アンジェラ・加瀬 text by Angela Kase
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11日からは中世イギリス王の一生を描いた『エドワード2世』を上演した。これは幼馴染のギャベストンを偏愛し、遊蕩にふけるばかりで政治に見向きもしなかった同性愛の王の、戴冠から廃位、処刑までを描いた歴史大作である。
賢王と呼ばれた父の死後、王位についたエドワードは、フランスから后を迎えるが、興味を示さず、同性愛の恋人ギャベストンを重用、父の代からの忠臣、教会をも愚弄する。夫である王に不満を募らせる王妃イザベラをモーティマー伯が誘惑、イザベラの許可を得てランカスター伯をはじめとする貴族と共謀しギャベストンの首をはねて殺害するまでを描く1幕。
王妃との間に世継ぎが生まれ、ギャベストンに代わる新しい男性の恋人デスペンサーも得て一見幸せな暮らしは、王に刃を向けたイザベラ率いる反乱軍によって無残にも打ち砕かれる。息子の命と引き換えに王位を手放し、廃位させられた王には恐ろしい方法の処刑が待っていたという2幕。
史実とはいえ同性愛、不倫、誅殺、処刑といった衝撃の内容であったためか、振付にビントリー、オリジナル・スコアにジョン・マッケイブ、衣装にジャスパー・コンランという英国を代表するアーティスト3人が腕を振るいながらも、ドイツのシュトットガルト・バレエ団によって現地で世界初演され、英国初演は2年後の97年であった。
エドワードと男性の愛人2人、王を亡き者にしようとする貴族たちが多数活躍する非常に男性的なバレエであり、主役エドワード、イザベラ共に舞踊技術とそれ以上に演技力が必要とされる。バレエ団のダンサー、主として男性陣の充実なくしては上演が不可能な作品である。
今回ビントリーはエドワード役に、日本でも人気のフリーランス・ダンサーのロバート・テューズリーを、ギャベストン役にはロイヤル・バレエ団よりファースト・ソリストのマーティン・ハーヴェイを招くことによって集客力に優れた3キャストを構成した。
ロバート・テューズリー
テューズリー、シングルトン
テューズリー、シングルトン
全キャストを観る。
初日はエドワードにマッケイ、イザベラ役にウィリス、ギャベストンにマーティン・ハーヴェイ、モーティマー伯にアントヌッチ、ランカスター伯を曹馳が踊った。
2日目はエドワードにテューズリー、イザベラ役を佐久間、ギャベストンをタイロンン・シングルトン。
土曜の昼はエドワードに演技派の新人ジェイミー・ボンド、イザベラ役をヴァロ、ギャベストンを曹馳が踊った。
3キャストはそれぞれが異なった魅力を放ち、9年ぶりに上演されるこの作品の全貌を余すところなく伝え、飽きなかった。
舞踊技術と演技力の充実という意味では2日目のテューズリー、佐久間、シングルトン組が抜きん出ていた。テューズリーとシングルトンは男同士のデュエットを、これまでこの作品を踊ったペアの中で最もダイナミックに表現。佐久間は、バーミンガムでのこの作品公演中に相手役と接触し、目を傷めるというアクシデントがあったが、舞台を降りず踊りきり、ロンドン公演中もイザベラ役に女優としての資質を存分に披露してみせた。
ロバート・テューズリー
佐久間、グルンディー
ロジャース、テューズリー
ロバート・テューズリー
ロジャース、テューズリー
ロバート・テューズリー
陰謀や裏切り、血の匂いでむせかえるようなこのバレエの中で、最も平和な場面といえば2幕目の冒頭。ギャベストンの死から月日がたち、世継ぎと新しい男性の恋人に恵まれたエドワードが、息子とその家庭教師、恋人と踊るシーンである。これまでタイトル・ロールを踊ったすべての男性ダンサーが「幸せ」を表現するこの場面で、独自の役作りを見せたのが新人のボンドであった。
ボンド演ずるエドワードは生涯の恋人であったギャベストンの死により「廃人」と化している、という解釈で何を見ても心楽しまず、ギャベストンを死に追いやった妃イザベラを許していない。
シェイクスピアの国、世界の演劇大国イギリスでは、バレエもまた非常に演劇的作品が多い。ロイヤル・バレエ団とバレエ学校創始者であるド・ヴァロワ女史の『道楽者のなりゆき』や、マクミランの『マイヤーリング』『マノン』そしてビントリーの『エドワード2世』などの主役、準主役には、何よりも俳優・女優としての優れた資質と演技力が必要とされる。
テューズリーと佐久間の他、独自の役作りが印象に残るボンド、夫に刃を振るう王妃イザベラを魅力的に演じたヴァロ、初日にイザベラの愛人モーティマー伯を踊ったアントヌッチ、明智光秀のような役柄のランカスター伯爵とギャベストンに演技力を振るった曹馳らは、ビントリーの抜擢に期待以上の働きを見せ、ロンドンの観客をも唸らせたのである。
謀反軍
謀反
ギャベストン(シングルトン)
佐久間、グルンディー
テューズリー
ギャベストンの首を討つ
テューズリー
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