船引怜美 text by Remi Funabiki
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●世界的に注目を集めるるダンス教育機関 ラバン、ロンドン
ラバン(旧ラバン・センター、ロンドン)はモダン・ダンスの父と呼ばれるルドルフ・フォン・ラバンが、イギリスに亡命した後に設立したコンテンポラリーダンスの総合教育機関です。ラバンは身体運動の科学的分析(幾何学、数学、解剖学など)を通してダンスを研究し、コレオロジーやキネマトグラフィー(ラバノーテーション)と呼ばれる記譜法を考案しました。彼の功績は現在に至るまでのダンスの発展に大きな影響を与えていることは言うまでもありません。ラバンが設立したダンス教育機関は1948年にイギリス・マンチェスターに始まり、1975年サウス・ロンドンのニュークロスゲートに校舎を移し、ダンス総合教育機関(学士、修士、博士課程コース、ディプロマコースを含む)として発展してきました。
ヨーロッパ最大のダンス教育機関 ラバン
2002年、ダンス界のみならず建築界に大きな衝撃を与えた新校舎がサウス・ロンドンのデプトフォードに建てられました。テート・モダン、青山のPRADAで有名なスイスの建築家ヘルツォーク&ドゥ・ムーロンがデザインを手がけ、英王立建築家協会(RIBA)の建築賞「Stirling Prize 2003」を受賞しました。ヨーロッパ最大教育施設と言われるラバンには、ダンスに関わる様々な分野を学ぶ最高の環境(スタジオ、劇場、図書館、ヘルスケアー施設(トリートメント、ピラーティス、ダンスサイエンス実験室)など)が整っています。
卒業生はダンサー、コレオグラファー、デザイナー、アーティスト、研究者、ライター…として世界中のダンス界で活躍しています。現在最も有名な卒業生は、マシュー・ボーンかもしれません。マシューは学士課程でダンスに関わる様々な知識、パフォーマー、コレオグラファーとして、自分の求めるべきものを学んだと語っています。現在日本で注目されるコンテンポラリーダンス・コレオグラファー、岩淵多喜子、黒田育世などもラバンで学んだ経歴をもっています。
詳細:
http://www.laban.org
●ラバン・学生カンパニー、トランディッションズ・ダンスカンパニー・2004
トランディッションズ・ダンス・カンパニー(
http://www.laban.org/
)は、ラバンに所属する学生のコンテンポラリー・ダンス・カンパニーです。1982年に設立されたこのカンパニーは毎年世界規模で行われるオーディションによりメンバー(学生)が選抜され、1年間のプロフェッショナルトレーニング、世界的注目のコレオグラファーと活動をし、イギリスのみならず世界中をツアーします。マシュー・ボーンも学士課程修了後にトランディッションズのメンバーとなり、1986年卒業当時のトランディッションズのメンバーであるラバンでの同級生とともにカンパニー、アドベンキャーズ・イン・モーション・ピクチャーズ(AMP)を結成しました。毎年、トランディッションズの公演は、将来に大きな期待がかけられるアーティスト発掘の機会として注目が集まります。
トランディッションズ2004の公演が4月28日〜30日、ラバン、ボニー・バード劇場で行われました。今年の作品ラインナップはバラエティーに富んでおり、各ダンサーのダンスの技術的な面のみならず、演劇性、エンターテイメント性、様々なダンス(ヒップホップやインド舞踊)に適応できる柔軟性が非常に優れていました。ダンサーのマルチな才能が非常に印象的でした。各作品のコレオグラファーは比較的‘これから注目される人が多く、それぞれの作品からはダンサーと共に無限大の可能性への挑戦と新しい方向性の追求が見られ、そのエネルギーが作品の完成度を高めていたように思えます。トランディッションズ・メンバーの今後(卒業後)の活躍が期待されます。(4月28日、ボニー・バード劇場、ラバン、ロンドン)
●ラバン出身のコレオグラファー:ステファニー・ショバー&ダンスカンパニー
ステファニー・ショバーはラバンにて学士課程終了後、2000年よりコレオグラファーとして活動を始め、ボニー・バード・ニューコレオグラフィー・アワード受賞(2002年)の経歴を持つコレオグラファーです。2003, 4年総合文化施設サウス・バンク・センター、ロンドン(SBC)(注1)のレジデント・ダンス・アーティスト/コレオグラファー(注2)に選ばれ、SBC内のパーセル・ルームにて新作『チェンジ』が発表されました(5月6・7日)。
ステファニーの作品はミニマリズムに徹底した舞台空間、美術・音楽効果の中で日常生活から発展したムーブメントが、素早いスピードで切れる間なく繰り返され、展開されていきます。しかしその振付スタイルは “ダンス・テクニック”の発露では決してありません。日常生活の中でいつも何気なくしている動作から(何かを手で払ったり、どこかを潜ったり)発展したムーブメントは、自然に観客に溶け込んでいくように思えます。
『チェンジ』
