船引怜美 Text by Remi Funabiki
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●オール・アシュトン・トリプル・ビル:『バレエの情景』、ディヴェルティスマン、『ダフニスとクロエ』

オール・アシュトン・プログラム:『バレエの情景』、『ダフニスとクロエ』、「ディヴェルティスマン」(小作品集)が『シルヴィア』の上演と並行して11月13日〜25日の間5公演行われました。RBではあまり観ることのないガラ・コンサート形式の「ディヴェルティスマン」が最も注目されました。1939年〜1976年に創作された6つのパ・ド・ドゥウは上演機会に恵まれなかった作品が多く、貴重な体験となりました。

アシュトン版『眠れる森の美女』より「目覚めのパ・ド・ドゥ」では、ダーシー・バッセル&ジョナサン・コープの二人で寄り添いながら歩く姿からあふれ出るロマンティックな雰囲気に、劇場中がうっとりとさせられました。
『タイス パ・ド・ドゥ』ではボストン・バレエから移籍したサラ・ランムの叙情感と動きの繊細さに息を呑みました。アンソニー・ダウエルの現役時代の写真を思い起こさせるようなフェデリコ・ボネリの情熱と存在感にも感銘を受けました。


『眠れる森の美女』目覚めのパ・ド・ドゥ

『タイス』パ・ド・ドゥ

リン・シーモアによって初演された『5つのイサドラ・ダンカン風ブラームスのワルツ』をタマラ・ロッホが挑戦。類まれなる演技/表現力をもつタマラの演技は非常に期待されましたが、重さを感じることのできないどこか表面的な踊りにがっかりしました。情熱の強さは大いに見られたものの身体の芯からこみ上げてくるようなエネルギーに欠け、イサドラの生き写しが見えてくるような強さはありませんでした。
アシュトンがバレエ・リュス・ド・モンテカルロに振付けた『悪魔の休日』は、ロンドン初公開となりました。女性の振付のように優雅で詩的なアームスと表現が魅力の男性ヴァリエーションを、ヴィアチェスラフ・サモドゥロフが好演。ルルベからポイントを通りゆっくりと正座するという目を見張るステップでは、並外れたコントロール力が目に焼きつきました。
花びらの舞い散る『春の声 パ・ド・ドゥ』(ヨハン・シュトラウス オペラ『こうもり』より)は、[リアン・ベンジャミン&カルロス・アコスタ] 、[アリーナ・コジョカル&ヨハン・コポー]がそれぞれ上演。リアン&アコスタ組みでは彼らの貫禄の存在感が印象的でした。まさにシュトラウスの軽やかでありながらも荘厳なワルツを目で観るようでした。一方アリーナ&コポー組では作品が視覚的に与えるイメージそのもののまばゆさが印象的でした。花吹雪が舞うようなハイスピードのピルエット、そしてリフトの軽やかさは二人のパートナーシップの素晴らしさを象徴しました。

『5つのイサドラ・ダンカン風
ブラームスのワルツ』
『悪魔の休日』
『春の声』パ・ド・ドゥ

『バレエの情景』、『ダフニスとクロエ』では吉田都とアリーナ・コジョカルが交互に競演する興味深いキャストとなりました。ストラヴィンスキーの音楽に振付けられたアシュトンの抽象バレエ『バレエの情景』では、吉田都の非常に軽やかで音楽的な踊りが印象的でした。抽象バレエからダンサー自身のニュアンスをかおり取ることは難しいように思いますが、彼女の1つ1つのステップには、アシュトンの振付のエッセンスを確実に残しつつもその中からふと香る彼女ならではの表現力が見られました。私的にはずっと苦手だったこの作品の印象がまったく変わりました。一方アリーナの踊りはテクニック的な面のみ印象に残る表面的な踊りが非常に残念でした。『ダフニスとクロエ』でも吉田都には、テクニックなどという観点を超越した表現力の豊かさが見られたものの、アリーナ演ずるクロエはマクミラン作品となんの変わりの無い役作りにがっかりさせられました。
次々と作品が繰り広げられた今プログラムはお祭りのような華やかさがあり、アシュトン作品の幅広さを一気に見る事ができました。12月11日にはBBC4(有料放送)にて11月17日の公演が放送予定されています。(2004年11月13・17・19日、ロイヤル・オペラ・ハウス、ロンドン



