船引怜美 Text by Remi Funabiki
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●アシュトン版『ラ・フィーユ・マルガルデ』のニュニアスとアコスタ

「アシュトン100セレブレーション」としてアシュトンの最高傑作の一つ『ラ・フィーユ・マル・ガルデ(リーズの結婚)』が1月19日からロイヤル・オペラ・ハウスで上演されています(4月2日まで上演予定)。
とある農村の若い恋人同士と親子の長閑な姿を描くアシュトン版『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』は1960年の初演以来、非常に人気の高い作品の一つとして上演され続けています。その特徴はユーモア溢れる鶏の踊り、男性ダンサーによって演じられるリーズの母:未亡人シモーヌの木靴の踊り、リボンを多用する踊りやマイムなどアシュトン・バレエ として特徴的な演出だけではなく、若さやエネルギーの象徴とでも言うべきジャンプやターンの連続というテクニックを十二分に魅せる振付と言えるでしょう。

今回、ロンドンでの上演は2000/2001シーズン以来4年ぶりとなり、多くのファンにとって待ちに待った再演となりました。この4年という年月はカンパニー・メンバーをがらりと変え、今回主演(リーズ&コーラス)が予定されている5キャスト10人のうち6人が初挑戦となりました。

初日を飾ったのは、リーズ初挑戦となったマリアネラ・ニュニアスと経験者のカルロス・アコスタ。マリアネラは明るさ/純真さ/エネルギーに溢れ,茶目っ気たっぷりのリーズを見事に演じました。第1幕1場のリボンのヴァリエーションの後家に入っていくシーンで、開くはずのドアーが開かなかった際のリアクション(腰に手をあてふくれっ面をして、足を踏み鳴らして、壁の隙間に入っていくように舞台袖に入っていった)は演出と間違えたほど彼女ならではのリーズのキャラクターでした。2幕のマイムシーンでは、見つめているだけで微笑ましく、心温まるキャラクターがとても印象的で、マリアネラの表現力の高さを確信させました。クリアーなフットワーク、はじけるようなジャンプ、音楽をたっぷりと使った伸びのある踊りなど技術面でも彼女の魅力は十分に発揮され、ここに新たなアシュトン・バレリーナが誕生したことを皆が確信しました。

アコスタ演じるコーラスは底抜けに明るく純真。床がトランポリンなのではないか?と思ったほどにエネルギー溢れるジャンプは、若さと希望に満ち溢れるコーラスのキャラクターを見事に映し出していました。第1幕のリボンのパ・ド・ドゥウではリーズ初挑戦で緊張を隠すことのできないマリアネラをさりげなくフォローする姿からはこの恋人同士の信頼関係や愛情の深さが見えてくるようでした。今まで演技派というイメージを持つことのできなかったアコスタですが、陽気なエロール/ランチベリーの音楽が彼の身体から奏でられているかのような音楽性と表現力の豊かさは、彼の印象を新たにしました。新聞評でも前回の上演よりも比べられないほどに表現力が豊かになっていると、とても高く評価されています。

アコスタ


ニュニアス、アコスタ

ドリュー、ニュニアス、タケット

第2幕

ウィリアム・タケット演ずるリーズの母の未亡人シモーヌは、リーズに対する愛情溢れる役作りが非常に印象的でした。その演技は、いかにも「男性が女性を演じている」という不自然さや「笑わせよう」と無理にキャラクターを作り上げているものではなく、観客の心を和ますものでした。ここにアシュトン・バレエにおけるパントマイム・デーム(男性が中年女性役を演じる)のエッセンスがあるのかもしれません。タケットのその優れた役に対する洞察力とその表現力は誰もが認めるほど。ダウエル版『白鳥の湖』のロットバルト役でもその存在感と演技力は他のキャラクター・アーティストとは比べることのできないほど。この『ラ・フィーユ・マル・ガルデ』初日の大成功はタケットの存在がとても影響しているように思います。

今後の公演ではアリーナ・コジョカルとロベルタ・マルキス/イヴァン・プトロフ、ヴィアチェスラフ・サモドゥロフ、シアゴ・ソアレスがリーズ/コーラスに初挑戦します。新たなアシュトン・ダンサー誕生に期待が寄せられています。
(2005年1月19日、ロイヤル・オペラ・ハウス、ロンドン)

●イングリッシュ・ナショナル・バレエ、絵本の中の『くるみ割り人形』

1950年以来、毎年のクリスマスには『くるみ割り人形』を上演しているイングリッシュ・ナショナル・バレエ(ENB)が、改修工事を終えた本拠地ロンドン・コロシアムに戻り2004年12月21日〜2005年1月8日の間29公演上演しました。

様々な古典的作品において斬新なアプローチを見せるENB。カンパニーとして12回目の改訂版となるクリストファー・ハンプソン版『くるみ割り人形』(2002年初演)はディズニー・アニメ『ヘラクレス』のアニメーション・デザイナーのジェラルド・スカーフがコンセプトと美術・衣裳デザインを担当。“スカーフ版『くるみ割り人形』”とも呼ばれるこのプロダクションは、まさにアニメ感覚の色彩とポップなデザイン、そして巨大冷蔵庫から飛び出てくる雪やチャイニーズ・テイク・アウェイ(中華の出前)を配達する中国の踊りなどの突飛な演出が、非常に特徴的です。ドロッセルマイヤーが舞台大の巨大絵本を開けるところから始まり、すべては絵本の中での出来事として繰り広げられる演出が印象的ですが、最後には登場人物たちが絵本の中に帰ってしまい、絵本が閉じられる瞬間にこころ寂しさを覚えました。

バレエと言うよりはミュージカルやサーカス的エンターテイメントとしての要素が強く、バレエを観たことない人でも誰でも楽しむことのできる作品と言えますが、正直言って子供が楽しむことの出来るユーモアなのか? と疑問に思う演出もあり、厳しい評価も聞こえてきています。

クリストファー・ハンプソンの振付はこれと言って特徴的なことなく、非常に典型的な『くるみ割り人形』のステップのために、主演ダンサーの好演がその公演自体の評価を決定的にしました。金平糖の精を踊った高橋絵里奈はお菓子の国の女王としての威厳と優しさ溢れる役作りが非常に印象的でした。6年前にデレク・ディーン版『くるみ割り人形』の葦笛の一人として彼女を始めて観た時は、まだ若々しく、非常に細身の身体からどこか弱々しいイメージを覚えましたが、今やENBを率いるプリンシパルとして大活躍するその貫禄が伝わってきました。心温まるユーモアと言うよりはシュールなイメージの強いハンプソン版『くるみ割り人形』の中で、唯一夢の中に吸い込まれるバレエ的な瞬間は、高橋の金平糖のヴァリエーションだったように思えます。


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(12月27日、ロンドン・コロシアム、ロンドン)

 

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