関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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 関東地方は吹き荒れましたね、春一番。何番か分からなくなるくらい吹きました。
八分くらい咲いた桜が、強風に吹き飛ばされまいとして必死に耐えている様子は、毎年の光景とはいえ、春の気持を感じます。これから、日々、自然の新しい花と舞台の美しい花が咲き競う季節です。


日本人スタッフを主体とした新作全幕バレエ『ア ビアント』

 牧阿佐美バレエ団が創立50周年記念公演として、高円宮殿下追悼の新作バレエ『ア ビアント〜だから、さよならはいわないよ〜』を初演した。

 プロローグ、エピローグ付全二幕の大作で、美術と一部の振付、主演男性ダンサーを除いて、日本人の制作スタッフによる創作バレエである。世界的にみても、全幕バレエの新作は希少であり、日本人主体のスタッフのチャレンジは、観客も含めて日本のバレエにとって意義あることであった。こういう言い方は礼を失するかもしれないが、どのような機縁でも新しい全幕バレエが創られるのは喜ばしいことである。

 原作は作家の島田雅彦、音楽は三枝成彰、振付は牧阿佐美、三谷恭三、ドミニク・ウォルッシュ、美術はルイザ・スピナッテリ。
 安らかな自然が調和している世界でカナヤとリヤムは愛し合っていた。しかし人間と動物たちの擾乱と殺りくが始まり、カナヤの愛と願いも叶わずリヤムが死ぬ。冥界に運ばれたリヤムは、愛する人との再会を望み、限られた時間の中、カナヤの現世の記憶を代償に許される。そして二人は困難や厳しい条件を乗り越えて再会を果たす。リヤムの犠牲と霊の力によりカナヤの記憶を取り戻し、次元を超越した魂の交歓を交わす。そして、生まれること愛すること死することを終えたリヤムと、カナヤは別れのダンスを踊る……。といった物語である。

 静謐な背景画が非常に美しく、メタフィジックな世界を喚起させるヴィジュアルである。衣裳も洗練されていて、簡素な装置と背景画と調和してノーブルな雰囲気が感じられた。高円宮殿下の人生から想起し、荘大な魂のドラマを創った原作、愛の力強さを感じさせた振付、豊かな表現力を見せた音楽、新たな人物像と格闘していたダンサーたちと、それぞれの力がこもった舞台だった。
 ただ、言葉で創った象徴性と身体の表現のそれがいまひとつ未消化に終ったことは惜しまれるが、これは一朝一夕の問題ではないだろう。外国人の創作や既成の作品を使うことを単純に批判するわけではないが、日本人を主体とするスタッフが創造の苦闘を何度も重ね、世に問うことにより、必ず新たな日本のバレエの展望が拓けてくるはずである。そう切実に感じた公演であった。
(3月17日、オーチャ−ドホール)


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K バレエが『眠れる森の美女』と『コッペリア』を再演

 熊川哲也率いるK バレエカンパニーが『眠れる森の美女』と『コッペリア』を初めて再演した。どちらにも『白鳥の湖』の再演を観た時のような演出のサプライズはなかった。
 よく知られているように、熊川はクラシック・バレエ全幕物の演出・再振付をまず、『ジゼル』から初め、次にこの大作『眠れる森の美女』をとりあげたのである。当時、この熊川の大胆な公演プランに驚き、誕生間もないカンパニーの古典バレエの大作の初演にいささかの不安を感じた。しかしそれは杞憂に過ぎなかった。

 今回の再演は、熊川ではなくヴィヴィアナ・デュランテとカルロス・マーティンの舞台を観たが、そんな杞憂とはまったく無縁の堂々たる舞台であった。
 マーティンのフロムリント王子はなかな気持ちが入っていてよかった。細部の表現は未だしの部分もあるが、立派な身体が豪華な雰囲気を漂わしていた。デュランテのオーロラ姫は定評のあるところだが、前半はやや弱い印象だったが、グラン・パ・ド・ドゥはさすがに堂々たるものであった。
 アンソニー・ダウエルがカラボスを踊ったのもこの舞台の大きな話題だった。かつて、ロイヤル・バレエ来日の際にこの役を踊ったが、あの時の迫力は未だ瞼の裏に焼き付いている。その時に比べるとやや太めかもしれないが、手の動きや表情の作り方は真に迫って成熟しているし、舞台全体を支配する力にはいささかの衰えも感じられなかった。
 松岡梨絵のリラの精には、悪と対決する力だけでなく優しさがあり、彼女の個性を生かした役作りで感心した。善と悪の対決を際立たせる、といよりも悪を優しさで包み込んでしまうリラの精を興味深く見せてもらった。妖精たちも、副智美、東野泰子、長田佳世、神戸里奈、中平絢子とソリストが揃い、華やかで魅力的。
 東野泰子のフロリナ王女は柔らかい踊りで細やかな表情もよくみえたし、スチュワート・キャシディの豪快で繊細な踊りと合っていていい雰囲気の舞台を創っていた。
(3月11日昼、東京国際フォーラムホール C)

『コッペリア』は、神戸里奈のスワニルダ、芳賀望のフランツ、キャシディのコッペリウス博士、というキャストで観た。神戸のスワニルダはもう完全なはまり役で、明るい可愛らしさを舞台いっぱいに溢れさせる。できることなら、コッペリウス博士邸の二階で博士お手製の自動人形になって、スワニルダたちのお茶目で愛らしい冒険を、笑いを噛み殺しながら見ていたい、そんな気分にもなった。フランツに扮した芳賀は、技にキレがあり、スピードもインターナショナルクラスである。細部にいろいろ学ぶべきことはあるだろうが、のびのびと育ってほしいダンサーである。
 キャシディの博士は、一段としつこく娘たちを採寸していたが、彼のこの役の演技を観るのはほんとうに楽しみ。神戸のスワニルダとともに熊川版『コッペリア』の最大の成果ではないだろうか。また、英国ロイヤル・バレエのプリンシパル・ダンサーだったエロール・ピックフォードが、宿屋の主人に扮して舞台を盛り上げていた。ロイヤル・バレエの文化は、今後もどんどん移入してほしいと思う。
(3月19日昼、東京国際フォーラムホール C)
 

 

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