守屋光嗣 text by Koji Moriya
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エリザベス女王誕生日を祝うガラ公演
エリザベス女王の誕生日は4月だが、公式行事は6月に行われる。女王はロイヤル・バレエのパトロンなので、6月8日に女王とフィリップ殿下を招いての特別ガラ公演が催された。
会場に行っていささか拍子抜けだったのは、セキュリティ・チェックは厳しかったが、特別な飾りつけなど一切なかったこと。
ゴールデン・ジュビリーの年に亡くなった女王の妹、マーガレット王女が芸術、特にオペラやバレエを好んだのとは対照的に、エリザベス女王は芸術には余り積極的でないのはよく知られている。が、今年はミュージカルの『ビリー・エリオット』を観劇するなど、バレエ観劇の準備はできていたのではないだろうか。
この夜は、アシュトンの『ラ・ヴァルス』で始まり、最後は『オマージュ・トゥ・ザ・クィーン』で締めくくられた。間にディヴェルティスメンツがあったのは前後の日と同じだが、内容は、バーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)からもダンサーが参加するこの夜のための特別なものだった。唯一、スカラ座バレエから参加したロベルト・ボッレは、女王即位50年のときのガラ・コンサート(BBCで生放送された)で、バッキンガム宮殿のボール・ルームでセナイダ・ヤナウスキーと黒鳥のパ・ド・ドゥを踊ったので、縁がなくはない。
印象に残った点を幾つか。最初の『ナーサリー・スィート』は、1986年、エリザベス女王60歳の誕生日を祝ってアシュトンが振付けたもの。音楽はエルガー。描かれているのは、幼い頃のプリンセス・エリザベスとプリンセス・マーガレットが、フープやボールを使って一緒に遊んでいる、というもの。これもまた女王のために、というものだが、少々古く感じた。
『二羽の鳩』では、バーミンガム・ロイヤル・バレエの佐久間奈緒の表現力、踊りが光っていた。本当に短いパ・ド・ドゥの中での、細やかな表情の変化はここにもアシュトンのバレエを美しく踊れるダンサーがいる、という事を観客に納得させるものだった。
コジョカルとコボーが踊った『トゥー・フットノーツ・トゥ・アシュトン』は昨年リンベリー劇場で初演されたもの。音楽は、グルックのオペラのアリアからで、今回はロイヤル・オペラの若手歌手育成プログラムの中で最も注目を集めているアメリカ人ソプラノ歌手、ケイティ・ヴァン・クーテンが生で歌った。昨年観たときから、「これはメインの舞台にもっていっても充分にアピールするだろう」と思っていたが、その通りだった。コジョカルとコボーの牧歌的ながら、エロティックな雰囲気を醸し出すパ・ド・ドゥは、舞台上に絵を描いてみせた(
2005年7月号で、船引さんの素晴らしいレポート
と一緒に写真もご覧になれます)。
こういった演目を寄せ集めたガラにありがちだが、どうしても舞台への求心力が弱かったのだが、最後の3演目で、漸くお祝い気分が盛り上がった。
恐らくギエムが自分で選んだであろうマリファントの『Two』。他の演目から浮いてしまうのではないかと思っていたが、彼女のカリスマティックな踊りは、普段はコンテンポラリーなど見ないと思われる観客を大いに沸かせた。続く『海賊』で、あたかもギエムが擦ったマッチを使って、ダーシー・バッセルとカルロス・アコスタがケーキのろうそくに火を灯したようだった。
ロイヤル・バレエはおろか、世界中でも、アコスタと同じくらいの技術を誇るダンサーはそう多くないだろう。アコスタが舞台に出てきた瞬間から、今夜は絶対に凄いものを観ることができる、という確信をもった。アコスタが空を翔けあがるかのごとく高い跳躍をするたびにロイヤル・オペラ・ハウスにいた観客全員が同時に息を呑み、同時に大きくどよめく。更にアコスタに刺激されたのか、それとも引き出されたのか、バッセルの踊りも彼女が舞うたびに舞台に宝石が降り注いでいるのでは、と思うくらい輝いていた。彼女の技術に言葉もなく圧倒されたのは初めてのように思う。