シンプルな舞台構成、ナチュラルなムーブメントから成り立つ密度の高い振付、計算された振付(空間、時間的)構成がステファニー作品の最大の魅力と思います。走馬灯のように繰り広げられた作品を観終わった時には虚脱感のようなもの覚えますが、少し落ち着いた頃に様々な印象が甦ってきます。人間関係をテーマにした新作『チェンジ』でも、息を潜めるほどに静的なスタートから徐々に加速されていくスピード感、圧倒的な振付の密度の高さが印象的でした。2組のデュエットから構成され、ダンサーひとりひとり、2人、4人の間の関わりの“変化(チェンジ)”していく過程が描かれています。フラグメンツに見えるダンサーそれぞれの動きも、それぞれの間には緊密な統一感があり、部分と全体との必然的な関係が振付の空間構成や時間構成に鮮明に見られます。1度の鑑賞ではそれらの描写や絶妙なバランスを理解することは難しく、「ビデオだったら何度でも巻き戻して観ることが出来るのに…」という思いに駆られます。シアトリカルな作風や舞台効果(印象的な舞台美術やテクノロジーの駆使など)に重きを置いてテーマを強調するコンテンポラリーダンス作品とは異なり、純粋にダンサーのムーブメントを通じて作品のテーマやニュアンスを感じ取っていくというのがステファニーの作品だと思います。
ステファニーを含む4人のダンサーはみなラバンの卒業生。日本人ダンサー磯部桂はカンパニー発足時からのメンバー、ムーブメントに対する研ぎ澄まされた感性を持つ彼女はカンパニー主要ダンサーとして活躍しています。すべてのダンサーの洗練されたムーブメントと繊細な表現力(ハイスピードで繰り広げられるムーブメント中にも一つ一つのムーブメントの鮮明さ、早いながらにも機械のようには決して見えないコントロールされたムーブメントや動きの細部への意識の高さ)がとても印象的でした。更なるステファニー、そしてカンパニーの活動が楽しみです
詳細:
http://www.stephanieschober.co.uk
注1:ロイヤル・フェスティバル・ホール、ナショナル・シアターなど大小4つの劇場、その他ヘイワード・ギャラリーなどを含む総合文化施設
注2:今後の活躍が期待されるアーティストの公演、活動、がSBCから年間を通じてサポートされます。歴代SBCレジデント・コレオグラファー:ジョナサン・バロウズ、アクラム・カーンなど。
(2004年5月6日、パーセル・ルーム、サウス・バンク・センター、ロンドン)
●ロバート・アルトマン監督『バレエ・カンパニー』がロンドンでロードショー
ロバート・アルトマン監督、アメリカ、シカゴのジョフリー・バレエをドキュメンタリー的に描いた映画『バレエ・カンパニー』が5月7日からロンドンで公開されました。アメリカ、ニューヨークでは2003年クリスマスから放映されており、私小説的で生き生きとした芸術作品として高い評価を受けています。主演女優ネーヴ・キャンベルは元カナダ・ナショナル・バレエのダンサー、脚本家バーバラ・ターナーと共同で2年間に及ぶジョフリー・バレエ密着取材、研究の末、原案・脚本を作りました。ネーヴ以外のダンサーはすべてジョフリー・バレエのダンサーが出演しています。公演、リハーサル、レッスン、芸術監督/振付家との対立、怪我、バレエ団幹部の様子、そしてダンサーの私生活(夜中のアルバイト、恋愛…)が鮮明に描かれています。
ロンドン公開に伴い、ガーディアン紙の舞踊評論家ジュディス・マックレルが、ロイヤルバレエ・ダンサー(クリストファー・サンダース、エドワード・ワトソン、クリスティナ・アレスティス他)やバレエボーイズ(マイケル・ナン&ウィリアム・トレビット)に『バレエ・カンパニー』の率直な感想をインタヴューしました
(
http://www.guardian.co.uk/arts/features/story/0,11710,1209518,00.html
)
ロンドンのダンサーたちは以下のような意外にシビアな反応をしています。
_ あまりにも、ダンサーの生活が美化されすぎている。
_ 怪我の為に公演に出ることが出来なくなることや代役を立てられることが、どれだけ苦しく、つらいことか描かれていない。
_ 映画の中で上演される作品の振付には失望した
_ ダンサーとして、カンパニーの一員として生活をしていて、もっと素晴らしい瞬間はたくさんある。そのような部分が全く描かれていないことがとても残念だ。
_ バレエボーイズ談:「バレエは映画の題材としてとてもいいものなのに、その素晴らしい題材を生かすことの出来た監督はいない。僕らが作ったドキュメンタリー『Ballet Boyz 1』とこの映画にはダンス・ドキュメンタリーとして近いものを感じるけど、もし僕らにもっと資金があったら、もっとすごいダンス・ドキュメンタリー(映画)を創ることができたのに…」
ダンサーとしての生活の厳しさ、カンパニー内での競争、怪我の苦しみなどを体験している者には、お話しの世界として受けとるようなシーンがあることは否定できませんが、ネーヴ・キャンベルをはじめジョフリー・バレエ・ダンサーの踊りはとても印象的です。振付家や芸術監督との葛藤が描かれているシーンはとてもリアルで、コミカルに描写されているシーンも多くあります。アメリカンのバレエ・カンパニーならでは(ヨーロッパのバレエでは観ることの出来ない)のレパートリーもみどころです。ダンサーのレッスン姿、ウォームアップなどを見るもの一つの楽しみです。
ジョフリー・バレエ
http://www.joffrey.com
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