船引怜美 text by Remi Funabiki

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●ロイヤル・バレエ、ギエム&ル・リッシュの『ロミオ&ジュリエット』

 シルヴィ・ギエム&ニコラ・ル・リッシュという夢のキャスティングの『ロミオ&ジュリエット』は、2001年より3年連続で、ここロイヤル・バレエで上演されています。パリ・オペラ座のレパートリーにはないマクミラン版での競演ということもあり、毎回彼らの競演は大変な注目と期待が集まります。

前回・前々回のシルヴィのジュリエットとしての役作りは、シェイクスピアの原作やマクミランの演出に描かれたジュリエット像とはかけ離れた彼女独自の解釈に、作品としての違和感を覚えましたが、今回は異なりました。今回のジュリエットは非常にシャイで、唯一心を開く乳母には少し強気なジュリエット像。仮面舞踏会での衝撃的なロミオとの出会いからは、1秒ごとに高まっていくロミオへの想いは彼女の身体から溢れ、感情すべてがムーブメントとして表現されます。ジュリエットの鼓動の高まりと共に観客も鼓動の高まりを覚えました。一つ一つのムーブメントにプロコフィエフの音楽の深さ、広がり、ニュアンスを表現し、シルヴィ演ずるジュリエットの感情すべてをマクミランの振付・演出に溶け込ませて演じています。この音で立ち上がり、泣き崩れ、キスをするという振付けられたものを演ずるのではなく、人間の最も自然な感情の表れが音楽と振付・演出に溶け込み舞台に存在していました。ロミオがマンチュアへ追放される朝の寝室のパ・ド・ドゥでは、ロミオが自分の叔父であるティボルトを殺害してしまった事実を理解しながらも、別れることを納得できない、持って行き場のない複雑な感情をこれほどまで完璧に表現したジュリエットは見たことありません。

ニコラ演ずるロミオは非常に心優しく、純真、子供っぽさ溢れるキャラクター。マキューシオ/ジュリエットの死にただ逆上して剣を取り、ティボルト/パリスを殺すのではなく、目の前に横たわるマキューシオ/ジュリエットの姿を信じることが出来ず、取り乱し…という非常に複雑な心理変化を完璧に表現していました。どんな小さなムーブメントからもニコラ演ずるロミオの優しさ、繊細さは見て取ることが出来ます。新聞各紙でもニコラの演技力の高さは絶賛されています。以前からの怪我の状態が心配されましたが、柔軟性のある跳躍、彼のロミオ像を的確の表現するエネルギーと喜びに溢れるムーブメントは(怪我という事実を心配せずにはいられない箇所はありましたが)完全な復帰を予感させてくれました。

シルヴィとニコラのパートナリングは会話そのものです。通常よりもかなりゆっくりとしたオーケストラの演奏には、二人の感情表現の深さ、二人が創り上げたロミオとジュリエットのキャラクター、パーソナリティーが映し出されています。ストーリーから直接的に連想される、“初恋”、“喜び”、“悲しみ”という単純な感情ではなく、それぞれの生まれ育ってきた貴族社会の環境と、理性的にコントロールすることのできない恋愛感情の間に生じる複雑な心理が描写されています。精神と身体が完璧にバランスのとれたムーブメントやリフトは、彫刻のように美しく、観客の心に焼きつきました。バレエ『ロミオとジュリエット』を観ているのではなく、目前で起きている現実の話のように鮮明な舞台に観客は引き込まれていきました。第3者的に鑑賞するのではなく、その世界に入り込んですべてを肌で体験するような舞台でした。

ゼナイダ・ヤノフスキーの街の女、リカルド・セルベラのマキューシオ、ジョナサン・ハウエルのベンヴォリオ、ウィリアム・タケットのティボルト、彼らそれぞれのキャラクターも完璧にムーブメントに映し出されていました。役を演じているダンサーではなく、マクミランの演出を超越して彼らしか演ずることの出来ないキャラクターが舞台に存在していました。テクニカルな面で何も問題がないことは言うまでもありません。テクニックなどという観点を超越して、ダンサー一人一人の表現が『ロミオとジュリエット』特別なものにしました。

「シルヴィのジュリエットを観ることが出来るのはこれが最後だったのではないか?」と、各紙では囁かれています。シルヴィ本人またはロイヤル・バレエの正式な発表に基づくものではないために、単なる噂には過ぎません。しかし、裏付けられる点(シルヴィの年齢的問題、上演スケジュールの問題)もいくつかあるだけに、ただひたすら、「これは、最後ではなかった」と信じる思いは皆同じです。
その他には、6人のジュリエットの友人の中で、ひときわしなやかなアームス、美しいアラベスクのライン、上品さ溢れるムーブメントが印象的だった小林ひかるの今後の活躍が大変期待されます。

『ロミオとジュリエット』
イザベル・マックミーカン
(町の女)


『ロミオとジュリエット』
ベネット・ガーティサイド
(ヴェローナの太守エスカラス)


『ロミオとジュリエット』
仮面舞踏会

●注目のカップル、ローレン・カスバートン&エドワード・ワトソン

 4月12日には、注目の新人カップル、ローレン・カスバートソン&エドワード・ワトソンがデビューを飾りました。弱冠19歳のローレンは、ダーシー・バッセル以来の生粋のロイヤル・バレリーナとして大変期待されています。今シーズンはプリンシパル・ダンサーの怪我によるキャスト変更のために、様々なプリンシパル・ロール(リラの精、バランシン『アゴン』第2パ・ド・ドロワ、『シンフォニー・イン・C』第2楽章など)を入団2年目とは思えない貫禄でこなしてきています。テクニックの強さと“ロイヤル”の優雅さ、上品さを兼ね備えたローレンは、ソリストを踊っていても彼女に秘められている才能は一目瞭然です。一方、男性ダンサーにしては類のないと言われる際立った柔軟性、ラインの美しさを持つエドワード・ワトソンは、プリンシパル・ロール・デビューを今か今かと期待され続けてきました。それだけにこのカップルのデビューは大変な注目でした。レスリー・コリアーとジョナサン・コープの情熱溢れる指導が、今回のデビューを大成功に導いたと言われています。

各紙では、少女らしさに欠けるジュリエット像にはジュリエット初挑戦とは信じがたい彼女の自信に満ちた踊り、テクニックの安定性、存在感が評価されています。非常に控えめで温室育ちのお嬢様のジュリエット像には、彼女のこれからのジュリエットへのアプローチが期待されます。大役へのプレッシャーを隠しきれない部分も見られましたが、エドワード演ずるロミオは純真さ溢れ、優雅なムーブメントにはロミオの人物描写が的確にされていたと言われています。エドワードのこれから課題は、パートナリングと言われています。『ロミオとジュリエット』のバルコニーのような叙情的、情熱的パ・ドゥ・ドゥウでは、男性ダンサーの上体の強さが何よりも必要とされます。女性のような上体の柔軟性を持つエドワードにとって、上半身の強さ今後の最大の課題になりそうです。
 様々な課題は残されましたが、この新人カップルに秘められた可能性は無限大です。今後の二人の活躍、そして近い将来の再演に期待が高まります。

『ロミオとジュリエット』
ローレン・カスバートソン


『ロミオとジュリエット』
エドワード・ワトソン

『ロミオとジュリエット』
エドワード・ワトソン

『ロミオとジュリエット』
ローレン・カスバートソン

『ロミオとジュリエット』
エドワード・ワトソン&
ローレン・カスバートソン
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