佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki
※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。
> > >

ヤン・ファーブル『主役の男が女である時』日本初演

 ベルギーの異才、ヤン・ファーブルが演出・振付・舞台美術を手掛けた『主役の男が女である時』(2004年)が日本初演された。ダンス以外でも、美術家や演出家、脚本家として多彩な活動で注目されるファーブルだが、これは実に意味深長で、過激な作品だった。
 黒い布で囲まれた舞台で、黒のパンツスーツを着た韓国人ダンサーのスン・イム・ハーが、床に置かれたオリーブオイルの瓶を次々に拾い上げ、天井から吊るされたワイヤーに一本ずつかけていく。オイルが滴り落ちるのを見やり、カンツォーネ『ヴォラーレ』の明るいメロディーを聞きながら、男の模倣か、タバコをくゆらせ、カクテルを飲む。上着を脱ぎ、黒いテープを貼った胸を露わにするや、より大胆に動き始め、パンツから取り出した銀の玉(睾丸の象徴)を床にころがし、胸や股間に入れ、音を立ててもてあそんだ。
 オイルの瓶の蓋を開け切り、オイルが床を覆うと、彼女は睥睨するように客席を見据えて全裸になった。清めの香油のようにオイルを全身に浴び、平然と股間を開き、オイルを飛び散らせて床を転げ回る。滑る床での振りは限られるため、同じ動きを執拗に繰り返し、動物的な獰猛さを露呈させていく。頂点に達したのか、女はオリーブの枝の冠を勝利者のように被り、股間から取り出したオリーブの実をカクテルに入れ、艶然と飲み干した。
この作品は、両性具有的な身体を持つとされるリスベット・グルウェーズのために作られ、彼女により初演された。今回踊ったスン・イム・ハーの肉体は見るからに女性的で、そのため男性性と女性性を行き交うイメージは後退し、男性性を揶揄する趣が優ったようだ。なお、オリーブオイルにしても、キリスト教や古代ギリシャのオリンピックに係わるコンセプトは日本人には馴染みが薄い。果たしてその比喩が十分に伝わったかどうか。ただ、スン・イム・ハーは、ファーブルがダンサーや役者に求める「美の戦士」にふさわしい強靭な精神力と身体表現を存分に発揮していた。(6月30日、彩の国さいたま芸術劇場)

ロホ&カレーニョの『ドン・キホーテ』で世界バレエフェス全幕特別プロが開幕

 英国ロイヤル・バレエ団の新星タマラ・ロホと、アメリカン・バレエ・シアターの人気者ホセ・カレーニョを迎え、東京バレエ団がワシーリエフ版『ドン・キホーテ』を上演した。第11回世界バレエフェスティバルの一環としての全幕特別プロの第一弾である。この二人、前回の世界バレエフェスティバルで初共演し、『海賊』や“黒鳥のパ・ド・ドゥ”のほか、『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥも踊っているだけに、息遣いは見事に合っており、日本人ダンサーに違和感なく溶け込んで、華やかに舞台を盛り上げていた。
スペイン生まれのロホとキューバ出身のカレーニョだけに、気のせいか、二人が登場するだけでラテンの香りが漂ってきた。プロローグで、ドン・キホーテのひげを剃るバジルのカレーニョと、その邪魔をするキトリのロホは、陽気に振るまい、表情豊か。続く広場の祭りでの、焦らしあったり、嫉妬したり、ストレートに情熱をぶつけるといったやりとりはお手のもの。おきゃんなキトリや天真爛漫なバジルの性格を爽快に演じた。カレーニョは身体で音楽を奏でるようにしなやかに舞い、いとも軽々とロホを片手でリフトした。ロホは快活さを際立たせたが、スカートの裾を手で持って品を作ると、別の魅力がこぼれ落ちた。「夢の場」では、一転して静謐で優雅に踊った。
“狂言自殺”はオーバーな演技でなく、さらりと笑わせた。圧巻はグラン・パ・ド・ドゥ。ロホは力強い跳躍、ダブルを入れたフェッテや疾走するピケ、時間が止まったような片足バランで目を奪った。カレーニョもダイナミックなマネージュや、変化に富んだピルエットで沸かせた。超絶技巧のオンパレードだが、二人の品の良さが上質な感動を誘った。
東京バレエ団のダンサーたちも輝いていた。中でも、エスパーダの高岸直樹とメルセデスの大島由賀子が颯爽としたスケールの大きな踊りで華を添えていたのと、若いジプシー娘の井脇幸江の悲しみを全身から波打たせたソロが印象に残った。また、例えばロホのフェッテのタイミングにピタリと音楽を合わせるなど、アレクサンドル・ソトニコフの鮮やかな指揮ぶりにも触れておきたい。(7月29日、東京文化会館)

 

Copyright チャコット株式会社 All Rights Reserved.  
当サイトに掲載されている情報の無断転載、無断掲載、無断引用 はお断り致します。