守屋光嗣 text by Koji Moriya
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『バレエ・インペリアル』、ミックス・プログラム

 当初予定されていたジョナサン・コープの事実上の引退公演となるはずだった『火の鳥』は、本人が交通事故に遭ったために、コープは降板。さらに、2月12日に催された「マイヤ・プリセツカヤ80歳記念ガラ公演」で、プリンシパルのイワン・プトロフが舞台上で怪我をするなど、結果として波乱含みのプログラムになった感がある。
 初日の2月4日、それと6日を観てきたが、プログラムの4演目とも別のキャストで観ることができ、同じロイヤルのダンサーでも、資質の違いはこんなにも大きい、と言うことを実感した。ちなみに4日の公演は、1月31日に80歳で亡くなったモイラ・シアラーに捧げられた。


『バレエ・インペリアル』
バランシーンが1941年に振付けた1幕物。ロンドン初演は1950年4月5日で、プリマはマーゴット・フォンテイン。余談になるが、ロイヤル・バレエ(オペラも)のプログラムは薀蓄に富んでいて、読み物としても大変面白い。今シーズンはオペラのプログラムが6ポンド、バレエが5ポンドと決して安くは無いが、作品の歴史やバックグラウンドを詳しく知りたい方にはお勧めだ。

 初日の4日は、ダーシー・バッセル、ルパート・ペネファザー、ゼナイダ・ヤナウスキー、6日は、アリーナ・コジョカル、フェデリコ・ボネッリ、サラ・ラムが主要3役にキャスティングされていた。コスチュームは、アンソニー・ダウエルが芸術監督時代に再演した時に、オリジナルを再現したものが使われた。
 正直、振付け自体は、中盤やや散漫な印象を受けた。またつまらないことだが、プラチナ・ブロンドのウィグが似合わないのは、何も日本人ダンサーだけではないことが判った。2日とも、コール・ドの動きがややぎこちなく見えたのは、上演が久しぶりで踊りなれていなかったのではないかと思う。
 ペネファザーは、既にバッセルのパートナーとして何度か組んでいるので、彼女へのサポートは、もたつくことも無く安心して観ていられるものだった。昨年末のThe Sunday Timesに掲載されたインタヴューで、ジョナサン・コープから素晴らしい指導を受けていること、またそれによって踊ることがさらに楽しくなっていると答えていた。彼がキャリアの転機としてあげていたのが、数年前にシルヴィ・ギエムにじかにかけあって彼女がジュリエットを踊るときのパリス役を勝ち取ったことらしい。春以降は余り大きな役にはキャスティングされていないようだが、もしかすると、『ロミオとジュリエット』で準主役級の役を踊るのではないかと思う。

バッセルとペネファザー

 バランシーンの『フォー・テンペラメンツ』や『放蕩息子』で既に素晴らしい踊りを披露しているヤナウスキーだが、この夜は、自身のソロパートの細かいステップに少々てこずっていた印象を受けた。が、コール・ドの中心で、彼女たちを率いて踊るヤナウスキーの姿は、凛々しいのひとこと。
演目終了直前になって気付いたのだが、バッセルとヤナウスキーがクラシック(またはネオクラシック)バレエで、二人同時に舞台で踊る場面を観たのは恐らく初めてだったように思う。2シーズン前の『ラ・バヤデール』ではバッセルがニキヤ、ヤナウスキーがガムザッティに予定されていた。が、このときはバッセルが第2子を身ごもっていたので、実現しなかった。ヤナウスキーはある雑誌の最近のインタヴューで、ギエムとバッセルがいたから彼女のように身長の高いダンサーが活躍することができる。それほど遠くない将来、背の高い女性ダンサーは彼女ひとりになってしまうかもしれないが、背が高くてもバレエを踊れることをアピールしていきたい、と語っていた。演目の終盤、バッセルとヤナウスキーが、同じ舞台でお互いの輝きを増すように踊るシーンは、ロイヤル・バレエの歴史に残るべき美しいものだった。


ダーシー・バッセル

バッセルとペネファザー

コール・ド・バレエ

初日、もう一人印象的だったのは、ファースト・ソロイストのラウラ・モレーラ。舞台上の姿がいつも清楚で、カリスマティックな感じではないし、大きな役がつくことも最近減っているように思われる。が、この夜、完璧にコントロールされた彼女の腕の動きの美しさは、際立っていた。
そして、バッセル。前半はおとなしめの動きだったように思う。が、後半に向けて集中力が高まっていくのがよく判った。どの動きも音楽の旋律から外れることなく、またフィリップ・ギャモンによるソロ・ピアノとのシンクロぶりからは、ロイヤルのプリマ・バレリーナは彼女だと思わずにはいられなかった。来シーズン以降もゲストとして踊る予定とはいえ、矢張り、惜しい。 二日目のコジョカルは、今シーズンの好調ぶりが続いている様子。ただ、履き慣れたシューズで踊りたい、と言うのは理解できなくもないが、履きつぶれる直前と思しきシューズは興が削がれる。マネジメント側に考えて欲しい点。



バッセルとペネファザー

ヤナウスキーとコール・ド・バレエ

『牧神の午後』
 1912年、ニジンスキーが創作した『牧神の午後』をもとに、ジェローム・ロビンズが1953年に振付けたもの。ロイヤル・バレエでの初演は1971年12月だが、今回の再演は随分と久しぶりとのこと。

 客席に向けてバレエのリハーサル室。その床に男性がまどろんでいる。やがて起き上がり、壁(客席側の空間)の鏡に映し出される自分の動きをナルシシスティックに見つめる。リハーサル室に少女が入ってくる。彼女も鏡に写る自分の動きを追っている。少女に近づく男性。そして、彼女の右頬に優しく口付ける。少女は夢を見ているような表情のまま部屋を出て行き、男性は再びまどろみ始める。


サラ・ラム

ラムとアコスタ
 初日は、カルロス・アコスタとサラ・ラム。6日はイワン・プトロフとロベルタ・マルケス。技術的には難しい振付ではないだろう。問われるのは、ダンサーの資質と解釈ではないかと思う。アコスタとプトロフ、全く異なるタイプだが、感情表現の繊細さ、自己陶酔的な動きからは、振付を自分のものとしている印象だった。
 仮に、ロビンズの振付の意図がスコーンと抜けきった明るい青春、ということであればラムの演技は、完璧。ただ、オリジナルが持っていたであろう、感情の細やかなぶれを表現できていたとは感じられなかった。ラム同様、ロイヤルのダンサーとしては「新人」になるマルケスだが、彼女のニュアンスに富んだ視線は、鏡と彼女の間、彼女と男性の間でおきている感情の起伏の全てを映し出していた。本人が強く希望していた「ジュリエット」を病気で降板したのがなんとも惜しまれる好演だった。

アコスタ

アコスタ

ラムとアコスタ
 

 

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