マクミランはこの作品を、ロイヤル・オペラハウスの営利的意向と彼の芸術的意向の対立が原因で、ベルリン・ドイツ・オペラ・バレエの舞踊監督に転出していた1967年に、第3幕のみの1幕作品として発表しました。ロイヤル・バレエの芸術監督に復帰した後の1971年、ロイヤルのレパートリーとして第1・2幕が追加され初演(リン・シーモア主演)されました。ニコライ一家の悲劇的最期、謎に包まれるアナスタシアの生存説とアナ・アンダーソンの出現から、このミステリアスな物語はインングリット・バーグマン主演映画『追想』やディズニー映画などにも描かれています。1990年代半ばに行われたDNA鑑定では、アナ・アンダーソンはアナスタシアではないとの判断が下されましたが、その鑑定結果に異議を唱える研究報告もあり(2004年3月)、いまだに論争の収まらない問題です。バレエ『アナスタシア』は、歴史的事実より、悲劇の皇女アナスタシアとアナ・アンダーソンに共通する“アイデンティティーの喪失”がテーマとされています。
第1・2幕のチャイコフスキーの交響曲(No1,
op13 &No3, op29)に振付けられたネオ・クラシックなスタイルからは、『マノン』や『マイヤリング』に共通する彼独自の振付構成を、コール・ドのフォーメーションなどからはクランコ作品が連想されます。
第1幕、ロマノフ家のヨット上でのピクニック・シーンでは、4人の仕官を演じていたフェデリコ・ボネリ、佐々木陽平の安定したテクニックが大変印象的でした。ウィリアム・タケット演ずるニコライ2世からは、的確な人物描写(皇帝としての弱さや愛妻家であったという溢れる愛情)を観ることが出来ませんでした。アナスタシアを演ずるマーラ・ガリアッツィの快活で鮮明なムーブメントは、お転婆な少女アナスタシアを的確に表現しています。
第2幕のアナスタシアが社交界入りする舞踏会で、ニコライ2世のかつての愛人だったバレリーナのクシェシンスカがパ・ド・ドゥウを披露します(「チャイコフスキー没後100年記念ガラコンサート・ウィンター・ガラ(1993年)」でヴィヴィアナ・デュランテ&ブルース・サンソンが初演のシブレー&ダウエルの姿を呼び起こすようなパ・ド・ドゥウを踊っています)。ジェイミン・タッパー演ずるクシェシンスカは技術的には完璧ですが、ニコライ2世との関係を示唆する魅惑的な雰囲気や未練などはまったく見られません。パ・ド・ドゥの後、クシェシンスカ、ニコライ2世、アレクサンドラ皇后、ラスプーチン間の入組んだ不倫の人間関係、それを目撃するアナスタシアの複雑な心理が描かれますが、ダンサーそれぞれの人物の心理描写はあまり明らかではありませんでした。 |
『アナスタシア』第1幕
『アナスタシア』第2幕
『アナスタシア』第2幕
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