船引怜美 Text by Remi Funabiki
> >

●イングリッシュ・ナショナル・バレエのヌレエフ版『ロミオとジュリエット』

イングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)が『くるみ割り人形』の上演に引き続き、ロンドン・コロシアムでルドルフ・ヌレエフ版『ロミオとジュリエット』を上演しました(2005年1月11日〜15日)。
27年前の1977年ルドルフ・ヌレエフがENB(当時ロンドン・フェスティバル・バレエ)に創作した『ロミオとジュリエット』は、初演以来ENBの人気プログラムとして上演を重ね、今回のロンドン・ツアー3日目の舞台は333回目の公演となりました。

ヌレエフ版の特徴はルネッサンスという時代背景の強調と、キュピレット家とモンテギュー家の激しい憎しみ/対立が鮮明に描写されていることです。それはまるで芝居を観ているようにパワーフルですが、恋愛物語と言うよりは全体的に血なまぐさく、重苦しい雰囲気が漂います。一方、町人たちの決闘シーン、乳母をからかうマキューシオとベェンヴォリオ、マキューシオの死に際などの演出は非常に子供っぽく、悪ふざけが過ぎているように思えました。貴族社会の重々しい雰囲気に対して若者たちの無知な行動やその姿、それらの描写のコントラストが物語をさらに悲劇的なものにするのかもしれませが、どこか好感を持つことができませんでした。

同じプロコフィエフの音楽でも、マクミラン版を観ている時とはまったく異なる音楽に聞こえてきます。シェイクスピアの原作に限りなく基づくように、マンチェアに追放されたロミオの元にロレンツォ神父からの手紙を届けるジョン神父が襲われるシーンなどいくつかのシーンが挿入されていますが、この追加的なシーンのために音楽の流れが崩されてしまっていることが個人的にはとても気になりました。音楽的とは言いがたいヌレエフの振付は「一体どういう感情からそのステップ/ムーブメントは出てくるのだろうか?」と問いかけたくなるほどに機械的で、時にはレッスンのアンシェヌマンに見えてくることもありました。もし現役時代のヌレエフでこの作品を観ることが出来たら、どれだけ爽快なことだろうか…と思われるアレグロジャンプやビーツ、ターンの連続は、特に男性ダンサーにとって想像を絶するテクニックの高さが要求されることでしょう。

ロミオを演じたヤット・セン・チャンはヌレエフ・ステップをクリアーに見せるほどに安定したテクニック、オフバランスに自然に流れる動きのなめらかさがとても印象的でした。異なるキャストではマキューシオを踊っているチャンは3枚目の雰囲気を残しながらも情熱溢れるロミオを演じました。ジュリエットを演じたシモーヌ・クラークはバーミンガム・ロイヤル・バレエ出身。彼女の表情豊かなアームス、気品溢れる表現力からはロイヤル・スタイルの香りがします。男性と同じ振りを同時またはユニゾン的に繰り返すヌレエフ特有の振付の中で、彼女のシャープなつま先、ポアントの音がまったく聞こえない動きの軽やかさが非常に印象的でした。

7月には『白鳥の湖』(デレク・ディーン版)に続く、円形劇場版『ロミオとジュリエット』(デレク・ディーン版)の上演がロンドン・ロイヤル・アルバート・ホールで予定されています。プロセミアムアーチの舞台とはまったく異なるスケールの円形劇場で、どのような『ロミオとジュリエット』が上演されるのか非常に期待されています。他にも、10月にはヨーロッパ初上演となる、ケネス・マクミラン版『眠れる森の美女』が予定されており、今後のENBの公演が注目されています。
(2005年1月13日、ロンドン・コロシアム、ロンド)

●ダーシー・バッセルが『ピラーティス・フォー・ライフ』出版

ロイヤル・バレエの大スター、ダーシー・バッセルがピラーティス・エクササイズを紹介する『ピラーティス・フォー・ライフ』を出版しました。ダンサーとしてのボディーコンディショニング(身体調整)、出産からの復帰や怪我のリハビリとしてピラーティスをロイヤル・バレエ・スクール時代から続けてきたダーシーが、そのエクササイズとその効果を紹介しています。

出産(2人目の子供)、そして足首の手術のために約1年半(2003年4月以降)舞台を離れていたダーシーが昨年10月マクミランの『レクイエム』とアシュトンの『シルヴィア』で果たした見事な完全復帰には誰もが驚嘆しました。「私が今まで身体のためにやってきたことで、ピラーティスが一番素晴らしいものだと思う」と、その完全復帰、そしてダンサーとしての身体維持の上で最も重要なものはピラーティスと、この本を出版することになったきっかけを話しています。
姿勢を保つ上で重要とされる身体の深部の筋肉強化に重点を絞り、身体全体的な筋肉強化、姿勢矯正などの効果で知られるピラーティス。とりわけダンサーにとってはエクササイズを通して筋肉のバランスを整え、身体の使い方/コントロール、身体感覚や知識を高めるものとして、リハビリだけではなく、怪我防止・ボディーコンディショニングとしてダンストレーニングに取り入れられています。
出産直後はピラーティスのみで身体を整え徐々に復帰を果たしたダーシー。通常はリハーサルや本番の合間に1時間半のセッションを週に2回ピラーティス・スタジオで受けていると言います。

この本で紹介されているのは、身体の中心部(コア)を鍛えるマットワーク・エクササイズを主にストレッチなどを含む約60のエクササイズ。その大部分はプリ・ピラーティス・エクササイズと呼ばれる非常にベーシックなエクササイズ(主としてリラクゼーションや関節・筋肉をほぐすことに焦点を絞った、入門的エクササイズ)で、ピラーティスの経験が無い人でも身体に無理をかけることなく始めることができます。すべてのエクササイズはダーシーのデモンストレーション写真付でとてもわかりやすく解説されています。ダーシーの鍛え上げられた身体を見るだけでも十分に楽しむことができますし、その他にもダーシーの家族も紹介されていて、ママ・ダーシーを見ることもでき、とても興味深い本です。

イギリスでも、ここ約10年間でピラーティスは急激に注目を集めるようになり、数え切れないほどの本やDVDが出版されています。その中でも、みんなの憧れとも言えるトップ・バレリーナ:ダーシー・バッセルのピラーティス本出版はとても注目されています。ここで私自身ピラーティス・インストラクターとして一つだけアドバイスしたいことは、これらの本やDVDは教師資格のあるインストラクターのクラスなどに参加しそこで習ったことを復習する形で活用されることが望ましいでしょう。たとえ簡単に見えるエクササイズでも、怪我をする恐れがあります。ダーシーも週に2回は指導者の下でクラスを受けていることを忘れないでください。(英国ピラーティス協会認定インストラクター:船引怜美)

『Darcey Bussell PILATES FOR LIFE A Practical introduction to the core programme』
著者:ダーシー・バッセル Darcey Bussell
出版社:Michael Joseph an imprint of PENGUIN BOOKS
出版: 2005年1月6日 ISBN: 0-718-14766-9

 

Copyright チャコット株式会社 All Rights Reserved.  
当サイトに掲載されている情報の無断転載、無断掲載、無断引用 はお断り致します。