『バレエの情景』

『ダフニスとクロエ』


●バーミンガム・ロイヤル・バレエのロンドン公演『ウェスタン・シンフォニー』『二羽の鳩』

イギリス中部バーミンガムに本拠を置くバーミンガム・ロイヤル・バレエ(BRB)のロンドン公演がサドラーズ・ウェルズで行われ、バランシン/アシュトンのメモリアル・イヤーにちなみ『ウェスタン・シンフォニー』と『二羽の鳩』(10月26・27日)を上演しました。
バランシンの『ウェスタン・シンフォニー』では第4楽章を踊ったアスタ・バゼヴィシュト以外の女性ダンサーには、観ている者を魅了するバランシン・バレエ特有の女性らしさ(色っぽさ、茶目っ気、生気のよさ)を感じることができませんでした。ステップの鮮明さもいまひとつで、じっと座って入られなくなるようなバランシン作品特有の興奮とエネルギーに欠けていたことが最も残念でした。

一方7月のニューヨーク、リンカーン・センターのアシュトン・セレブレーションで上演され評価の高かった『二羽の鳩』は、これこそ我らのレパートリーとでも言うべき完成度の高さが見られました。若者の初々しい恋愛を描くアシュトンの名作で主役を演じたのはプリンシパルダンサー佐久間奈緒とロバート・パーカー。佐久間奈緒の非常に正確なテクニックと表現力の豊かさが印象的でした。新聞評では、「素晴らしいアシュトン・ダンサーである」ととても高い評価を受けていました。青年を演じたロバート・パーカーは悩み苦しむ青年を好演。2幕のソロでは彼のアイドル的な存在感と、目を釘付けにするジャンプとコントロール力に魅了されました。全体的にもカンパニー男性ダンサーのテクニックの水準の高さとその安定感が非常に印象的でした。
(2004年10月26日、サドラーズ・ウェルズ劇場、ロンドン)



『ウェスタン・シンフォニー』

『2羽の鳩』

●マーク・モリス・ダンス・グループ、『ハード・ナット』

約1ヶ月半に及んだダンス・アンブレラ2004の最終プログラム、マーク・モリス・ダンス・グループ『ハード・ナット』が、サドラーズ・ウェルズで11月12日より27日まで上演されました。
『くるみ割り人形』と言えば、もっとも多くの振付家が独自のヴァージョンとして創作する作品なのではないでしょうか。プティパからマシュー・ボーンまで様々な振付家の『くるみ割り人形』が思い浮かべられます。『くるみ割り人形』の現代化というのがその中で一つの傾向のように思われますが、“現代化”という観点をから見てもっともダンス界に衝撃を与えた人物と言えば、マーク・モリスなのかもしれません。今から13年前の1991年に発表されたこの『ハード・ナット』が当時どれだけ衝撃的だったかは、想像を絶します。

1960年代の時代設定、アメリカポップアートを基調とした舞台美術や衣裳、ゲイ文化とセクシュアリティーをあからさまにした大胆であくの強い演出と、アメリカらしい遊び心を取り入れた細かな演出はまさにマーク・モリス独特の世界。ファンタジー的なストーリーラインと古典バージョンの基本的構成はほとんど変えられることなく、大胆にゆがめられた特徴的演出は強烈なインパクトを与えます。ところどころに取り入れられているクラシック・バレエ的なムーブメントは、バレエそのものと“バレエ『くるみ割り人形』”が与える一種独特のイメージを諷刺的に描写しているものと思われ、ここにもモリスならではのセンスが見られます。

振付的に最も賞賛されるべきは、男女混合のコール・ド・バレエによる雪と花のワルツ。ダンサー1人1人が粉雪をジャンプの度にまき散らすロマンティックな演出は、それまでの俗的な作品の印象が嘘のように思えます。クライマックス、チャイコフスキーの劇的な音楽そのもののタイミングでの連続グラン・ジュッテは、思い出すだけでゾクゾクとしてくるような迫力。これほどまでに感動する雪のシーンは古典作品でも見たことがありません。2幕の花のワルツも同様に、非常に単純なステップと精巧に構成されたフォーメーションの絶妙なるバランスが古典作品では体験できない素朴な感動を与えました。ステップはすべて音楽からダイレクトに発想できるソッテ・アラベスクやグラン・ジュッテなど。そのヴォキャブラリーは決して豊かなものではありません。しかしモリスは自身の天才的感覚でクラシックバレエ的な人の出し入れとフォーメーションの作り方を巧みに取り入れ、衣裳と共にヴィジュアル的にインパクトのある振付可能にしました。しかしその他の部分では観ている者を興奮させるような音楽とムーブメントの一体化が一切見られず、私的にはその大きな落差にショックを受けました。

『ハード・ナット』はまさにエンターテイメント的なインパクトの強さ、そしてイギリス振付家の作品では決して味わうことのできないアメリカン・テイストを象徴する作品。イギリスの多くの観客はその独特の世界に大いに盛り上がりました。
(2004年11月16日、サドラーズ・ウェルズ劇場、ロンドン)





 

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