守屋光嗣 text by Koji Moriya
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「レイクス・プログレス」ミックス・プログラム

 ニネット・ド・ヴァロワがロイヤル・バレエを創設して75周年。その節目のシーズンの最後に上演されたミックス・プログラムは、「イギリス」を代表するバレエ・カンパニーの歴史だけでなく、「イギリス」バレエの歴史と変遷を饒舌に語るものだった。プログラム全体としてはやや散漫な印象を拭えなかったが、恐らくイギリスでしか上演されないであろう演目もあって、バレエ・ファンとして興味深く、更に楽しいプログラムだった。

●ザ・レイクス・プログレス

18世紀に活躍したイギリス人画家、ウィリアム・ホガースの代表作の一つである「A Rake's Progress(放蕩一代記、1735年)」を元に、ヴァロワが1935年に振付けたもの。大本の絵は、8枚の連作からなっている。資料から察するに、音楽とシナリオを担当したギャヴィン・ゴードンが恐らく原作の第5図と7図を外し、残りの6枚を元に6つのシーンからなる1幕物のバレエをヴァロワは創作した。

 物語は、父の死により莫大な遺産を相続し、Rakewell家の当主となったRake(道楽者の意、原作ではTom)が放蕩の限りをつくし、賭博に溺れ、借金を返すことが出来なくなり、挙句に最後は精神病院に収容される、というもの。ホガースの意図としては、字が読めない階級の人々に、道徳観を啓発させる目的でそれぞれの絵の中にたくさんの要素を描きこんだ。

レイクとフェンシング・マスター


レイクとフェンシング・マスター

「狂乱の場」から

「狂乱の場」から

 普通にバレエをイメージすると、古典バレエからも、モダンバレエからもかなり印象が異なる振付だ。所々複雑なステップがあるが、どちらかというと原画の物語を舞台化するためのマイムのほうが雄弁との印象が強いだろう。また、ホガースの原画とその意図を知らないと、登場人物の役割や時代設定をすんなりと理解するのは、イギリス人以外にはかなり難しいのではないかと思う。


最終シーンから
 そんな印象を差し引いても、このバレエの興味深い点は、イギリス・バレエを語る上でよく使われる「物語」バレエの原点ではと思えるところだ。ホガースの原画では、絵の隅に描かれている名もない人物でさえ、絵が伝えようとしている話を成り立たせる大事な要素。同様にアシュトンやマクミランの振付でも、舞台にいるすべての登場人物が物語りの要素として主題に説得力をもたせている。主役だけでなく、脇役からすら目を離せない。離した隙に物語の魅力が半減してしまう、結末になってすべての要素が結びつく面白さと醍醐味を逃してしまう。『ザ・レイクス・プログレス』はそんなイギリス・バレエの原点のような振付といえるだろう。

 ファースト・キャストは道楽者にヨハン・コボー、彼に裏切られた少女をラウラ・モレーラ。セカンド・キャストはヴィァチェスラフ・サモドゥロフとベリンダ・ハトレー。モレーラは、幸薄い、しかし情の厚い少女を完璧といってもいいくらいの踊りで表現した。充実した今シーズンを、素晴らしい踊りでモレーラは締めくくった。

 コボー、サモドゥロフとも、明確に定義しづらい役をそれぞれの解釈でよく表現していたと思う。コボーからは正常と狂気の境を行き来する苦悩を、サモドゥロフにはなす術なく欲と金に飲み込まれていく無力感を感じた。ひとつ、重箱の隅をつつくと、コボーは踊っている間に取れてしまったのかもしれないが、原作の絵で重要なポイントのほくろがなかったのがちょっと残念だった。


「狂乱の場」から

「狂乱の場」から

最終シーンから
 

 

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