、プートロフ
 当日は、キャピュレット卿をギャリー・エイヴィスがつとめ、中世ヨーロッパの名家の家長らしい存在感を見せたほか、ベンヴォーリオ役の蔵健太もソロの華やかな跳躍など印象に残った。スティーブン・マックレーはマンドリン・ダンスのリードで空を切り裂くような跳躍と、見事な足さばきを見せ、彼ら脇役たちの活躍も主役2人と共に心に残った。

 11月16日は、現在バレエ団のスターであるロッホとアコスタが主演。全団員と共に後世に長く語り継がれるであろう素晴らしいパフォーマンスを見せた。
 当日のマキューシオ役はホセ・マルティン、ベンヴォーリオ役は佐々木陽平。

 幕開きから主役、準主役のみならずロイヤルの全アーティストから「ただならぬ熱気」が漂い、アコスタがランベルセや旋回技に柔軟性や見事なまでのコントロールを見せれば、ホセ・マルティンもピルエットのスピードを緩急自在にコントロールしたあげく、フィニッシュで長々としたバランスを披露。元来表現に優れるロッホが、迫真の演技にオリジナリティーをこめれば、アコスタも負けじと激情をほとばしらせてみせる。全アーティストが一丸となって、後世に残る入魂の舞台を作り上げようとしていた。

 当日はBBCがこのクリスマスに放映するテレビ番組用に、同配役の公演を収録した3回のうちのメインの日だったのである。この公演はテレビ放映後DVD化されるという。日本の皆さんがロイヤルのダンサーたちの名人芸をお楽しみになれる日もそう遠いことではないだろう。

ロベルタ・マルケス ロッホ、アコスタ ロッホ、アコスタ
※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。

 

Copyright チャコット株式会社 All Rights Reserved.  
当サイトに掲載されている情報の無断転載、無断掲載、無断引用 はお断り致します。