関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi
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●下村由理恵 バレエ・リサイタル DANCE for Life 2004

 下村由理恵がバレエ・リサイタルを開いた。芸術監督は篠原聖一である。
 幕開けは篠原振付の『DRAMA』。ピアソラのリズムにのって佐々木大と下村が踊った。続いて下村自身の振付による『le Jeu(ル・ジュ)戯れ』。ショパン他の音楽を使って5人のバレリーナが3つのシーンを踊ったが、2番目の軽快な踊りが良かった。『The King of Comedy』は篠原の振付で自身が踊るのだが、篠原のソロの部分は佐々木大が振付けている。戦争によって魂が引き裂かれる天才ダンサー、ニジンスキーを見詰める喜劇王、チャップリンと戦争の関わりを描いた作品だった。音楽はチャップリンの『黄金狂時代』他。『シェヘラザード』は、下村のシェヘラザードと佐々木大の金の奴隷、王は小泉孝司。音楽はリムスキー・コルサコフ。篠原が「シェヘラザード」の世界をパ・ド・ドゥに凝縮している。佐々木は奴隷を堂々と踊ったし、下村の蠱惑的な魅力が存分に発揮された舞台だった。

 最後は、松崎すみ子振付による『トパーズいろの香気(智恵子と光太郎)』。智恵子と智恵子の内なるもの、光太郎と光太郎の内なるもの、そして三人のバレリーナが「時の流れ」を踊る。光太郎が芸術家として自身の内なるものにこだわっているうちに、智恵子の内なるものが衰弱してゆき、ついには内面と身体の関係が崩れ狂気に陥っていく。そのプロセスが、二組のペアとコール・ドの踊りで描かれている。なかなか説得力のある構成だった。ラストシーンは、草月ホールの初演では、美術の前田哲彦がコスモスが青い空の下に咲き乱れる装置を作った。今回の円形劇場ではその装置は使えず、色とりどりの千代紙を無数に細かく千切って背景いっぱいに万華鏡のように散らし、純真な智恵子の乱れた心を表した。



(10月30日、青山円形劇場)
 
●お久しぶり、リン・チャールス演出・振付の『内|外 uchi|soto』


 ノイマイヤーのハンブルク・バレエ団やベジャール・バレエ・ローザンヌ、プティのマルセイユ・バレエ団などでプリンシパル・ダンサーとして活躍したリン・チャールス。ベジャールの下で踊った『マルロー、あるいは神々の変貌』や『メフィスト・ワルツ』などで日本のファンにも深い印象を残している。久方ぶりの日本の舞台には、ダンサーとしてではなく、振付家として新作を発表した。

『内|外 uchi|soto』とタイトルを付された作品のキャストは、新国立劇場から他の舞台でも踊ることができるようになった酒井はな、スターダンサーズ・バレエ団の西島千博に加えて、オーディションを経て参加したダンサーたち、浅見紘子、厚木彩なども踊った。

 タイトル通りの2部構成だが、「内_uchi」はPart1.からPart3.に分けられている。Part1.では、調和、イノセンス、競争、美、差異などといった一般的な女性の感情を描き、Part2.で時系列に、誕生、青春、喪失、死、哀悼などの叙事的な表現、Part3.では寛容、絶対といった永遠の摂理を表すダンスを繰り広げた。トゥシューズは使わず女性は同じブルーグレーの色調の衣裳で踊った。

 第2部の「外_soto」には、<お化粧をすることはできるけれども、生きてきた軌跡までは隠せない>というサブタイトルが付されている。トーンはがらっと変って、女性は全員がトゥシューズを履いた。粋がる酒井と西島の、突き飛ばしたり、足を踏んづけたり、ぶつかりあったり、絡み合うパ・ド・ドゥが中心となる。さらに、ダンサーたちが思い思いの服装でホームレス風だったりストリートチルドレン風だったりして踊る。バラードにのせたパ・ド・ドゥがあって、大喝采を浴びるスター西島へ。ダンスの見せ方を心得たリン・チャールスの鮮やかな演出・振付だった。きびきびした酒井はなの小気味のいい踊りが光った。


(10月28日、青山円形劇場)
 
