佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki
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モーリス・ベジャール・バレエ団『バレエ・フォー・ライフ』『愛、それはダンス』

 スイス・ローザンヌを拠点とするモーリス・ベジャール・バレエ団が2年振りに来演した。この巨匠が2007年1月1日に80歳を迎えるのを記念するシリーズの第2弾である。プログラムは、英国のロック・グループ、クイーンの音楽とベジャールの出合いが刺激的な『バレエ・フォー・ライフ』(1997年)と、今回日本初演となった、往年の作品から名シーンを抜粋して愛と生を謳いあげた『愛、それはダンス』(2005年)の2演目だった。

 『バレエ・フォー・ライフ』は、同時期に同じ45歳で没したクイーンのヴォーカリスト、フレディ・マーキュリーとベジャール芸術の最高の体現者ジョルジュ・ドンに捧げるオマージュとして創作された作品。冒頭の「イッツ・ア・ビューティフル・デイ」で、白い布をかぶって横たわるダンサーたちが起き上がり、顔を見せ、立ち上がり、布をまるめて動き出したのに続き、フレディを思わせるレオダードの男(J・ファヴロー)が現われ、スペクタクルなショーが始まる。「ブライトン・ロック」や「ボーン・トゥ・ラヴ・ユー」といった数々のヒット曲の間に挿入されたモーツァルトは、異質ながら作品の奥行きを深めていた。また、白と黒を基調としたヴェルサーチの衣裳も際立っていた。

多彩な男女のデュオやソロのほか、両手に羽根を持って跳び回る恰幅の良い天使(V・ヒメネス)や、モーツァルトのピアノ協奏曲第21番にのせて、男女がデュオを、その傍らではストレッチャーに横たえられた男女と看護師たちのからみが繰り広げられ、D・ルヴレが白い壁で囲まれた空間でしなやかにポーズを取ると、男性ダンサーが次々にその狭い空間に入り込む「ラジオ・ガガ」や、那須野圭右が楽しげに踊る「ミリオネア・ワルツ」など、様々な情景が展開された。それにしても要所で締めたG・ロマンの存在は大きい。また「フリーメーソンのための葬送音楽」で、手や脊椎、骨盤のX線写真が映し出される場面は、死そのものやエイズの犠牲となった2人をしのばせた。圧巻は、今や伝説になったドンのビデオ。十字架に打ち付けられてもがき、目を見開いて踊る姿は痛々しく胸に迫る。続く「ショー・マスト・ゴー・オン」で、来日できなかったベジャールに代わり、ロマンが舞台の奥から進み出て、左右から走り寄るダンサーと次々に握手するフィナーレは、音楽の力も加わって感動的。ベジャールがいなくても、その芸術は受け継がれなければならないというメッセージのようにも受け取れた。
(6月15日、ゆうぽうと簡易保険ホール)

『愛、それはダンス』は、初期代表作『春の祭典』の生け贄のシーンで始まり、『ロミオとジュリエット』や『バレエ・フォー・ライフ』など新旧作品の名場面に、初演時にはなかった『二つの大戦の間』を加えた17のパートから成るベジャール作品のアンソロジー。巨匠の作風を網羅するというより、愛や生の本質に迫る作品に焦点を当てた構成といえる。

『春の祭典』で、生け贄の男女や群舞が荒々しい生と性のエネルギーを放射したのに続き、『ロミオとジュリエット』(音楽・ベルリオーズ)のバルコニーの場で、L・ディアス=ゴンザレスとM・ヴェデルが流れるようなデュオで愛をほとばしらせたが、このペアはこれ以外の作品にも随時現われ、「愛」というテーマを喚起する。『ヘリオガバルス』の原始的な男女のデュオと『わが夢の都ウィーン』での都会の男女のデュオが鮮烈な対比を成し、『ギリシャの踊り』の明るいおおらかな群舞、『アレポ』後半で男性ながらW・ペドロが見せたトウシューズでの妙技、またE・ロスが燃え上がる情念を踊り伝えた「行かないで」を含むシャンソン集『ブレルとバルバラ』など、忘れ難くても全部は書ききれない。

再び登場した『ロミオとジュリエット』では、情熱的に踊る二人は闘争に巻き込まれ、翻弄されるが、その様が『二つの大戦の間』で有刺鉄線の柵で隔てられた男女にオーバーラップしていき、現代に通じる問題を提議する。『バレエ・フォー・ライフ』からの二つのシーンや『もっと先へ』での那須野圭右の溌剌としたソロの後、『春の祭典』が繰り返されたが、生け贄をロミオとジュリエットにすり替えた点にベジャールの強烈な意図がうかがえる。ただ、ここまで全部繰り返さずに凝縮したならば、むしろインパクトは強まったのではないかとも思った。そして、「ショー・マスト・ゴー・オン」の音楽が会場を満たす中、G・ロマンがダンサーたちを迎えるフィナーレ。これには、この前に何があろうが、すべてを飲み込んでしまう魔力があった。(6月22日、ゆうぽうと簡易保険ホール)

M-laboサタデー・ナイト・ホストクラブ<第1夜>『EDEN〜果実売りは夜狂う〜』

 三浦宏之が主宰する男だけのカンパニー「M-laboratory」が、上村なおか、東野祥子、森下真樹という躍進目覚ましい女性振付家・ダンサー三人をゲストに迎え、土曜の夜にユニークなホストクラブをオープンした。第1夜は『EDEN〜果売りは夜狂う〜』。箱の上にりんごを持って立つ男の呼び込みが終わると、ゲストを含めた全員が威勢良く踊りまくり、そのパワーと熱気が会場を沸かした。オーナーの三浦が客に向かってホストクラブに行ったことのある人はいるかなどと問い掛けるうち、やおらズボンを脱ぎ、シャツも脱ぎ、黒のパンツで興に乗って体をくねらせて踊る。続く展開は、三人のゲストとメンバーの男性ダンサーとのからみを中心に据えながら、女装した逞しい男性ダンサーによる迫力に満ちたソロを挿入するなど、盛りだくさんで少々クレージーなショーに仕立てられていた。

東野と斉藤栄治のペアは、お風呂に入る時に最初に洗うのはどこかといった斉藤栄治の質問に、東野が「聖書」「バスタブ」などと答える録音テープが流され、同時に二人は動きを大きくしていくが、東野の動きは硬質で芯の強さをうかがわせた。冒頭で、体の各部の筋肉を律動させるような巧みな動きを見せた上村だが、三浦とのデュオでは、光沢を抑えたつや消しのような振りで枯れた境地を漂わせ、振幅の豊かな表現を印象づけた。笠井端丈とりんごの皮をむく森下は、自作の『デビュタント』の一部を笠井が真似ると、自ら正しく演じて、やり直させる。笠井が肩で床を回るなどのストリートダンス系の踊りを披露すると、今度はそれを森下が真似てみせるというように、絶妙な掛け合いで笑わせながら、独自の境地に誘い込んでいった。三者三様に個性を楽しませたゲストを始め、ダンサーたちも存分に自発性を発揮できたのではないだろうか。一体何が起こるかと期待させる、こんなショーがあっても良いと思わせた。(6月10日、セッションハウス)

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