船引怜美 text by Remi Funabiki

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今月号から新たに、ロイヤル・バ レエのコベントガーデンの公演を中心に、その他の英国をベースにするバレエやコンテンポラリ ー・ダンスの情報、さらに世界の様々なダンス・カンパニーのロンドン公演などをご紹介します。

ロイヤル・バレエのナタリア・マカロワ版『眠れる森の美女』

1994年、当時芸術監督のアンソニー・ダウエルは、ミュージカル『オペラ座の怪人』のデザイナー、マリア・ビョルンソンの、妖精物語の固定概念を覆した斬新な美術の『眠れる森の美女』を発表し、物議を醸しました。ダウエルの後任芸術監督となったロス・ストレットンは、2002/2003年のシーズンに、『眠れる森の美女』のニュープロダクションを『ラ・バヤデール』の大成功で有名なナタリア・マカロワに依頼しました。

『眠れる森の美女』はロイヤル・バレエにとって最も重要な、歴史的作品です。さらにチャイコフスキー&プティパという、バレエ史上最も重要なコラボレーションの代名詞ともいうべき作品です。この二人のお膝元で、史上最高と言われるマリンスキー劇場版『眠れる森の美女』を現役で踊ってきたマカロワの新演出に、ダウエル版の挽回(ダウエル版はもう2度と観ることはできません。衣裳は2002年の夏にオークションにかけられ、セットは解体されました)、そして更なるロイヤル・バレエの発展、失われがちである古典バレエの素晴らしさを尊重した作品を! という注目と期待が集まりました。ところがマカロワ版の2003年3月の幕開きも、さまざまな物議を醸す結果となりました。イタリア人美術デザイナー、ルイザ・スピナテリのまるで砂糖菓子のような淡いパステルカラーを基調としたバロック調デザイン(衣裳も)、舞台美術の効果に欠ける様々な点、小さなキューピットを中心にしたマカロワの新演出、マリンスキー劇場版を尊重した振付・演出は、ロイヤルらしさを欠く結果となりました。

2004年シーズン、最も人気の高いアリーナ・コジョカル&ヨハン・コポーが初日を飾り、大いに期待されましたが、コポーが2幕デジレ王子登場直後のソロで足首を怪我するハプニングが発生。ちょうど舞台袖から公演を観ていた、オランダ国立バレエから移籍した新プリンシパル、フェデリコ・ボネッリが予定より早いデビューを飾ることになりました。インディペンド紙のゾイ・アンダーソンはアリーナの愛らしいオーロラ姫、快活な切れのあるムーブメント、完璧なテクニックを絶賛していますが、3幕を通じて成長していくオーロラ姫を見ることができなかったことは残念だったと指摘しています。

一方、タマラ・ロッホのオーロラ姫は1幕の16歳から3幕の結婚のシーンに、女性としての成長を彼女の音楽的、演劇的、そして振付の解釈によってはっきりと表現していました。1幕ローズアダジオ&ヴァリエーションでは、彼女の演劇性+完璧なるテクニック(バランステクニック、芯のずれのないピルエット)で観客を魅了しました。イナキ・ウルレザーガは柔軟性のある跳躍、控えめながらも気品の漂うデジレ王子を好演。エドワード・ワトソンは女性のような柔軟性(背中の)、そして男性のエネルギーあふれる跳躍で魔女・カラボスを踊りました。その他、ゼナイダ・ヤノフスキーの気品と優しさあふれるリラの精や、フロリナ姫デビューを飾った崔由姫の長い手脚からまさに音楽が奏でられている軽やかで、上品な踊りが印象的でした。しかしブルーバードにキャストされていた、佐々木陽平が怪我のため観ることができなかったは残念でした。オーロラ姫に予定されていた吉田都も腰の状態が思わしくないため、公演がキャンセルになってしまい、多くのファンにはショックでした。

昨年の世界初演から、演出・振付に多少の変更が見られましたが、決定的な作品としては弱い部分を残したまま『眠れる森の美女』は幕を閉じました。ロイヤル・バレエとして尊重されるべき個性の作品への反映、改善が来年以降の上演に期待されます。

マクミランの大作悲劇バレエ『マイヤーリンク』(うたかたの恋)
 2003年の没後10年のメモリアル・イヤーに際して、マクミラン作品の上演が続いています。マクミランの3大劇的バレエの一つ『マイヤーリング』は、19世紀末のオーストリア=ハンガリー帝国のルドルフ皇太子とベルギー王女との政略結婚、そして17歳の愛人マリー・ヴェツラとの心中に至る苦悩に満ちた人生を描いた作品。マクミラン・バレエのドラマ性の高さはどの作品にも共通しますが、この作品では格別に時代的背景、宮廷社会の厳格さ、政治的な複雑さ、そのなかで退廃的に生きた不幸な皇太子の心情と人生が濃密に描写されています。『眠れる森の美女』などのおとぎ話の世界や、バランシンに代表される抽象バレエとは異なり、このような作品では、バレエのヴォキャブラリーを通して、いかにドラマ性を表現するかが注目されます。
 
