●シュツットガルト・バレエ団『オネーギン』『ロミオとジュリエット』
シュツットガルト・バレエ団が3年振りに来日した。1996年に芸術監督の座をマリシア・ハイデから引き継いだリード・アンダーソンは、同団を世界の名門に育て上げたジョン・クランコの遺産を守りながら、新しいレパートリーを開拓している。だが今回もクランコ作品を取り上げ、作品の魅力と若返ったダンサーの魅力をアピールすることになった。
まず、プーシキンの韻文小説に基づく『オネーギン』を、パリ・オペラ座バレエ団からマニュエル・ルグリを題名役に招いて上演した。田舎を訪れた虚無的な貴族オネーギンは文学少女タチヤーナの愛を拒否し、気まぐれにその妹を執拗にダンスに誘ったため、友人でもあるその婚約者から決闘を申し込まれ、相手を倒す。数年後、公爵夫人として美しく成長したタチヤーナに再会し、愛を告白するが、拒否されるという物語。ルグリにとってオネーギンは初役だったそうだが、黒いスリムな衣装から冷ややかさを漂わせ、慇懃無礼な振るまいや鼻先で笑う様なども板についていた。タチヤーナ役のマリア・アイシュヴァルトも、最初はおずおずした物腰だが、公爵のサポートで優雅に舞い、落差を際立たせた。 |
「オネーギン」 |
「オネーギン」 |
だが、ハイライトは二人による対照的なデュオ。一つは、タチヤーナが恋文を書きながら眠りに落ち、夢の中で鏡から現れたオネーギンと踊る場面で、アイシュヴァルトとルグリは、流れるように美しい躍動感溢れるデュオを展開した。もう一つは終幕のドラマティックなデュオ。タチヤーナの愛を得ようと、激情も露わにすがるルグリの迫真の演技に呼応して、アイシュヴァルトも、最初は動じないが、身をたわめてルグリに絡むなど、揺れ動く心の内を手に取るように伝えた。形を変えてのルグリの力強いリフトが、二人の感情の高まりを物語り、それだけに愛を拒否した後のヒロインの悲嘆が浮き彫りにされた。
あらゆる場面で、踊りがせりふとなり、心情の吐露となり、ドラマが紡がれていく。クランコの手腕はさすがで、この作品が物語バレエとして極めて完成度が高いことを改めて認識した。チャイコフスキーによる、同名の歌劇以外の音楽を用いた選曲も心にしみた。 |
| 前回も上演された『ロミオとジュリエット』は、韓国出身のスー・ジン・カンとポーランド出身のフィリップ・バランキエヴィッチが組んだ日を観た。正直なところ、西洋人に囲まれたスー・ジン・カンに、最初は異なるものを感じたが、それはすぐに消えた。舞踏会では、パリスに対する丁重な面持ちから一転して、ロミオへの募る想いを体を弾ませて表す。バランキエヴィッチも、育ちのよいロミオのイメージ通りで、溌剌としたジャンプで若さを出した。バルコニー・シーンのデュオでは、ロミオがジュリエットを高くシフトし、抱えて回すたび、二人の愛が燃え上がり、固い絆が結ばれていく様が見て取れた。この躍動感あふれるデュオと対照的に、ジュリエットの寝室の場面では、優しく諭すロミオの理性と、すがりつくジュリエットの切なさが巧みに交錯していた。 |
「ロミオとジュリエット」 |
「ロミオとジュリエット」 |
市場の賑わいや舞踏会の場、決闘シーンなどは、登場人物の心理にも光りを当てた、起伏に富んだ踊りでじっくり見せるが、クランコは説明的になるのを避けたのか、二人の結婚の場や、ジュリエットが仮死状態で見つかる所などは、驚くほどあっさりしている。納骨堂でも、ロミオはジュリエットをかき抱きはするが、何度も繰り返さず、二人がそれぞれ命を絶ったところで終わる。死に向かって一気に収束させて、余韻を残したのだろう。
ひょうきんに踊ってみせたマキューシオのエリック・ゴーティエ、冷厳なティボルトのイヴァン・ジル・オルテガ、そして気品を備えたパリスのエヴァン・マッキーらも、役所を心得た緊密なアンサンブルを紡いでいた。
(11月8、12日、東京文化会館) |
●谷桃子バレエ団『ロメオとジュリエット』ほか
谷桃子バレエ団の「創作バレエ・9〜古典と創作〜」は、〈古典〉として『ライモンダ』第三幕の婚礼の場を、〈創作〉としてクルベリ振り付けによる『ロメオとジュリエット』を上演した。後者は1980年に同団が日本初演している。ダブルキャストの2日目を観た。
『ライモンダ』では、題名役の伊藤範子はジャン・ド・ブリエンヌの今井智也と組み、派手な技はないが、ポアントやバランス取りが難しいパ・ド・ドゥをしっかりとクリア。これにあでやかさが備わればと思った。今井は、歯切れの良い踊りをみせた。ソリストとなった男女も、まとまり良くこなし、均一な仕上がりとなった。
クルベリ版『ロメオとジュリエット』(プロコフィエフの原曲を抜粋)は、敵対する名家の抗争と、それを超えて愛し合う恋人たちの悲劇を抽出した独創的な50分の作品。ロメオの友ベンヴォリオもジュリエットの乳母も、ロレンス神父も登場しない。装置もないがらんとした舞台だが、両家の衣装を青と赤で色分けし、場面に応じて照明もこれに対応させ、迫力ある踊りの連続で緊迫感を途切らせることがない。
キャプュレット家の人々の面前で、4人の旗手が青い旗を音を立てて振り回す冒頭から異彩を放つ。ジュリエットの永橋あゆみとロメオの齊藤拓は、舞踏会で出会った後、抱き合い、体を絡ませ、床をころげ、走り回り、燃焼度を高めていった。その情熱的なパ・ド・ドゥの後方で、マキューシオ(桑原智昭)が、ティボルト(中武啓吾)とパリス(川島春生)と争いを繰り広げるという重層的な描写は出色。自死した恋人たちが腕を伸ばし手を絡ませていく幕切れが、愛の尊さと権力抗争の虚しさを訴えているようで、印象に残る。
振付が極めて個性的で、激しい動きが要求されるだけに、ダンサーたちは皆、力演していたが、永橋の可憐な表情が印象に残った。
(11月13日、新国立劇場中劇場)
|