守屋光嗣 text by Koji Moriya
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夏のバレエ・シーン@ロンドン
今夏のロンドン、ミラノ・スカラ座バレエ団と、昨年に続いて2年連続でボリショイ・バレエ団が訪れた。どちらのカンパニーも評論家、バレエ・ファンから注目を集め、ロンドンのバレエ・シーンを大いに盛り上げた。都合でどちらの舞台も全く観ることが出来なかったので、主に新聞に掲載されたレヴューを中心に紹介する。
『眠れる森の美女』
スカラ座バレエは、ルドルフ・ヌレエフによる『眠れる森の美女』(1966年)を上演した。舞台装置や衣装については、絢爛で見応えがある、との高い評価を得ていた。しかしながら、バレエ公演としては、イギリスの評論家からは厳しい見方をされていた。
まず、ヌレエフの振付家としての評価が芳しくなかった。各紙からの指摘をまとめると:「このプロダクションの制作当時、ヌレエフ自身が経験を積んだ振付家ではなかったためにある失敗をした。マリウス・プティパのオリジナルを残そうとした意思は見える。だが、一方で、ヌレエフ自身が取り入れたかったものをすべて詰め込んでしまったために、構成に無理がある。例えば、第2幕のデジレのヴァリエーションは、ダンサーの身体的能力の限界をはるかに超えるものではないか」。
さらに、スカラ座バレエ団への見方も厳しかった。ヌレエフによる振付が、ダンサーに要求することが高いことが判ってそれを持ってきたにしては、現在のカンパニーの水準が、それをこなせる状況ではなかった、と。 数年前のロンドン公演では、シルヴィ・ギエムが再構築した『ジゼル』を上演したスカラ座バレエ団。その際は、ギエムと、アルブレヒトを踊ったマッシモ・ムッル以外のダンサーへの評価もかなり高かったように記憶している。今回は、ロンドンで何度も踊っているムッルやロベルト・ボッレが参加していなかった。ダンサーへの苦言を読んだ上での推測になるが、現在、いわゆる「客を呼べる」スター・ダンサーが不足している、そんな印象を持った。
イギリスのバレエ・クリティクから手厳しい評価を突きつけられたスカラ座バレエとは対照的に、2年連続のロンドン公演にもかかわらず、ボリショイ・バレエ団の3週間にわたる公演は昨年同様、もしくはそれ以上の高い評価を得た。
公演が始まる直前、ボリショイ・バレエ団に関して興味深い特集記事があった。記事によると、ソ連崩壊後に起きた経済的混乱がさほど昔のことでないにもかかわらず、現在のボリショイは、恐らく世界で最も予算が潤沢にあるバレエ団であろうとのことだった。これまでのレポートでも何度か触れたが、現在、イギリスにはロシアのビリオネアーが押し寄せてきている。そのようなビリオネアー二人が、ボリショイに多額の寄付をしていること、また、故ボリス・エリツィン大統領がバレエ団を国家として資金的に援助する方針を決めたことが、現在のカンパニーの予算を強力にバックアップしているそうだ。2012年のロンドン・オリンピックの影響で予算が削られ、資金難にあえぐイギリスのパフォーミング・アーツの団体には、とても羨ましい話だろう。
そのような状況であれば、予算がおよそ£100万(2億5千万円)といわれる新しいプロダクションの『海賊』を制作することも可能。ロンドン公演の数週間前に本拠地モスクワで初演となった『海賊』は、ダンサーを中心に160人の登場人物、衣装の数は500着を超える。さらに、舞台で使われた船は11メートルの長さ、その総重量は1トンだそうだ。この重さのために、会場となったロンドン・コリシアム劇場は、ステージを補強したとのこと。
『海賊』
3週間のロンドン公演の初日を飾った新しい『海賊』は、新しくなったとはいえ、バレエ・ファンであればご存知の物語は、「荒唐無稽」のままだったそうだ。ホッとする。今回の公演は他に、『ラ・バヤデール』、『スパルタクス』、『ドン・キホーテ』、「トリプル・ビル」、そして『明るい小川』が上演された。いずれの作品も、現在のカンパニーの絶好調さを余すことなく表現できる演目ばかりだったのではないかと思う。
興味を惹かれたのは、ダンサーの評価。世代交代が続いていると思われるボリショイにおいて、今のカンパニーを代表するプリマ・バレリーナであるスヴェトラーナ・ザハロワへの評価が、昨年と比べると少しばかり辛口だったように感じた。技術は確かに素晴らしい。しかしながら、メドーラ(海賊)、ニキヤ(ラ・バヤデール)を踊っても、舞台にいるザハロワからはその役が浮かび上がってこない、という指摘を何度か目にした。本国での彼女への評価のポイントが、どのようなものなのかは知らない。文化の違いがあることを考慮しても、バレエ・ダンサーの演技力を重視するイギリスらしい意見のように感じた。
さらに、現在のボリショイは、女性優位にあるようだ。セルゲイ・フィーリン、ニコライ・ツィスカリーゼ、デニス・マトヴィエンコなど、男性プリンシパル・ダンサー以外に取り上げられた男性ダンサーは、若干18歳にしてバジルを踊った、イヴァン・ヴァシリエフくらい。逆に女性ダンサーは、プリンシパルからコール・ドに至るまで煌く才能がしのぎを削っているようだ。昨年も注目を集めたアンナ・ニクーリナ、エカテリーナ・クリサノワの名前は何度か取り上げられていた。中でも、昨年、キトリでロンドンのバレエ・ファンに将来「伝説」になるであろうと言わしめたナタリア・オーシポワは、『ドン・キホーテ』、『明るい小川』、『イン・ジ・アッパールーム』(トワイラ・サープ振付)で、趣の全く違う作品で手放しの評価を得ていた。
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