●上村なおかの『Wonder Girl』、コンドルズの『森の中のパレード』


 上村なおかが『Wonder Girl』を演出、振付、主演した。ファッション・デザイナーの皆川明が初めて舞台演出を手掛け、衣裳と空間構成としても参加、高木正勝が映像と音楽を制作し、空間構成にもたずさわった。大野一雄の子息の舞踏家慶人と、田中泯や笠井叡に師事したアメリカ人のアリーサ・カルドーナが共演。
 上村の動きは繊細で美しく、どこか少女の痛ましさを感じさせる。舞台を半円形に白い壁面が囲み、アクセサリーが成形される過程の映像が繰り返される。光と音楽とイメージが混淆して、摩訶不思議な空間が現出する。大野慶人の静謐な動きと上村のソロ、カルドーナにファッションが変容して、かつて体験したことのないワンダーなトリップを楽しんだ。靄がかかっていた脳のフィルターをきれいに掃除したような気分にしてくれたダンスであった。
(11月7日、スパイラルホール)

 2005年に開催される愛知万博のプレイベントとして、「森の中のパレード”音楽が踊る ダンスが聞える”」が、読売ランドの野外劇場で開催された。ダンスは近藤良平とコンドルズ、音楽は仙波清彦と彼のHANIWA EXPO BAND,テーマ曲作曲、山下洋輔というスタッフである。名古屋の愛知県芸術劇場大ホールでも開催されたが、両方の地域でそれぞれ公募された小・中学生たちが<コンドルズ ユース>を結成して活躍した。森のカラー、グリーンのTシャツを身に付けた子供ダンサーたちが、コンドルズのダンスお兄さんと楽しいパフォーマンスを展開。万博のシンボルマーク、モリゾウとキッコロも登場して子供ダンサーたちとともに動いて、テーマの<自然の叡智>を身近なところからアピールしていた。


(10月30日、よみうりランド)
 
●室伏鴻の『始原児』、韓国劇団<美醜(ミチュ)>の『崔承喜 伝説の舞姫』


 室伏鴻の構成・振付・演出による『始原児』が、エクスペリメンタル・ボディのシリーズとして上演された。室伏と三人の男性ダンサー(目黒大路、鈴木ユキオ、林貞之)が踊った。まずは三人のダンサーの宙吊りから始まった。三人はお互いの引力に導かれるように集まって衝突したり、磁石の同じ極が反発するように離れたり、倒れたりする。室伏は全身に銀粉を塗って登場し、舞台を這い回る。後半は三人がそれぞれ、自分がすっぽり入るよりは少し小さな蓋のない白塗りの細長い箱を持って踊る。最後には、そのひとつの白い箱を立て、天辺にあたる30センチ四方くらいのごく狭い平面に、三人が同時に乗っかる。その上で、しばし、パフォーマンスを続けるのである。危険なスリリングなダンスである。三人は激しく倒れるなど、板敷き床と緊密な関係のある動きで、足のあちこちに血が滲む。その闘いの終わりには、温かい喝采が贈られた。
(11月23日、麻布die pratze)

 韓国の劇団<美醜(ミチュ)>が静岡のグランシップで『崔承喜(チェ スン ヒ) 伝説の舞姫』を上演した。崔承喜は、よく知られているように、1930年から58年頃にかけて活躍した世界的に名声を得た舞踊家である。崔承喜は、石井漠に師事して美貌と天賦の才でたちまち頭角を現し、独立してパリやヨーロッパの各地、ニューヨークなどでも踊って非常な好評を博した。しかし、戦争と革命の大きなうねりの中で厳しい政治的な局面に立たされることも多く、苦労して朝鮮民族の舞踊の確立を目指した。

<美醜(ミチュ)>は、崔の生涯をミュージカル仕立てで描いている。師の石井漠始め、夫でコミュニストの安漠、娘の安聖姫、安漠の友人の金潤、崔の弟子の金民子、崔の朝鮮舞踊の師の韓成俊などが登場して、波乱に満ちた崔の生涯を描いている。日本人としては朝鮮舞踊を称揚するものとして迫害され、朝鮮に移れば日本軍に協力したのではないか、と疑われる、という二重の政治的圧力に翻弄されつつ、新たな民族舞踊を追求していく姿は感動的だった。
(11月6日、静岡グランシップ大ホール)

 

 

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