佐々木 三重子 text by Mieko Sasaki
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ロアシ国立ボリショイ・バレエ団『ラ・バヤデール』『ファラオの娘』

ロシア国立ボリショイ・バレエ団が4年振りに来演した。バレエ団を率いるのは、2004年元旦、芸術監督に就任したアレクセイ・ラトマンスキー。キエフ・シェフチェンコ劇場バレエ団ソリストを振り出しに、海外での経験も豊富で、振付の才も発揮している逸材だ。ボリショイ劇場が改修のため2005年から閉鎖されているので、作品の規模によりクレムリン大会宮殿と2002年に開場した新劇場を使い分けて公演活動を続けているという状況下での来日である。今回の演目は、かつてボリショイに君臨したユーリー・グリゴローヴィチが改訂振付けした『ラ・バヤデール』(1991年)と、フランスのピエール・ラコットが復元した『ファラオの娘』(2000年)。インドとエジプトをそれぞれ舞台にした異国情緒豊かな作品で、共にプティパの原振付を基にしたという。

『ラ・バヤデール』は、永遠の愛を誓った巫女ニキヤと勇士ソロルに、ニキヤに横恋慕する大僧正とソロルと婚約したガムザッティがからみ、悲劇を招く物語。私が観た日は、ナデジタ・グラチョーワがニキヤを、ウラジーミル・ネポロージニーがソロルを、マリーヤ・アレクサンドロワがガムザッティを踊った。三人ともテクニックは拮抗しており、それぞれの登場人物のキャラクターを巧みに表出して、緊迫したドラマを紡ぎだした。

 ニキヤとソロルが愛を誓う高揚感あふれるデュオと、幻影となったニキヤとソロルの慈しみに満ちたデュオが好対照を成したのを始め、ソロルをめぐるガムザッティとニキヤの確執を、アレクサンドロワとグラチョーワが体を張ったような演技と振りで現前させた。婚約の宴で、アレクサンドロワが力強い跳躍や安定した回転技を誇示すれば、グラチョーワは花篭を手に、たおやかな舞いに複雑な情感を漂わせて悲しみを誘った。ネポロージニーは、ガムザッティの美しさに惹かれ、権力に逆らえずに彼女と婚約する弱さを自然体で演じ、しなやかな跳躍や流れるような回転技を鮮やかにこなし、端整な踊りで魅了した。

 ほかにも苦行僧らの野趣あふれる群舞や、跳躍で見せる黄金の神像(岩田守弘)のソロ、ダイナミックな太鼓の踊り、「幻影の場」の静謐な群舞など、多彩で楽しませた。この版にはソロルとガムザッティの結婚式はないが、「神殿崩壊」は用意されていた。夢から覚めて神殿で許しを乞うソロルに対し、神は怒りで神殿を崩壊させ、ソロルも死ぬが、その魂がニキヤの幻影に導かれていくラストに救いがこめられていた。
(5月4日夜・東京文化会館)

「ラ・バヤデール」5/3公演より
ザハーロワ&ツィスカリーゼ

 プティパの出世作とされる『ファラオの娘』は、エジプト旅行中のイギリス人が古代にタイムスリップしてエジプト人タオールになり、ファラオの娘アスピシアと恋に落ち、ファラオが強いる結婚を嫌うアスピシアと駆け落ちし、様々な困難を経て彼女と結ばれるところで夢から覚めるというお話。ラコットは1862年の初演版をモチーフにしながら、台本を変え、チェーザレ・プーニの音楽も一部カットし、自ら装置や衣裳をデザインし、振付も現代性を加味して工夫したそうで、独自色をかなり打ち出した復元になったようだ。舞台は、ピラミッドでの休息から熱帯の森でのライオン狩り、ファラオの壮麗な宮殿、駆け落ちした二人を迎える質素な漁師の小屋、アスピシアが身を投げたナイル川の水底と目まぐるしく変わり、スペクタクルな光景が展開された。その2日目を観た。


「ファラオの娘」5/9公演より
ザハーロワ&フィーリン
 舞踊面では、アスピシア(マリーヤ・アレクサンドロワ)とタオール(ニコライ・ツィスカリーゼ)の出合いの初々しいデュオと、愛を確かめるデュオ、結婚を許された躍動感溢れるデュオで要所を締め、間を雑多な登場人物による多様な踊りで満たした形だ。タオールの使用人(デニス・メドヴェージェフ)やアスピシアの奴隷(アナスタシア・ヤツェンコ)による個性的なソロや、漁師(ユーリー・バラーノフ)とその妻(エカテリーナ・シプリナ)による高度の技を交えたソロが彩りを添え、川の精たちの美しいソロや群舞が異次元の世界を醸した。猿(岩田守弘)がタオールと戯れる滑稽な一幕もあった。プーニの音楽が少々魅力に欠けているのが惜しまれたが、異国趣味など、プティパ時代のバレエの好みがしのばれる盛沢山な舞台ではあった。また、優れたダンサーを数多く擁するボリショイだからこそ上演できた作品でもあった。
(5月10日、東京文化会館)

 

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