映像でフォーサイスも登場、ヤン・ファーブル『死の天使』の異色の舞台
世界的な現代美術家、アンディ・ウォホールが「全男性抹殺団」というグループの女性に狙撃され、危うく一命をとりとめた事件を素材にしたダンス、というだけでも充分に異色だが、ウォホール役でウィリアム・フォーサイスが映像出演するという話題も加えられた作品。『主役の男が女である時』や『わたしは血』で、過激な舞台を展開したベルギーの尖鋭なコンテンポラリー・アーティスト、ヤン・ファーブルがテキストを書き、構成・演出した、超異色のダンス・インスタレーション・パフォーマンス『死の天使』を観た。
入場すると整理券を渡され、コートや鞄などの荷物をクロークに預けるように要請される。ロビーに整理番号順に並んでしばし待つと導かれて場内に入るが、客席は素通り。列をなして舞台上に上がると、中央に四角い台座があり、女性ダンサーが半裸で奇妙な格好をしてうずくまっている。手を伸ばせば届く位置の舞台上の舞台を車座になって何重にも取り巻いて座り、パフォーマンスに臨む。
閉鎖された舞台空間の4面には、姿見のように細長い巨大スクリーンが設えられ、どこか古い博物館の一隅のような、標本が並べられたGケースが置かれた薄暗い空間が漫然と映っている。
ひと呼吸あって、女性ダンサー、イヴァンナ・ヨゼクが呻き声をあげ始める。マイクを通して強調された呼吸音や唾液をすする音が、エイリアンの声かあるいは巨大昆虫が何かを咀嚼しているかのような・・・通常の人間から発せられない生命の軋み音から舞台は始まった。
ヨゼクは奇妙な音声を発しながら、<昆虫振り>とでも形容したい極端に関節を強調して、可能なほとんどの関節を90度以上に折り、人間的なものを排除した動きをみせながら立ち上がる。昆虫や爬虫類を思わせる表現に徹しているが、見事なプロポーションの美しいダンサーだった。
当初は映像の奥にチラチラしていたフォーサイスが、白いパンツを纏っただけで歩み寄ってくる。気持ちお腹がふくらみ気味。
「私は死から戻って来た」という。生死の境を彷徨っていたウォホールの霊、<死の天使>である。そして4面のスクリーンのあちらこちらの面から、ランダムに登場して象徴的なセリフを吐き、ゆっくりとした動きのダンスを見せる。
ヨゼクは、死の天使のセリフに反応したり無視したりしながら、パフォーマンスを続ける。映像は、フォーサイスとは別に、乱雑に並べられた頭骸骨や双子の赤ん坊のアルコール漬けなどの標本、陳列されたミイラなどを映す。
死の天使=ウォホールのスピリチュアルな男性の姿をしたフォーサイスと、ウォホールの身体の中のヨゼク演じる女性の姿をした原生命体との言語を超越した対話、とでも言ったいいのだろうか。
グロテスクな美に彩られた、じつにエキサイティングな異色パフォーマンスだった。
(2月9日、彩の国さいたま芸術劇場 大ホール)
バレエ・プレルジョカージュが『受胎告知』を日本初演
新国立劇場開場10周年記念公演の一環として、コンテンポラリー・ダンスの「未来へ繋ぐトリプル・ビル」が開催された。平山素子の構成・演出で、振付・出演が平山と中川賢の『Butterfly』、野坂公夫、坂本信子の振付、演出による『曲線(カーブ)した声』が再演され、アンジュラン・プレルジョカージュ振付、美術による『受胎告知』が、日本初演された。
『受胎告知』は、1995年スイス・ローザンヌ歌劇場で初演され、97年にはニューヨークでベッシー賞を受賞している。音楽はステファン・ロイの「クリスタル・ミュージック」とヴィヴァルディの「マニフィカト」が使われている。
出演は、リヨンのコンセルヴァトワールで学び、01年にバレエ・プレルジョカージュに入団した白井紗と、ジュリアード・スクールに留学しトワイラ・サープやビル・T・ジョーンズのカンパニーで踊り、06年まではバレエ・プレルジョカージュでプリンシパル・ダンサーだった大岩淑子だった。
舞台は、L字型のソファーベンチが置かれているだけ。女性が一人腰掛けている。カメラのシャッター音などが混じり、現実のざわめきが聞こえてくる。もう一人の女性が登場して、日常の音が遮断されて抽象音となる。二人の出会いがあり、ユニゾンする動きが繰り返される。音楽がマリアを讃歌するヴィヴァルディの「マニフィカト」に変わる。
余分な装飾はすべて削ぎ落とされた、鋭いシャープな明快な動きで構成されているのだが、よく整えられているので静かで滑らかな女性的なものも感じさせる。
身体にもうひとつの命が宿る、<聖なる時間>が二人の女性の間で共有された、という印象を刻印された舞台だった。
