関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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金井芙三枝リサイタル No.28 ---Final ---

 第1回のリサイタルは1962年。それからおよそ50年、未だ見事な舞台姿の金井芙三枝だが、今回の公演によってファイナルとするそうだ。
『未亡人〜チェホフ「熊」より〜』(台本・演出/金井芙三枝、演出・振付/二見一幸)、『千の囁き』(振付・衣裳/飯塚真穂)、『ブルーにこんがらがって』(振付/内田香)、『五重奏〜金井芙三枝「五重奏」より〜』(振付/波場千恵子)、『月蝕〜闇の中の精霊たち〜』(振付/坂本秀子)、『可愛い女〜チェホフ「可愛い女」より〜』(台本・演出/金井芙三枝、上田遥、振付/上田遥)という充実したプログラムが組まれていた。
 金井芙三枝の嚇々たる舞踊歴については、多くの人々に語られているので、私などが口を挟む余地はない。

 金井がラストステージとして選んだ作品は、アントン・チェーホフの『可愛い女』だった。
 75歳の<可愛い女>が語る三つの恋の物語である。劇作家と医者、そして郵便配達夫という人生で出会った三人の男性について、可愛い女の金井が愛する心のすべてを全身で表す。黒子兼コール・ドのコロスが効果的である。
 若い恋する女と老いた女を、金井は同じ衣裳のままじつに見事に演じ分ける。そして三人目の郵便配達夫のラブレターを手にソロを踊る可愛い女、金井の初々しい舞姿を、私は生涯忘れることはできないだろう。
 金井芙三枝がファイナル・リサイタルの結びに使った言葉は、「雀百まで踊り忘れず」であった。
(8月31日、新国立劇場小劇場)


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東京小牧バレエ団の『ペトルーシュカ』『薔薇の精』『白鳥の湖』

 東京小牧バレエ団が創立60周年記念公演として、ストラヴィンスキー『ペトルーシュカ』、ウェーバー『薔薇の精』、チャイコフスキー『白鳥の湖』第2幕を上演した。
 どの作品も、世界大戦前の上海のフランス租界のライシャム劇場で踊っていた作品を、小牧正英(名誉団長)が戦後、日本に持ち帰った舞台を継承している。当時は、革命を逃れて亡命してきたロシア人舞踊家などを中心に、上海では盛んにバレエが上演されており、いわゆる<上海バレエ・リュス>と呼ばれた。
 来年は日本・モンゴル国交樹立35周年にあたるそうだが、今回の東京小牧バレエ団公演にもモンゴル国立バレエ団から、日本でもお馴染みのアルタンフヤグ・ドゥガラー、ビャンバー・バットボルト、日本人団員の長崎真湖ほかの計4名が参加した。

『白鳥の湖』第2幕は、ジークフリートをドゥガラーが、オデットを東京小牧バレエ団の周東早苗が踊った。近年では省略されることの多い、ジークフリートの友人ベンノが登場して、結婚を望まれる王子の心を表す演出である。周東は04年にはモンゴル国立オペラ劇場に特別出演したこともあり、落ち着いた舞台だった。
『薔薇の精』は、リガ出身でラトビア国立オペラ劇場バレエ団から移って、新国立劇場バレエ団のソリストとなったグリゴリー・バリノフと少女の役を長崎真湖が踊った。バリノフの軽快な踊りが印象に残った。
 そして『ペトルーシュカ』。バットボルトのペトルーシュカ、モナコのベゾブラゾワに師事しやはりモンゴルのオペラ劇場でも踊った経験のある東京小牧バレエ団の関根かなみがバレリーナ、ドゥガラーがムーア人、というキャスティングだった。見せ物小屋があり、さまざまな人々が集う謝肉祭の広場の喧噪から、ペトルーシュカ、バレリーナ、ムーア人の3人の関係へと物語が進んで、ラストの感動的なシーンまで、流れのいい舞台であった。
(8月27日、新宿文化センター)


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韓国ユニバーサル・バレエ団による『沈清(シム・チョン)』

 韓国のユニバーサル・バレエ団が3年ぶり13回目の来日公演を行った。キーロフ・バレエ団で22年間芸術監督だったオレグ・ビノグラドフが、1998年以来ユニバーサル・バレエ団の芸術監督を務めている。団長は、このバレエ団の創設メンバーで韓国を代表するプリマバレリーナでもあったジュリア・ムーン。
 グランド・バレエ『沈清』全三幕は、語り物の民俗芸能パンソリの『沈清歌』がオリジナルであり、韓国では誰もが知っている話である。振付はユニバーサル・バレエ団の初代芸術監督、エイドリアン・ダラスだが、その後、ビノグラドフが改訂を行っている。物語は、孝行娘の沈清が様々の困難を経て王の后となり、父親たちの盲目を癒す、というもの。

 沈清役のファン・ヘミンは、ワシントンのユニバーサル・バレエ・アカデミーとモナコ王立バレエ学校で学び、様々なバレエ・コンクールでの入賞歴をもっている。国際的に活躍する韓国の若手バレリーナの代表である。スレンダーで美しい身体を充分に駆使して、父親への愛情を深くめんめんと訴えた。
 NBAバレエのガラ公演に出演した経験のあるイ・ヒョンジュンの船長、ノボシビルスク・バレエ学校出身のセミョン・チューディンの龍王子などは、大型の男性ダンサーとして、逞しいダンスを見せた。
 全体に身体能力に優れたダンサーが多く、男性の力強い踊りと女性の静かな踊りがコントラストをなして、このバレエ団の特徴を出していた。バレエ教師の中に、来日公演でも印象的な舞台を残したキーロフ・バレエ団のエフゲニー・ネフの名前を見つけ、しばし懐かしい想いにかられてしまった。
(8月30日、新宿文化センター)


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