毎年、巡ってくる桜花爛漫の季節。こんなに絢爛豪華な花がいっせいに、こぼれんばかりに咲き溢れる国は、日本だけではないだろうか。花がたくさん咲き乱れている国、花を愛でる民族は多い。しかし、1年の内ほとんど10日くらいの満開の季節が、ひとつの国を縦断していく。私たちは、それを桜前線と呼んで推移をこころに描き、季節のうつろいを身体に染み込ませていく・・・。
熊川哲也の新作バレエ、『ベートーヴェン 第九』
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| 第1楽章 |
熊川哲也の新作バレエ『ベートーヴェン 第九』が、赤坂ACTシアターのプレミアム・オープニングとして世界初演された。
ルードヴィッヒ・ヴァン・ベートーヴェンの『交響曲第9番』は、1824年に初演された。以来、<未来の音楽を告げる人類の福音>(ワーグナー)とか<宇宙のカンタータ>などと賞賛されてきた。今日でもこの楽曲だけをテーマとした大部の著書が何冊も刊行されて、その永遠の魅力が語られている。
熊川は、この音楽を使って新しい劇場のオープニングを飾る祝祭的バレエを、演出・振付けた。
オーケストラのメンバーそれぞれにも衣裳を着けて舞台上の奥の中段に載せ、
その台をいくつかのアーチ型の足が支える。
4つの楽章は、「大地の叫び」「海からの創世」「生命の誕生」「母なる星」と名付けられ、それぞれを象徴するオブジェがダンサーと交歓する。ソプラノ、メゾソプラノ、テノール、バスを担当する歌手と合唱隊も衣裳を着けて舞台上で歌うので、ダンサーを加えた総計150名が舞台を行き交う、ダンスと音楽と美術が一体となった舞台である。
舞台美術・衣裳はヨランダ・ソナベント。指揮は井田勝大、演奏はシアターオーケストラトーキョー。そして特筆すべきは、ダンサー、熊川哲也が舞台に復帰したこと。
舞台は巨大な球体の内部を表していて、背後のアーチ型がいくつか繰り返される形が、全体のリズムを刻む。
第1楽章「大地の叫び」では、閃光が放たれ燃え盛るマグマの真っ赤な塊が現れ、清水健太を中心とした男性ダンサーたちがエネルギッシュに踊る。熱いカオスの脈動が伝えられる。
第2楽章「海からの創世」は、淡い水色の水面をデフォルメしたオブジェを巡って、水の豊穣と優しさが、泉が湧きだすような女性ダンサーたちの動きによって踊られる。
第3楽章「生命の誕生」は、花をあしらったオブジェと草木を描いたレオタードを着けたカップルのダンス。お互いを愛おしみ、愛と生命のドラマが描かれる。
第4楽章は「母なる星」。荒井祐子・清水健太、東野泰子・輪島拓也の二組の人類を代表するカップルと、太陽と月を表す衣裳を着けた宮尾俊太郎と遅沢佑介がコール・ドとともに様々のフォーメイションを繰り広げる。
ついには、黒いタイツ姿の熊川がスターのオーラを放って、10ヶ月ぶりに舞台に立った。そして、人類の永遠の歓喜を希求する神のごとき存在を踊る。やがてクライマックスを迎えると、未来のひとりの赤子が生まれおちて歩み始める。
背景は、金色に輝く未来永劫、変転する存在の核を表す同心円型のオブジェだった。
休憩なしの65分間、あっという間の祝祭だった。じつに流れの良い美しいダイナミックなパフォーマンスに魅了された観客が、盛大なスタンディングオベーションで応えた。
(3月14日、19日、赤坂ACTシアター)
伝統を継承する牧阿佐美バレヱ団のウエストモーランド版『白鳥の湖』
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| 伊藤、京當 |
良く知られるようにチャイコフスキーの『白鳥の湖』は、モスクワのボリショイ劇場で初演され、後にプティパ、イワノフの振付による歴史的な決定版が制作された。しかしロシア・バレエは、ロマノフ王朝から革命による共産主義政権への急激な変化による影響を免れることはできなかった。
『白鳥の湖』のプティパ、イワノフ版もそうした事情により、初演した振付家の趣旨を省みること無く、<時代の要請>といったような曖昧な大義名分から改変されてきた。
