関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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2007年もいよいよおしまい。みなみなさまの07年はいかがでしたでしょうか。
素晴らしいことがあった方、今イチだった方、今サンだった方、08年は、さらにさらに良い年でありますように!

愛の情感があふれる格調高い悲劇となった『椿姫』

 新国立劇場開場10周年シーズンのオープニングの舞台となった、全幕バレエ『椿姫』は、牧阿佐美の渾身の振付・演出であった。
 周知のように牧阿佐美版の『椿姫』は、有名なヴェルディのオペラからではなく、原作者デュマと同時代に生きた同じフランス人作曲家エクトール・ベルリオーズの音楽を使って制作された。東京フィルハーモニー交響楽団を指揮したエルマノ・フローリオが、ベルリーオーズの『幻想交響曲』やオペラなどの音楽を情景的、情趣的に精緻に選んで編曲し構成している。
 こうして幻想的でロマンティックでいささか耽美的な、情感が豊かに流れる音楽と、品の良く組み立てられた振付と主役の見事な踊り、繊細で美しい美術、衣裳、ソリスト、コール・ドたちの正確なダンスなどが、じつにレベルの高い舞台を創った。近年、特筆すべき日本のバレエの成功作、といえるのではないだろうか。

 さらに、アルマンの父親を息子を律する社会的な厳しい存在としてではなく、父性を強調した息子の愛を見守る者として描いたことも大きな成功の要因だろう。もちろん具体的に表現されているわけではないが、マルグリットとアルマンの父親の間には、この愛の運命に対する共通の悲しい気持が流れている。それがこの悲劇をいっそう深いものとして観客に訴えかける。そしてまたベルリオーズの音楽の曲調が、その悲劇を歌うのに誠にふさわしいものであった。

 ザハロワは、作品全体を通してマルグリットの人物像を浮かび上がらせており、こころに残る存在感を味合わせてくれた。マトヴィエンコも熱演して、アルマンの心情を余すところ無く気持ちを込めて表現していた。

 牧阿佐美芸術監督による新国立劇場バレエ団の大きな成果として、近いうちに再演することを切望したい。
(11月4日、新国立劇場 オペラ劇場)

K バレエ カンパニーの「トリプルビル」と『白鳥の湖』

 K バレエ カンパニーが『パキータ』『ラプソディ』『カルメン』のトリプルビルと、熊川哲也版『白鳥の湖』を再演した。熊川はまだ舞台に立つことはできないが、多くのK バレエのダンサーたちの踊りを観ることができた。
 まずは、松岡梨絵と清水健太、中村祥子と宮尾俊太郎がそれぞれ、カルメンとドン・ホセを踊った舞台。

 長身で小顔の中村祥子のカルメンは、ジジ・ジャンメールが初演した時と同様のショートカットが似合って、独特の魅力を醸した。そしてやはり力強く迫力があり、女性としてということを越えて人間としての生きる姿勢を鮮明にし、ホセを拒絶しているかのようにすら感じられた。  予想外といっては失礼だが、宮尾のホセがじつに印象深かった。心情を全面に出して、キャリアで優る中村に全身でぶつかっていくような演技だったが、ラストシーンでは、カルメンをナイフで刺して、やっと自縛の苦しみから解放され、あの優しいメロディが流れて、ふっと、いい表情がでた。

 一方、松岡梨絵のカルメンは、野性的というよりは都会的な女性といった雰囲気。ショートカットが大胆なふてぶてしさよりも、クレバーな自分を見失わない明快さを感じさせた。清水のホセは的確な踊りで、きちんとして表現をしており、二人の息も合っていた。
 清水は荒井祐子と踊った『ラプソディ』でも、小気味よくリズムにのって上手いコンビネーションをみせた。この曲は、輪島拓也と東野泰子の組み合わせでも観た。輪島の細かいステップのスピード感と東野のエレガンスな雰囲気が良く調和して感じられた。

『パキータ』は、遅沢佑介と浅川紫織が豪華さを出して踊った。また長田佳世と遅沢の舞台では、長田はゆとりがあり、ゆったりと作品全体をリードして踊っていた。
(11月10日、11日、文京シビックホール)

 2003年に初演されて、今回が4度目の再演となる『白鳥の湖』。再演のたびに演出に手が加えられているのだが、3幕と4幕の演出は特に優れている。
 特に3幕は、ブルメイスティル版など過去の演出の良い点もとりいれているのだろうが、演出が細やかでドラマティックで情趣に富んだ構成となっている。
 ナポリタンとマズルカは、通常の演出のように祝典のゲストが踊るディヴェルティスマンだが、スペインはゲストに紛れたロットバルトの手下たちであり、オディールはロットバルトの娘として登場して、いつもオデットとは別のダンサーが踊る。つまり、王国の簒奪を目指す勢力が浸透しつつある情勢の中で、王子は花嫁を選んで、大きな責任ある国政を担わなければならない、というドラマの背景がしっかりと描かれている。
 ロットバルトは、王子にオディールへの永遠の愛を誓え、と迫るが、人生経験が豊かで政治的な情勢も感知しているはずの家庭教師が制止する。しかし、さらにオディールが魅惑的に踊り、王子を完膚無きまでに誘惑して、ロットバルトはこの陰謀を完成させるのだが、こうした演出もそうした背景の中で描かれている。
 王子の友人のベンノと家庭教師が、王子の気持ちを忖度して細かく動くので、王子の気持ちが自然と観客にも伝わってくる。そして王子自身も、花嫁選びのシーンでは、オデットへの想いを表すように動く。また、王子がこの中から誰も選ばないと分かって花嫁候補たちが動揺するシーなどもあり、王子はボンヤリと玉座に座っていられるような情勢ではない。

 ゴールスキー版などの系譜を継ぐロシアの演出では、狂言回し風に道化を踊らせて、家庭教師やベンノを外すことが多いが、熊川ヴァージョンは、演劇的伝統を重んじる英国のバレエ界に長く身を置いた熊川ならではの独創といえるだろう。
 ジークフリート王子を踊った清水健太は、熊川演出に応えてよく動き、細心に踊った。オデットの浅川紫織は、柔らかいラインを描いて踊って魅力を出した。これからもラインが小さくならないように、より魅力的なオデットを心がけてもらいたい。

 松岡梨絵のオディールは好演だった。特に、3幕の最後のヴァリエーションは説得力があり、観客を物語の核心に引き込む力があった。そのほかのソリストにもそれぞれソロがあり、単に物語を語る駒としてではなく、人物として描かれている点も演出を優れたものにしている。
(11月17日、Bunkamura オーチャードホール)

『カルメン』 『パキータ』 『ラプソディ』
『白鳥の湖』
 

 

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