加藤みや子ダンススペースが『蓮の花』『笑う土』を上演
『蓮の花』は、岡田隆彦の未完の詩「蓮の花・世界は開く」に基づいて創られたソロ・ダンス。
大きな淡いグリーンのショールを肩に纏った加藤みや子に、水面に光りを投じた反映のような照明があたり、静かにダンスが始まった。無音の中でショールを外すと、ピンクのサリーのような衣裳。木の鈴を振るような音が微かに流れる。しだいに舞台の手前に近づくと、そこには水を張ったガラスの大きな器があり、光りに満ちた水面が揺らいでいる。無音の中でを踊るシーンなどがあって、冷えきった身体に暖かい血が通い始めるように、ピアノの音が流れて、生命の息吹が舞台に満ちてくる。加藤の踊りがいっそう軽やかになるが、やがて天寿が尽きたかのようにピンクの身体は床に横たわる。
1000年の年月を越えた種子が花を咲かせるという蓮の花。その花の花弁が開く運動が、まるで生命の円環を表しているかのように感じられるダンスだった。
『笑う土』とタイトルを聞いた時には『山の音』という小説を思い浮かべたが、ダンスは山村の夜のシーンから始まった。夜は、地中のエネルギーが律動している。
ここには音はふんだんにあった。語りのリズム、生きるリズム、下駄のリズム、歌うリズム、風のリズム、キノコ汁を食べるリズム、そして排泄のリズム。魂は地中深くを巡って語り合い、想像力が翔けて奇妙なオブジェを作る。あらゆる感情が混交して笑いが生まれ、それはもちろん踊られることになるだろう。
力強いフォルのダンスと、自由闊達な表現のヴィジュアル、溢れるばかりの音などが見事にバランスのとれた素敵な舞台だった。
来年の夏にはブラジルで『笑う土』は踊られるという。ブラジル人のダンサーもジョイントする予定だ。地球の裏側でも再び笑いの花が咲くことになる。
(11月1日、青山円形劇場)

「笑う土」 |

「笑う土」 |
DANCE COMPANY BABY-Qの『GEEEEEK(ギィィィィィク)』
東野祥子がBABY-Qに振付けた『GEEEEEK』は鮮烈なダンスだった。『GEEEEEK』とは、祭りなどで異常な見世物をみせる芸人を意味するGEEKをさらに強調したもの。
シャンデリアが吊るされた上手のコーナーに、真っ赤なビロードの幕が垂れて裾が床に触れている。半裸の女性の身体とおぼしき物体が、幕の内側にゆるゆると引き込まれていく、といういささかホラー映画風の幕開きだった。
ノイズをコラージュした激しいサウンドと、ほとんど無茶苦茶に見える幼児がむずがって暴れる時の引き攣ったようなダンサーの動き、顔が前後真逆に付いているかのように錯覚させる奇態な扮装、昭和の風俗の断片やランダムな幾何模様やぶっきらぼうなマジック書きなどの映像の乱舞、などなどがかなり強烈なインパクトを持って交錯する舞台だった。
とりつくろった精神性は皆無だが、奇天烈なポーズや鬱屈した身体を突き動かすエネルギーには満ち満ちている。
最後の東野のソロが圧巻だった。すべてのイメージはこのダンスの中に秘められていたのか、と実感させられた。
(11月3日、森下スタジオ)
馬場ひかりソロ・ダンス『夜叉ケ池』 泉鏡花の戯曲『夜叉ケ池』をソロ・ダンスで踊るというアイディアは、じつに素晴らしいことである。この作品は、母性に照応する水のイメージや神秘性など女性の存在そのものを象徴的に描いており、エッセンスを抽出してソロ・ダンスに構成すれば、幻想的な美の軌跡を創ることができると思われる。
下手に水色の布を置いて池を表し、中央に2枚のガラス板を並べて水面を作っている。紗幕の中で馬場の百合が日常的な生活を営んでいるシーンから始まった。紗幕は、さまざまの角度の光りを投じて、水が変幻する様をみせる。
ソロ・ダンスの流れに連れて、パーカッションを中心とする音楽が奏でられ、女性の愛のたかまり、情念の移り変わりが露にされる。
後半は、鱗を付けた尾をもつ白い衣裳で、セリを使って水底から浮かび上がってくるように馬場の白雪は登場する。白雪の恋慕の踊りがあって、人間世界に耳をすます。
そして竜神の封印が解けると、客席のすべてを含めて劇場の空間が水没する。水底の藻がさざ波にそよぐように、幻想の中心に百合の魂の姿が垣間見えたかのようだった。
ニューヨークでじっくりダンスを身につけた馬場らしく、簡潔にテクストをまとめた的確な表現で説得力のある作品を創った。必要充分にしてシプルな装置と、こころの揺らぎを水面と光りのうつろいに映したような照明のテクニックが、馬場のダンスと相まって、レベルの高い舞台を創った。
(11月22日、俳優座劇場)
多彩なダンサーたちが踊った上田遙の『翼の見る夢』
西田堯、西島千博、柳瀬真澄、島田衣子、橘るみ、三木雄馬などが出演した上田遙のダンス・リサイタルが開催された。
全体は3部構成になっており、まずは、懐かしいポップスのヒットメドレーとパフォーマンスを合わせた舞台。プレスリー、ビートルズ、沢田研二、山口百恵、宇崎竜童、井上陽水、長渕剛、矢沢永吉ほかと、大ヒットした歌を聴いただけで歌の強烈な魅力にひっぱられてしまう。ただ、白いトップとショートパンツで「イマジン」を踊った島田衣子は、清潔な若々しい美しさの溢れる潔のいい踊りっぷりで、格別に素晴らしかった。ぜひ、また踊ってもらいたいと思った。
次のパートは、天使と人間のエピソードを描いたロマンティックなショートストーリー。流体力学を学んだお父さんがサラリーマンとなって、お母さんの尻にひかれ、今ではわずかに紙ヒコーキに夢を託している。このお父さんの夢を天使が補ってあげる、というお話。お父さんには上田遙が扮していた。コミカルな味がでていたが、あまりにナレーションで説明し過ぎて少しクドく感じられた。
最後は、バレリーナを目指していた妹を戦争で失った音楽家が、彼女のために作曲していた曲が挫折してしまい、完成する力を失っていた。天使の助けによって、なんとか曲を完成することはできたが、その瞬間に死んでしまう。しかし天使のはからいにより人生を完結させる、というロマンティックな話。
天使には西島、音楽家には西田が扮して熱演している。妹役は橘るみで、見事なヒロインぶりだった。
(11月10日、青山円形劇場)
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