ロンドンには、ロシア革命を逃れて亡命してきたニコライ・セルゲイエフにより、古典名作バレエのステパノフ式舞踊譜が伝えられた。牧阿佐美バレエ団のテリー・ウエストモーランド版の『白鳥の湖』は、このヴァージョンつまり、プティパ、イワノフ版のオリジナルを基礎として振付けられている。
そしてウエストモーランドは、偉大な古典バレエの中の「マイム場面は、バレエ史の本質的な部分ともいえるものとみなしており(たびたびみられるように)意味のない振付にとってかえられるべきでなく、保存されるべきだ」とも語っている。
第1幕では、花を絡ませた椅子を置くなど、花を小道具として使って、ジークフリート王子の誕生日を祝う野外パーティの雰囲気を演出している。また、ジークフリートの王子らしい凛々しい気品を、王子に敬意を表す踊りなどで際出させる工夫を凝らしている。
老いた家庭教師のいささか愚鈍な姿は、若さあふれる王子とコントラストをなしているが、じつは王子の将来への漠然とした不安も映してもいる。
このヴァージョンの古風な印象の演出には、こうした伝統の芳醇な味わいが籠められていることに注目したい。
オデット/オディールは伊藤友季子、ジークフリートは京當侑一籠という前回の再演と同じキャスト。京當は堂々たるプロポーションで見事な王子ぶりだが、踊りは少し堅苦しい感じがしてしまうので、もう少しのびのびとした印象が欲しいと思った。伊藤は、いっそうスリムになり非の打ち所のない舞台姿だが、前半は悲劇を際立たせるエネルギーがやや弱いとも思った。ところが、それは抑えた表現だったのか、第4幕で初めて強い悲劇性を訴える踊りをみせて、作品全体をリードしてじつに感動的なものに導いた。良く計算された見事な演技だったと思う。
ほかにパ・ド・トロワを踊ったラグワスレン・オトゴンニャムが良かった。また、第3幕冒頭のパ・ド・カトルを踊った清瀧千晴と中島哲也も、活気に満ちた清新な踊りで喝采を浴びていた。
(3月8日、ゆうぽうとホール)
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| 第2幕 |
青山、逸見 |
スターダンサーズ・バレエ団の新作『シンデレラ』
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| 林、福原 |
スターダンサーズ・バレエ団を中心に活動し、『ドラゴン・クエスト』や『MISSING LINK』などを振付けている鈴木稔の新作『シンデレラ』全2幕が初演された。音楽はプロコフィエフ。
父親が多忙なビジネスマンでほとんど家庭を顧みず、義母や義姉妹にいじめられているが、純粋で優しく清らかな心を失わないシンデレラの夢を鮮やかに浮かび上がらせることに腐心した演出・振付である。
孤独だが優しいシンデレラは、ネズミたちと仲良しだし、パンを乞いにきたおばあさんにも優しかった。じつは彼らは妖精で、父に買ってもらったばかりのドレスを義母、義姉妹に破られて、王子の舞踏会に行けなくなってしまったシンデレラを魔法を使って助ける。
舞踏会のシーンでは、王子が登場するまでは男性ダンサーに踊らせて雰囲気をしだいに高めていく。やがて王子が登場して、妖精たちによって美しく着飾ったシンデレラを一目見て恋におちる。この二人の出会いのパ・ド・ドゥは、輝くばかりに初々しくじつに素晴らしかった。ネズミたちも人間の姿になって、夢の世界に戸惑うシンデレラを懸命に励ましサポートする。
プロローグ風に王子が花嫁を探しているシーンを見せて、偶然、シンデレラと王子を見ず知らずの他人としてすれ違わせたり、父親をビジネスマンに設定するなど、すっきりとした現代的な感覚を感じさせる演出を施している。
ラストシーンは、王子とシンデレラが無事に結ばれ、父親と義母もまた和解するというハッピーエンドになっていて至極明快で馴染みやすい。
クールで無駄のない舞台美術は、レズ・ブラザーストーンに師事したという、二村周作でよく考えられて創られていた。
(3月15日、ゆうぽうとホール)
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