船引怜美 text by Remi Funabiki

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●ランベール・ダンス・カンパニー、アシュトン生誕100年記念プログラム

ランベール・ダンス・カンパニーはイギリスで最も歴史の長いダンス・カンパニー。カンパニー創設者マリー・ランベールの元で勉強していたフレデリック・アシュトンは、カンパニー設立の1926年に21歳の若さで『ファンションの悲劇』を振付け、この作品が彼のデビュー作となりました。アシュトン生誕100年記念に際し、アシュトンにちなんだ2作品と2つのコンテンポラリー作品を含むミックス・プログラムがサドラーズ・ウェルズで上演されました(5月25〜29日)。アシュトン振付『5つのブラームスのワルツ』の再演と『ファッションの悲劇』の改作版発表は、今公演の注目の的で話題を呼びました。
『5つのブラームスのワルツ』はイサドラ・ダンカンへのオマージュとして1976年に創作、リン・シーモアによって初演されました。イサドラの特徴的なギリシャ風のチュニックに身を包んだ女性ダンサーのソロ作品。スカーフをもって陽気にスキップしたり、そよ風のように駆け抜けたり、薔薇の香りに酔いしれ花びらをちらつかせながら叙情的に踊る姿は、感情の自己表現として身体と心が赴くまま自由に踊ったイサドラを思い起こさせました。今回の再演では、エイミー・ホリングワースの指先からも情感溢れる繊細な表現力、身体の芯からこみ上げる情熱とエネルギーがとても印象的でした。

振付家イアン・スピンクによって改作された『ファッションの悲劇』は、コレクションでの失敗を苦に自殺したあるデザイナーの悲劇の物語。この改作では作品の歴史的背景を継承しつつ、コンテンポラリー作品を創作することに焦点が絞られました。ニジンスカの『雌鹿』や『青列車』の衣裳やムーブメントの影響が多く見られました。非常に演劇的要素の強い作品でしたが、次々と目の前で起こるシーンは単調でムーブメントから物語を読み取ることもできません。そのため作品にこめられた意味を理解することも出来ませんでした。作品がどのように舞台で展開されるかよりも、作品制作の発想や創作過程に重きをおいたコンセプチュアルな作品だったのかもしれません。

このほかアシュトン関連作品とは対照的な抽象的コンテンポラリー作品:ラファエル・ボナチェラ振付『リニアー・リメインズ』とフィン・ウォーカー振付『リフレクション』ではコンテンポラリーダンサーの象徴である強靭な身体と並外れた身体・運動能力、ランベールダンサーならではのテクニックの正確さと美しさが非常に印象的でした。(2004年5月25日、サドラーズ・ウェルズ劇場)
●ランダム・ダンス、ウェイン・マックグレガー振付『アタクシィア』世界初演

イギリスで最も注目されている振付家、ウェイン・マックグレガーの新作『アタクシィア』が6月3〜5日サドラーズ・ウェルズ劇場で世界初演されました。アタクシィアとは脳が身体の動きをコントロールできなくなる神経組織の機能障害・運動失調症の病名。マックグレガーがこの障害を持った女性に出会ったことをきっかけに、神経科学研究分析をもとに作品創作が始まりました。6ヶ月間に及ぶケンブリッジ大学神経科学科での研究・実験ではダンサーの脳と動きの関係が分析され、その研究結果を元に『アタクシィア』が創作されました。ダンサーの動きとは脳と身体の関係が最もコントロールされているものですが、その正反対であるコントロール不可の状態から生み出される動きやエネルギーの追求が作品のテーマとなりました。

マックグレガーの振付スタイルは、スピード感とエネルギー溢れる動きと無脊椎動物のような柔軟なムーブメントが特徴とされます。『アタクシィア』ではそのスタイルに加えてコーディネーションを失った動き(ガタガタと崩れるような動きやまるで怪我をしているかのような歩き方など)が展開されました。作品の中盤、舞台に点在した10人のダンサーがそのスポットはなれずに驚異的スピードで動き続けるシーンでは、観ている観客も目が回ってくるような感覚を覚えました。

舞台のホリゾントにはエナメルのような壁があり、その前で壊れたかのように踊るダンサーの姿がまるで乗用車の車体に映る姿のようにぼんやりと映し出されます。その反射された姿と実際のダンサーを見ることによって同時に起こっている動きの中に異なる質―コントロールされた動きと失った動きを観ることが出来ました。マックグレガー作品のもう一つの特徴はサイバー・デジタルテクノロジーが駆使された演出です。作品後半ではメッセージ的な映像が多く使用され、ダンサーの動きと映像が個別なものになることなく舞台上に展開されました。ダンサーの衣裳には蛍光素材が使用されていて暗闇で蛍のように光のライン作り、ムーブメントに新たな印象を与えました。

振付のみならずコンセプト、舞台美術の斬新さが衝撃的でした。医科学の研究・実験がコンテンポラリーダンスの創作過程にこのような形で融合され、それを見事に実現したマックグレガーの計り知れない才能にイギリス・ダンス界の注目がさらに高まったように思います。(2004年6月4日、サドラーズ・ウェルズ劇場)

 

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