船引怜美 text by Remi Funabiki

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●アダム・クーパー主演、ウィリアム・タケット振付『兵士の物語』

RBの振付家ウィリアム・タケットがストラビンスキーの音楽劇『兵士の物語』を創作。 6月15日から4日間ROHの小劇場リンブリー・スタジオ・シアターで上演されました。 出演は、アダム・クーパー(兵士)、RBプリンシパルのゼナイダ・ヤノフスキー(王女)、アダムの『On Your Toes』日本公演ではシドニー役を演じた RB出身のマシュー・ハート(デビル)、マシュー・ボーンの『白鳥の湖』や『カーマン』のスター、ウィル・ケンプ(ナレーター)と言う豪華キャスト。 舞台デザインはマシュー・ボーン作品(『白鳥の湖』や『シンデレラ』など)で有名なレズ・ブラザーストンというイギリス・ダンス界でも最も注目されるアーティストのコラボレーションに、 “これは、何か起こるに違いない…”という期待が寄せられました。
ヴァイオリンと引き換えに悪魔から「未来のことがわかる本」を手に入れた兵士、幸せを求めるがゆえに自分の内なる悪魔のささやきに惑わされ、 自分を見失っていく“兵士”の物語。作品の大部分は台詞で展開され、俳優顔負け芸達者なダンサーが繰り広げる豪華なエンターテイメントとなりました。

何よりも先に特筆すべきはレズの舞台デザイン:アンティークショップをひっくり返したような怪しい雰囲気漂うムーランルージュ風/アールデコ調の劇場。 その空間に入った瞬間に1920年代にタイムスリップした感覚を覚えます。
4人のダンサーのパフォーマンスの味深さは言うまでもありません。アダム演ずる不幸な兵士には観客の眼を釘付けにさせる存在感があります。 アダムのエネルギッシュなジャンプは決して“バレエ的ライン”を強調するものではありませんが、スナップショットのように目に焼きつきます。 超長身のゼナイダは舞台の狭さをものともせず、風を起こすような迫力あるジュッテやアラベスクで魅了します。 RBの古典作品でのエレガントな女優ダンサー、そのイメージから想像できないほどのコメディアンぶりも発揮されました。 ウィルのナレーターは一癖も二癖もあるキャラクターであると同時に、アダム演ずる兵士の守護神のようなイメージもあります。 アダムとミラーイメージで踊るシーンでは2人の異なる個性が印象的でした。ウィルの役者的才能にも驚かされました。 そして、誰よりも強烈な印象を与えたのはデビル役のマシュー。その演技力、動物のように動く瞬発力やアクの強さはまさに驚異的。 悪魔/老婆/酔っ払い/モンスター、それぞれをすべて同じダンサーとは思えないほどに演じ分けます。彼がこんなにも役者ダンサーとはまったく予想もできませんでした。
ダンサーが舞台袖でタバコを吸いつつ、やる気なさ気に舞台を傍観している姿やメイク直し、着替えをさらけ出した演出も印象的でした。

私見として、これまでのタケット作品はいまひとつインパクトに欠けていると思っていました。ここ数作品続いているアダムやゼナイダを起用しての創作では、 彼らの個性が生かされていない振付・演出に失望を覚えていました。しかし今回の『兵士の物語』はそのイメージを全く覆す鮮烈な印象を与えました。 何度でも観たくなる舞台、観る度に新しい感動がある舞台とはこのことかもしれません。近い将来の再演が期待されます。
初日の会場には、マシュー・ボーン、モニカ・メイスン、アダムの愛妻サラ・ウィルドー、デボラ・ブル、RBのダンサー達などの顔も見え、 公演の大成功に大いに盛り上がっていました。
(2004年6月15日、リンブリー・スタジオ・シアター、ロイヤル・オペラハウス)
●アンジェラン・プレルジョカージュ振付『ニアー・ライフ・エクスペリエンス』

アンジェラン・プレルジョカージュの新作『ニアー・ライフ・エクスペリエンス』(2003年9月初演)がサドラーズ・ウェルズで上演されました(5月20〜22日)。 魂が身体から抜け出す感覚―体外離脱、気を失いかけて意識が遠くなっていく感覚、性的快感が頂点に達したうっとりとした状態などをテーマにした作品。 プレルジョカージュの描き出すシーンは、まさに映画などで見る“あの世とこの世の境”、天国へ導かれるような雰囲気は舞台イメージとして非常に美しく、 毛糸などを巧みに使用した演出はとても印象的でした。

しかし作品全体的には断片的に組み合わせられた視覚的なイメージのみで特に強烈な印象を与えることなく単調。 性的要素を含む演出は過去の作品と何の変わりもありません。ムーブメントは全体を通してふわふわと漂うような動きで、振付としていまひとつピンと来ません。 ダンサーには霊的な透明感や感覚を体現する表現力と繊細さがなく、作品にマイナスな影響を与えていました。
現在KENZOのデザイナー、ジル・ロズィエの衣裳はまさにフレンチ・シック、シンプルでも何気ないデザイン性の高さがとても印象的、“さすがフレンチ…”と思わせます。 フレンチ・デュオAirの音楽はうっとりするほどに穏やかで美しく、音楽/美術共にテーマを捉えているにも拘らず、振付/作品に生かされていないことがとても残念です。 観客が魂の抜けていくような感覚をエクスペリエンス(体験)できる空間/舞台を、プレルジョカージュは創り上げることはできなかったように思います。 新聞各紙でも、期待外れの新作に対する厳しい評価が目立ちました。(2004年5月21日、サドラーズ・ウェルズ劇場)

 

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