今回、4キャストが発表されていますが、初日はタマラ・ロッホ&ジョナサン・コープ、2日目はアリーナ・コジョカル&ヨハン・コポーでした。コープは、これ以上はないと言われるルドルフを演じ、観客と評論家に絶賛されました。コープのルドルフは登場から何か暗い影を感じさせ、気の病に苦しむ姿を完璧に描写し、タマラは官能的でありながら少女の無垢な部分を決して失わないマリーを演じ、観客を魅了しました。完璧な感情表現、ダイナミックでスリルあふれる二人のパートナリングは、この悲劇をいかなる言葉で語るよりも強く観客の心に伝えました。ゼナイダ・ヤノフスキーのエレガンス、荘厳なエリザベート皇后(ルドルフの母)、リカルド・セルベラの切れのある素晴らしいムーブメントに悲痛感がにじみでるブラトフィッシュ(ルドルフの運転手)など、脇役の好演もさらに舞台を盛り上げました。一方、コポーのルドルフは落ち着いていましたが、人物的描写にはどこか物足りなさを感じました。『眠れる森の美女』での怪我が心配されましたが、コントロールされたムーブメント、跳躍でその不安をかき消しました。アリーナのマリーには、女性として成熟したエロティシズムが明白に表現されていました。鳥肌の立つほどのスリルと激しさに満ちたパ・ド・ドゥは、二人の完璧なパートナーシップを証明していました。その他、ローラ・モレラはルドルフへの未練に苦しむラリュッシュ伯爵夫人(かつての愛人)を好演しました。

ほかにも今シーズンは、カロルス・アコスタがルドルフを初めて踊り、彼の演劇的役柄への挑戦は印象深かったと評されました。6月のイレク・ムハメドフのルドルフ復帰も期待されています。

『マイヤーリンク』は、ロイヤル・バレエの演劇性、芸術性の高さを十分に味わうことができる作品の一つ。こうした素晴らしいロイヤル・バレエの財産を生かした作品のさらなる上演が期待されます。

「マイヤーリンク」ジョナサン・コープ


「マイヤーリンク」
タマラ・ロホ、ジョナサン・コープ



「マイヤーリンク」
タマラ・ロッホ、 ジョナサン・コープ

「マイヤーリンク」
タマラ・ロッホ


「マイヤーリンク」
タマラ・ロッホ


「マイヤーリンク」
タマラ・ロッホ、 ジョナサン・コープ



マクミランの最高傑作『ロミオとジュリエット』


『ロミオとジュリエット』はロイヤル・バレエの最も人気のある作品です。その魅力は、シェイクスピアの戯曲、プロコフィエフの音楽、マクミランの叙情的振付、そしてそのすべてを舞台に体現する優れたダンサーたちです。

初日を飾ったのはアリーナ・コジョカル&ロベルト・ボッレ。今までにはありえなかったキャスティングが実現しました(本来ダーシ・バッセルのキャストでしたが、産休のため変更)。アリーナとロベルトの40cm近くもあると思われる身長差は、様々な点で今までにないロミオとジュリエットを実現しました。アリーナの踊りは‘空気のような’、‘全く重力を感じさせない’と形容されますが、ロベルトにリフトされるアリーナは、まさにシルクシフォンのドレスが風になびくような軽やかさ、そして透明。仮面舞踏会でのロミオとの出会い、バルコニーのパ・ド・ドゥは、まさに初恋に酔いしれ、宙に舞う喜びが現されて、今までに観たことない印象を受けました。アリーナは子供っぽさのあふれるジュリエットを演じ、初めて人を愛し、その愛をただひたすらに貫く姿が印象的でした。貴族社会の社会環境と恋愛感情の板ばさみに苦しむ姿、社会的慣習によって死の選択を余儀なくされた悲劇は、あまり強調されていません。彼女の人間を超越した身体能力とテクニックは、時にはマクミランの振付を異なるもののようにさえ見せました。そこにはなめらかで柔らかいイメージよりも、シャープな感覚があり、ドラマ性の発露よりも、動きそのものに重きを置いているようなイメージを感じずにはいられませんでした。こみ上げてくる感情がテクニックで示されるよりも、精神や身体から溢れ出るムーブメントで彼女のジュリエットを観ることができる日が、近い将来に期待されます。

誠実なイメージを与えるロベルトのロミオは、シェイクスピアの原作に描かれた、人生への理解を次第に深め、人間的に成長していく姿はあまり強調されていないように思えました。それは、ロベルトは完璧すぎるほどのテクニック、貴族の子息というイメージを描く踊り、そして比較的控えめな感情表現のせいかもしれません。しかし、今最も理想的なロミオを演ずることができるダンサーは、ロベルトであることは間違いありません。

今シーズンは、シルヴィ・ギエム&ニコラ・ル・リッシュによる『ロミオとジュリエット』も予定されています。次回は全く異なるロミオとジュリエットをご紹介したいと思います。
 

 

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