渡辺真弓 text by Mayumi Watanabe

 

ロイヤル・バレエがバランシンを称えるシリーズ

 ユーロスターが開通して以来、パリ−ロンドン間の往復もずいぶん楽になり、今では新幹線の東京−大阪間とほとんど変わらず、2時間半ほどで行けるようになった。ただ遅れることが多いので、いつもちょっとはらはらさせられるが。

  今回のロンドン行きは、昨年春の<ヌレエフを称える夕べ>に続くもので、生誕100年記念のバランシン・プロで、シルヴィ・ギエムが名作『放蕩息子』のシレ−ンをどう演じるかに興味をひかれてのことである。ロンドンに着くと、オペラ・ハウスのブティックに、アリーナ・コジョカルのシンデレラが表紙の『ダンス・ヨーロッパ』誌が山積みになっていて目を引いた。『ジゼル』でのパリ・デビューに注目が集まっているようだった。
  <バランシン100 セレブレーション>と銘打たれた公演は、1月28日から2月25日まで行われ、筆者が見たのは1月29日である。

  一曲目は、ストラヴィンスキー曲『アゴン』。男性4人の踊りから始まるが、今シーズンからプリンシパルとして入団したイタリア人のフェデリコ・ボネッリをはじめ、ヨハン・コボー、エドワード・ワトソン、ヴァレリー・フリストフが機敏な動きで、好調の滑り出し。女性で注目されたのは、第2パ・ド・トロワに登場した若手のローレン・カスバートソン。けがをしたジェイミー・タパーの代役ということだったが、バランスもしっかり決め、ポール・ド・ブラも雄弁で、ひときわ大きな拍手を浴びた。昨年の<ダンシング・タイムズ>誌にプロフィールが紹介されるなど、ロイヤル期待の新人だ。最後の見せ場のパ・ド・ドゥは、ゼナイダ・ヤノフスキーとボネッリ。かつてパリ・オペラ座の契約団員だったヤノフスキーも、今やロイヤルの堂々たるプリンシパル。このデュオでは、ややぎこちなさが感じられたが、パートナーのボネッリが切れのある動きで、逸材ぶりを感じさせた。
  プロコフィエフ曲『放蕩息子』は、つい最近オペラ座も上演されたが、同じルオーのデザインによる美術と衣装でも、色彩やデザインが若干異なっている。この作品をそうたくさん見たわけではないが、これまで見たどのシレーンにもどこか物足りないものを感じていたので、ギエムはまさに理想のシレーンであった。これほど妖艶で官能的なシレーンがあっただろうか。独特の緩急自在の動きが新鮮で、存在感は圧倒的。この役に新たな光を当てた名演だった。放蕩息子を演じたカルロス・アコスタは、洗練されたオペラ座の放蕩息子たちとは違った野性的な味わいを見せた。


<シンフォニー・イン・C>第2楽章
ローレン・カスバートソン&デイヴィッド・マハテリ

 最後は、ビゼー曲『シンフォニー・イン・C』。たとえ白いチュチュをつけていても、一人一人が宝石のようにキラキラと輝いているオペラ座の舞台に対し、ロイヤル版は、全体が落ち着いたトーンのアンサンブルが魅力。まずきっちり背丈が揃ったコール・ド・バレエが気持ちよい。これは、オペラ座のアンサンブルが、背丈がふぞろいだったことに対する反動からか、整然とした美しさが感じられた。そして第1楽章のソリストにアリーナ・コジョカルが登場すると、最初のステップから、わくわくするような軽快なリズムを感じさせ、躍るような興奮を覚えた。オペラ座のエトワールたちに見られた不満の部分を、コジョカルは、こう踊るものとお手本を示したように、鮮やかに踊ってくれた。このように見事に踊られた第1楽章は見たことがない。これこそ本物のバランシンである。
 

  他によかったのは、コジョカルの相手役のイワン・プトロフ、第2楽章のカスバートソン、第4楽章のタマラ・ロホなど。コール・ドの中に、佐々木陽平や小林ひかる、崔由姫らの顔が見られたのもうれしい。なお、北九州市出身で、パリ国際ダンス・コンクールやローザンヌ賞入賞暦を持つ崔由姫は、入団1年目にして、3月のマカロワ版『眠れる森の美女』のフロリナ王女に抜てきされ、佐々木陽平と共演する。
  プリンシパルからソリストまでほぼ勢ぞろいで、国際色豊かになったロイヤルの現在が確認できた公演だった。

  シーズン後半に入ったロイヤル・バレエでは、『眠れる森の美女』再演の後、『マイヤーリンク』『ロミオとジュリエット』『アナスタシア』の全幕プロが続き、4月下旬から5月末まで、ミックス・プロ(アシュトン『ダフニスとクロエ』、フォーキン『バラの精』、ニジンスキー『牧神の午後』、ニジンスカ『結婚』)が上演される。
 

 

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