ディヴェルティスメンツを締めくくったのは、『ラ・シルフィード』からリール。夏はスコットランドで過ごすエリザベス女王にとって、馴染み深いものだったのではと想像する。
最後の『オマージュ・トゥ・ザ・クィーン』が終わると、ロイヤル・バレエ・スクールの生徒とダンサー達が舞台上に。モニカ・メイソン女史からのコメントのあと、全員で「ハッピー・バースデー」を。金色の紙ふぶきが舞う中、女王の嬉しげな微笑で閉じた夜だった。
演目
振付
ダンサー
所属
ナーサリー・スィート
フレデリック・アシュトン
Olivia Cowley
Emma Maguire
RB
二羽の鳩
フレデリック・アシュトン
佐久間奈緒
Chi Cao
BRB
ラプソディー
フレデリック・アシュトン
吉田都
フェデリコ・ボネッリ
RB
Two Footnotes to Ashton-1
キム・ブランズト
アリーナ・コジョカル
ヨハン・コボー
RB
The Lady and the Fool
ジョン・クランコ
エリシャ・ウィリス
ロバート・パーカー
BRB
Checkmateから
Black Queen solo
ニネッテ・デ・ヴァロワ
セナイダ・ヤナウスキー
RB
ウィンター・ドリームス
ケネス・マクミラン
タマラ・ロホ
ロベルト・ボッレ
RB
Two
ラッセル・マリファント
シルヴィ・ギエム
RB
海賊
マリウス・プティパ
ダーシー・バッセル
カルロス・アコスタ
RB
ラ・シルフィード
からREEL
オーグスト・ブルノンヴィル
ヴィァチェスラフ・サモドゥロフ
ベサニー・キーティング
マーティン・ハーヴェイ
RB
サドラーズ・ウェルズ劇場の秋のプログラム
6月5日に、サドラーズ・ウェルズ劇場の9月から2007年1月までのプログラムが発表、発売された。だいたいどの演目も1週間足らずしか上演されないので、せっかくロンドンまで行くのだから、たくさんのパフォーマンスを観たいと考えている皆さんにはちょっと難しい選択かもしれない。が、この秋は特にバレエ/ダンス・ファンにとってはかなり目移りするプログラムが並んでいる。
メイン・ステージに限ると、まず、例年急に肌寒くなるロンドンの9月に、南国の輝く太陽をもってくるであろうキューバ国立バレエが昨年8月に続いて2演目上演する。今回の全幕は『ドン・キホーテ』。まさに彼らの実力・魅力を存分に発揮できる演目だ。10月後半には、バーミンガム・ロイヤル・バレエが「ストラヴィンスキー・プログラム」とマクミランの『ロミオをジュリエット』を。11月にはオランダ国立バレエが。更に、ロイヤル・バレエのファンから注目を集めそうなのが、11月28日から12月2日までの、ダーシー・バッセルとイゴール・ゼレンスキーの公演。新作も上演される予定だが、なんと言っても二人によるローラン・プティに興味が引かれる。バッセルがプティをどう演じるのか?
コンテンポラリーでは、9月のシルヴィ・ギエムとアクラム・カーンのコラボレーション(世界初演)、それとザ・フォーサイス・カンパニーの公演(イギリス初演プログラム)に注目が集まるのは確実。
http://www.sadlerswells.com/downloads/sw_brochure_autumn06.pdf
(PDFファイル)
ロイヤル・オペラ・ハウスのバック・ステージ・ツアー
今やバレエ・ファンにとってはロンドンの観光スポットして定着した感のある、ロイヤル・オペラ・ハウスのバック・ステージ・ツアー。運がよければ、練習に来ているダンサーを観ることが出来るのだから、人気が高いのも頷ける。
が、そこはイギリス、と言っても差し支えないだろう。8月21日から3週間は、「夏休み」ということでこのツアーは行われない。この時期にロンドン訪問を考えているバレエ・ファンの皆さん、日程の確認をお忘れなく。
http://info.royaloperahouse.org/Home/
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