今月はたいへん盛り沢山の内容。 ギリシャの「デルフィ芸術フェスティバル」、デンマーク王立バレエ団の「第3回ブルノンヴィル・フェスティバル」というふたつの海外公演レポートを同時に掲載。
さらに来日公演も、マラーホフのベルリン国立バレエ団を始め、ピナ・バウシュのヴッパタール舞踊団の『ネフェス』、マシュー・ボーンの『愛と幻想のシルフィード』、
さらに国内のダンス公演も充実して読み切れないほどのボリューム。Dance Cubeでしか読めない情報が満載です。
●ピナ・バウシュ、9回目の来日公演で『ネフェス』を上演
ピナ・バウシュがトルコのイスタンブールに取材し、2003年に初演した国際共同制作作品『ネフェス』(呼気)が、9回目の来日公演として上演された。
三方を暗幕で囲み、舞台中央の奥に水をたたえた泉が設えられている。その周辺でダンサーたちは踊るのだが、泉の水はじわじわと満ちてきたり、知らず知らずのうちに干上がっていたりする。
のみならず、ザァーッと驟雨のように降ってきたりもする。
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腰にタオルを巻いた男たちがトルコの公共浴場に集い、石鹸水に浸した布を吹いて泡をたてたり、ロングドレスの女たちが長い髪を梳ったり、
泉の畔で蜂蜜を幸せそうに舐めていたり、前半はスケッチ風の挿絵といった感じの様々のシーンが見られる。
後半はインドやインドネシア、韓国のダンサーたちのオリエンタルなダンスが次々と踊られた。フィナーレは男性と女性に分かれ、舞台に腰を落した動きを中心とした全員のポロネーズである。
人類は誕生以来、常に泉の畔に集い、暮らし、文化文明を紡いできた。
水の都イスタンブールに触発されて創られたこのダンスは、呼吸する泉と共に踊られている。
そして、ピナ・バウシュのダンサーたちが演ずる明るい楽天的なシーンを見ていると、泉の水がどんどん満ちてくると地球温暖化の影響を感じ、
水がしだいに引いていくと砂漠化現象を思い浮かべ、天から降ってくると災害を案ずる。
そういう人間存在の背景の自然の営みへと、自ずと思いを馳せてしまう、そんな印象に包まれた舞台であった。
(6月14日、新宿文化センター) |
●スターダンサーズ・バレエ団が『緑のテーブル』とルッカートの新作
同じドイツから、スターダンサーズ・バレエ団が振付のフェリックス・ルッカートおよびスタッフを招いて新作『tokyo-tools』と、クルト・ヨースの傑作『緑のテーブル』を上演した。
ルッカートはミュージシャンだったが、82年からダンスを始め、一時ピナ・バウシュのカンパニーで踊り、のちにフリーとなり振付をするようになった。
彼の主唱するダンス制作の手法は、「ツール・システム」というもの。振付家がある一定のルールを決め、そのルールに従いながらダンサーが即興で踊って行くシステムである。
これを押し進めていくことにより、創造性とルーティーンと身体機能が独特のリズムを創り、非常に可能性のあるダンスが生まれるのではないか、という仮説に基づいて舞台を構成している。
振付はもちろん、照明、音楽(2名)、衣裳はすべてドイツからやってきたスタッフで、スターダンサーズ・バレエ団のダンサーが踊った。
15名のダンサーがそれぞれの動きを見せ、速い展開でシーンを現出していく。近づいたり離れたり、戯れたり無関心だったり、観客は終始、ダンサーたちが創る動きの滑らかなラインを観る。
音楽は、様々な抽象音を構成したもので、舞台は明るい白を基調とした空間である。音楽はやや並列的な印象を受けたが、ダンスはアクティヴな、ダンサーの主張が感じられる清新なものであった。
これがたとえば『NY-tools』であったり『rondon-tools』であったなら、まったく異なった舞台となるだろう、とも思った。 |
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『緑のテーブル』 |
『緑のテーブル』は、1932年にバレエ・スエドワの創設者として有名なロルフ・ド・マレがパリで行った振付のコンペティション、
アーカイヴ・インターナショナル.ド・ラ・ダンスで第一位になり、一躍世界的に有名になった作品である。
冒頭は、コーヘン作曲のピアノの連弾にのせて、黒い礼服の紳士たちが緑のクロスを掛けたテーブルを囲んで、ジェスチャーたっぷりに会議する有名なシーン。
パワー・オブ・ポリティックスの中、身体から発するあらゆる表現を駆使して、一分でも利益に浴そうと奮闘する紳士たちの動きをダンスで表したもの。 |
シーンが変わると、戦争の現実が描かれる。「別れ」「戦闘」「追われた者たち」「パルチザン」「酒場」「最後に残った者たち」などのシーンが、死神がほっつき歩く凄惨な戦場で踊られる。
明快なステップで踊られる、20世紀の<死の舞踏>を思わせるダンスである。
ラストは、再び黒い礼服の紳士たちが右往左往するシーンとなる。観客が、現実の戦争が終ったのか、続いているのか、ひと休みなのかと、考えざるの得ない力を秘めたダンス。
ドイツのダンスの力強さを堪能した一夜であった。
(6月30日、ル テアトル銀座)
●中国国立中央バレエ団とNBAバレエ団の「トゥール・ヴィヨン公演」
NBAバレエ団が第2回トゥール・ヴィヨン公演を、中国国立中央バレエ団のプリンシパルやソリストを招いて行った。
演し物は、中国側が『追憶』(音楽/バッハ、振付/フェイ・ボー)『夜の虹』(音楽/リヒャルト・シュトラウス、振付/ルディ・ヴァン・ダンツィヒ、再振付/ワン・ヤンヤン)
『五つの歌』(音楽/リヒャルト・ワーグナー、振付/ベン・スティーブンソン)、NBAバレエ団は『タランテラ』(音楽/ゴットシャルク、振付/アレキサンダー・ミシューチン)
『ボレロ』(音楽/ラヴェル、振付/執行伸宜)『コッペリア』第3幕(音楽/ドリーブ、原振付/プティパ、復元演出/ヴィハレフ)だった。
『五つの歌』は、ヒューストン・バレエの芸術監督だったベン・スティーブンソンがワーグナーの曲に振付たもの。 スティーブンソンはアメリカのバレエ団として初めて北京や上海などで中国公演を行った、また最近ではニーナ・アナニアシヴィリに作品を提供している。
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『五つの歌』は、男性ダンサーが薄物を纏ったバレリーナを持ち上げ、空中に運びながら形を作るというなかなか難しい振付である。 バレリーナはほとんど床に着くことがないが、この一種人形振りのような動きが厳かな雰囲気を醸し、情感を美しく詠うのである。
中国人ダンサーの身体性は非常に調えられていて、破綻のない動きである。ただ、デティールの仕草などに普段あまり関心のない表現をしているな、といった気はしたが、総じて見事な舞台であった。
NBAバレエ団の『ボレロ』は、女性は総タイツで男性ダンサーはタイツだけを着けて踊られた。 女性ペアを中心とした構成だったが、音楽に合わせてしだいに舞台上に上がるダンサーの数が増えていく、オーソドックスなモダンダンス。流れの美しさが印象に残る作品であった。
『コッペリア』第3幕は、まず、その舞台から溢れ出るような色彩感に圧倒される。 プティパの振付をヴィハレフが復元しているのであるが、彼のクラシック・バレエの黄金時代への抜き去りがたい郷愁が、知らず知らずのうちに舞台に現れている、そんな感慨を抱かせるバレエである。
(6月18日、メルパルクホール)
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