(2月15日、新国立劇場 小劇場)
コンドルズの『UFO』、ブラジルツアー2008前夜祭:新
コンドルズの『UFO』が、360度公開された。主宰者の近藤良平がUFOに遭遇したのは、南米にいた頃。「友達と草サッカーの試合中、アンデス山脈方面から飛来する謎の円形飛行物体が敵陣ゴール前に不時着した」時だそうだ。
それはまず、宇宙人が地球のレストランでテーブルを囲んだ時に始まった。何でメニューに<イタリアン>と<ミラノ風>が混在しているのか? という疑問。宇宙人の感受性からは、とうてい考えられない矛盾の放置である。この疑問点からドラマが始まる、というじつに他愛ない、あまりに他愛なきオープニング。そしてさらにその他愛なさは深化して、楽しい踊りとコント、歌が続く。
フィギュアで演じられる宇宙大戦争の宇宙人たちと、地球人たちの抱える悩みのギャップ。人形を使ったり、星やミラーボールなどのイルミネーションの美しさ、可愛らしさが舞台を彩る。大当たりとなった角界の親方シリーズでは、横審の某内館女史まで登場したのは、驚いて抱腹そして爆笑した。
どんなギャグだろうと、誠心誠意、猪突邁進する学生服のショーストッパーたちの情熱に脱帽である。
今回は、360 度観客に囲まれた舞台。コンドルズといえども額縁公演が多かっただろうから、中だるみ的な印象無きにしもあらずだった。早くもギャグに採り入れられていたが、「近藤さんもっと踊って」という声のかかる前に、息切れのご注意である。
(2月23日、青山円形劇場)
dance today vol. 2のコンテンポラリー・ダンスから
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| 『Fuu---風の音---』 |
ソロとグループを含む6つのダンスが踊られた「dance today vol. 2」の公演を観た。
・立花あさみ『Fuu---風の音---』
加藤みや子ダンススペースの中心メンバー立花あさみと、シンガーソングライターのJEHOがコラボレーションした舞台。
まだ暗い舞台をハーモニカだろうか、淡い音を鳴らしながら横切る。再び現れまた消える----風の気ままさを感じさせる上手いオープニングだった。舞台上には椅子がひとつ置かれ、その頭上に白い大きなリングが吊るされている。自然を象徴的に捉えたシンプルな装置である。
音楽は、人間が感じる風の音の様々なものを要素にして、その美しさを表す曲。動きは、音をリズムとしてだけ捉えるのではなく、長さとか音色、響きなどを身体で感じ共鳴して構成されており、なかなか興味深かった。
ラストシーンでは、白いリングが光りを浴びて椅子に座ったダンサーの頭上でゆっくりと回転する。風を抽象画で描いたような美しいものだった。後半やや動きのバラエティが少なくなったのが残念だったが、振付家のユニークな感受性が感じられ印象深かった。
・Mix Nuts 『月の汀』
馬場ひかりが4人の女性ダンサーを使って振付けたもの。
月の光を食べている4人の妖精たちが、月の浜辺で踊っているような情景をじつに手際良く創っていた。スローな動きから、走り回って喜びを表すなど、馬場ひかりならではのリリカルで表情豊かな構成だった。
月の光の中に命の戯れが浮かび上がる、静かな時間を味わうことができた舞台である。
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| 『月の汀』 |
『月の汀』 |
・北村真実ダンススペース『ハッ!と』
まず、5つの椅子の上に6つのお尻が並んだ。明るい曲にのせてキュッキュッと動き始める。5つの椅子にそれぞれ思い思いの帽子を着けた6人の女性ダンサー。恒例の椅子とりゲームをモティーフにした踊りが軽快に展開し、音楽が突然『春の祭典』になり、激しい動きの中、帽子を失った犠牲者が・・・。今度は一転してラグタイムの曲が流れて一人一人が椅子を持った踊り、という具合に見事な流れが続く。明るく楽しいイキなステージである。
最後は、はみ出したダンサーが椅子に座った5人のダンサーの膝の上に身を投出し、その帽子が誰かに奪われ投げ捨てられ、思わず「ハッ!と」なる、というオチが着いた。
(2月13日、あうるすぽっと)
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| 『ハッ!と』 |
『ハッ!と』 |
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