守屋光嗣 text by Koji Moriya
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『ロミオとジュリエット』:ギエムの去就について噂が飛び交う中で

 ここ数年、マノン、マルグリット、ナタリア(A month in the country)そしてジュリエットを踊るたびに、「この役をギエムが踊るのは最後だろう」といわれているシルヴィ・ギエム。今回、彼女がジュリエットを踊る数日前に、2006/07のロイヤル・バレエのプログラムが発表され(後述)、それを受けて「とうとうシルヴィ・ギエムがロイヤル・バレエを去る日がきたか」、との観客の不安が渦巻く中、4月1日と7日、ギエムとカンパニーは素晴らしい舞台を作り上げた。ロミオは怪我で降板したニコラ・ル・リッシュに代わり、ミラノ・スカラ座からマッシモ・ムッル、リカルド・セルヴェラがマキューシオ、ティボルトにウィリアム・タケット。パリスはルパート・ペネファザー。

 タマラ・ロホとカルロス・アコスタの初日のレヴューの中で、ある批評家が面白い点に言及していた。キャピュレット夫人を演じたキャラクター・ダンサーが、当時の女性の境遇をまざまざと描いていたと。つまり、自由な恋愛を許されず、政略結婚の末に自分の立場を守るためには、子供、特に男子をなすことが自分のアイデンティティの確立につながる、と。その不条理さ、不公平な立場に甘んじなければならない女性の境遇を理解し表現していた、とのこと。
 この考えは、舞台を、そしてそれぞれのダンサーが演じるキャラクターを見る視点に深みを与えてくれたように思う。両夜とも、キャピュレット夫人を演じたエリザベス・マクゴリアン、乳母を演じたジェネシア・ロサート(ともにプリンシパル・キャラクター・アーティスト)は、立場は違えども、女性である限り人生を自分の意思で全うする自由がないという諦めにも似た感情を抑制の効いた演技、存在感で表現していた。

 そして、ジュリエットもその運命からは逃れられなかった。逃れられないことに甘んじることが出来なかったのがジュリエットの運命だった、そんな厳しく、一瞬だけ光り輝き、人生を駆け抜けていったジュリエットをギエムからは感じた。
 パリスに初めて紹介されたとき、ジュリエットは自分の胸のふくらみの意味を理解するすべがなかった。ロミオと遭遇し、乳母に「彼はモンタギュー家のロミオ」と知らされても、それが自分の人生にどんな意味があるのか理解できないまま、ロミオの姿を追いつづけるジュリエット。

 そして、ロミオと一夜を過ごしたジュリエットを待っていたのは、権力を振りかざすだけの父親とパリス、その権力に従うように説得するだけで、ジュリエットを受け入れることを許されない母と乳母。裏切られ、また自分の無知に憤るジュリエット。最後、ナイフで自分の胸をついたジュリエットは、まるで自分が死ぬとは思っていなかったかのようだった。
 ギエムだけでなく、すべてのダンサーが、人生を楽しみ、厳しい境遇を笑い飛ばし、人生を嘆き、悲しみに身を貫かれ、怒りに我を忘れ、そして舞台で輝いた夜だった。


ロイヤル・バレエの2006/07シーズンのプログラム発表

 3月下旬に、ロイヤル・バレエの2006/07シーズンのプログラムが発表された。今シーズンに引き続き、カンパニー創立75周年を記念するプログラムが注目を引く。

10/5〜16 ストラヴィンスキー『ヴァイオリン・コンチェルト』/『ヴォランタリーズ』/『シンフォニエッタ』(ロイヤル・オペラ芸術監督のアントニオ・パッパーノが指揮の予定)
10/13〜11/4 『コッペリア』
10/28〜12/20 『眠れる森の美女』
11/17〜29 『フォー・テンペラメンツ』/クリストファー・ウィールドン新作/ウェイン・マクレガー新作
12/13〜1/13 『くるみ割り人形』
1/15〜2/7 『ラプソディー 』/『ラ・シルフィード』
1/17〜20 『ナポリ』(ディベルティスメント)/『ラ・シルフィード』
2/4〜2/27 『白鳥の湖』
3/5〜24 『アポロ』/アリスティアー・マリオット新作/『テーマとヴァリエーション』
3/16〜4/10 『オネーギン』
4/9〜5/7 『マイヤリンク』
4/26〜5/9 『La Fin du Jour』/『七つの大罪』(ウィリアム・タケット新作)/『Pierrot Lunaire』
5/12〜6/1 『白鳥の湖』
6/2〜8 『チェック・メイト』/『シンフォニック・ヴァリエーションズ』/『大地の歌』

創立75周年記念公演は、『コッペリア』、『眠れる森の美女』、11月のミックス・ビル、そしてシーズン最後のミックス・ビル。11月のミックス・ビル以外は、カンパニーの歴史の中で重要な位置をしめる演目ばかり。特に、シーズンの締めくくりに、ヴァロワ、アシュトン、マクミランを集めている所に今でもこの3人の振付がカンパニーにとっていかに大事なものかを物語っている。

 世界初演の4作品が登場。最近、新作バレエに恵まれない印象のロイヤル・バレエだが、来シーズン一気に4作品の世界初演を予定している。4人とも既にカンパニーに振付けている。注目を集めそうなのは、ウィールドンとマックレガーだろうか。ちなみに、この二つの新作を含むミックス・ビルのチケットは格段にお手ごろ価格。

 この他、チャイコフスキー3大バレエが1シーズン中に上演されるという驚きもある。また、リンベリー・シアターでの3作の再演を含めて、ウィリアム・タケットの作品が4作上演されるのは、彼のファンにとってはどれを見にロンドンに来るべきか悩ましい所だろう。
一方で、過去2シーズン、多くの観客を魅了し、カンパニーを上昇気流に乗せたフレデリック・アシュトンの作品がたった2演目しかなく、バランシンが4作というのは極端すぎるように思う。さらに、ここ数年、カンパニーを引っ張ってきたダーシー・バッセル、リアン・ベンジャミン、吉田都といった経験豊かなダンサーがどれだけ全幕に起用されるのかが不透明という状況は、多大な貢献をしてきた彼らに誠実でない印象をもってしまうのだが。ありきたりの言い方をすれば、ある時代の終焉を感じさせるプログラムのようにも感じられる。

http://info.royaloperahouse.org/News/Index.cfm?ccs=971
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『The Royal Ballet: 75 Years』発売

 The Independent紙のバレエ・クリティック、Zoe Andersonによる、ロイヤル・バレエの75年の歴史をまとめた本が4月20日に出版された。写真はそれほど多くないが、カンパニーの歴史を知るには、とても判りやすい本だ。ボリショイ・バレエや、パリ・オペラ座バレエと比べるとロイヤル・バレエ団の歴史は短いが、どのような過去の栄光の時代と困難をくぐり抜けて今のカンパニーがあるのかが簡潔に書かれている。

 

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