関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi

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●ダンス・ヴァンテアンは生誕100年を迎えたバランシン、アシュトン作品
 20世紀バレエ芸術を創った二人の振付家バランシンとアシュトンは、今年ともに生誕100年となるが、牧阿佐美バレエ団のダンス・ヴァンテアンも10回の節目を迎えた。今、各国のオペラハウスでバランシン、アシュトンの生誕100年記念公演が盛んに行われている。牧阿佐美バレエ団もそのレパートリーを構成して、20世紀のふたりの天才、それに加えてバランシンの下から育った最初のアメリカ人舞踊家ウィリアム・ダラーのバレエを上演した。

 まずは『セレナーデ』。バランシンがスクール・オブ・アメリカン・バレエの生徒の練習用に創った作品だが、次々と展開するフォーメーションはヴァラエティに富んでおり、ダンスの流れが活き活きとした清新さを湛えている。新しいバレエを創造しようと試みる振付家の若々しさを肌で実感させる舞台である。この作品をレパートリーとしている牧バレエ団のダンサーは、誇りをもって踊っているように見えた。『チャイコフスキー・パ・ド・ドゥ』は、橘るみと菊地研の若いペア。橘るみは相変わらず落ち着いてソツのない踊り。菊地研はすらりとして整った身体性を持っている。もっと思いきって動いてもいいとも思うのだけれど。

『コンスタンチア』は、『セレナーデ』を始め『コンチェルト・バロッコ』『フォー・テンペラメンツ』などのバランシン作品をオリジナルキャストとして初演したウィリアム・ダラーの振付である。熱烈に愛した女性コンスタンチアやジョルジュ・サンドを登場させて、ショパンの生涯を描いている。コンスタンチアを踊った伊藤友季子が楚々として美しい印象を残した。

 アシュトンが英国ロイヤル・バレエ団の創立25周年のために創った『誕生日の贈り物』がトリだった。テアラときらびやかな衣裳を着けた7人の女性ダンサーと7人の男性ダンサーが、古典的なデヴェルティスマンを踊った。アシュトンがプティパに捧げたオマージュで、気品をそなえた典雅な振付である。牧バレエ団のとりわけ女性ダンサーのレベルの高さをみせた舞台であった。(5月23日、ゆうぽうと簡易保険ホール)

『セレナーデ』

『コンスタンチア』

『コンスタンチア』

『誕生日の贈り物』


●恒例の松山バレエ団こどもの日の『ドン・キホーテ』

 松山バレエ団は今年、創立56周年を迎えるそうだが、ルドルフ・ヌレエフ版の『ドン・キホーテ』は1985年に上演した。このヌレエフ版は、66年にウィーン国立バレエで初演され、70年にオーストラリア・バレエで再演されている。

 キトリとバジルの恋物語の展開に、ドン・キホーテ自身をからませたことがヌレエフ版の特徴であろう。中世騎士道を信奉し理想の姫ドルシネアを求めサンチョ・パンサを従えて遍歴するドン・キホーテ、宿屋の娘キトリと床屋のバジルのカップル、キトリを金持ちのガマーシュと結婚させようとしている宿屋の主人ロレンツォとガマーシュ、の三組の追い掛けっこが物語の軸となる。そこにバルセロナの街の賑やかな祭りや結婚式、ジプシーの一団や闘牛士たちのグループ、ドン・キホーテの森の中の幻想などの明るく闊達な、まるでスペインの風俗絵をみるようなシーンが次々と繰り広げられる。ラストは、騎士ドン・キホーテと狂言自殺でキトリを奪われてお怒りのガマーシュの決闘となる。

 松山バレエの舞台は、舞台一面に登場人物を配して、殷賑を極めた港町バルセロナの祭りの日を盛り上げる。やはり、キトリ/ドルシネアを踊った森下洋子の行き届いた表現力、かつてヌレエフと世界の舞台に立った日を彷佛させる見事なステージだった。バジルの清水哲太郎は落ち着いた奥行きを感じさせる踊り。ドン・キホーテほかのヴェテラン陣も手堅い演技でたいへんに楽しめる舞台であった。
(5月3日、オーチャ−ドホール)

●NBAバレエ団のトゥール・ヴィヨン公演『騎兵隊の休止』ほか

 NBAバレエ団が創立10周年記念公演IIIとして<トゥール・ヴィヨン公演>を行った。演し物は、1月に全幕を復刻上演した『エスメラルダ』の第2幕、芸術監督の安達哲治が振付けた『バッハ無伴奏チェロ組曲(第1番)』、『せむしの仔馬』の第1幕より「フレスキー」、2000年にNBAが日本初演した『騎兵隊の休止』だった。
 この<トゥール・ヴィヨン公演>は、クラシック・バレエの伝統を継承発展させていく中で、ともすれば失われがちな香気のある作品をとりあげて、これからの新たな展開を探る試みである。

 今回は新作が登場した。『バッハ無伴奏チェロ組曲(第1番)』は、緋色に近い鮮やかなタイツを着けた男性のソロ、女性のソロ、パ・ド・ドゥによって構成されたもの。タブローに絵の具を重ねて深い印象を現すように、バッハの音楽から想起されるシャープで切れのいいムーヴメントを宙空に何度も何度も塗り重ねて創られたダンスだった。チェロ演奏は丸山泰雄。

 第2幕だけ上演された、ジュール・ぺロー、プティパの原振付をバレンチン・エリザリエフが再振付した『エスメラルダ』。これは悲劇なのだが、どこかのどか、と言っては変だが、現代のように人間の感情が無意味に細分化される以前の、おおらかな情感によって描かれた舞台である。今では、このような作品を創造することは不可能ではないか、そんな感慨すら抱いた。

「フレスキー」は、グリーン、ピンク、レモン、薄紫のまるでかき氷にかける甘味の水のような爽やかな色調のチュチュが、まずパ・ド・カトルを踊った。そしてさまざまな組み合せで登退場を繰り返す。今のバレエにはあまり見かけない、細やかで愛らしいクラシカルな動きが楽しかった。

 最後は『騎兵隊の休止』。村に立ち寄った騎兵隊と村の娘たちのひとときのふれあいを、軽快な筆捌きでさっと描いたスケッチで、なかなか滋味あふれるコミカルな一幕ものである。台本と原振付はプティパ、再振付はナタリア・ボスクレシェンスカ。赤いブーツとオレンジのジャケットの村娘テレサと、黒いブーツと赤いジャケットの大佐が踊るマーチにのせたパ・ド・ドゥ、恋人同士のブルーの衣裳のマリアとピエールのパ・ド・ドゥが、見ているだけでうきうきしてくるよう。村娘たちのスネたり、媚びたり、誘ったり、喜んだりする動きが可愛いらしい、大佐を筆頭に娘たちにアピールしようとする騎兵隊の隊員たちはもっと可愛いかったけど。

 200年以上以前の1896年に初演された作品をいま観ても魅了される。なんだか21世紀に生きているということが不思議になった。(5月20日、なかのZEROホール)

「騎兵隊の休止」
田熊弓子、セルゲイ・サボチェンコ

「フレスキー」
峰岸千晶、野本康子、山口愛、枝村敬子

「バッハ無伴奏チェロ組曲」
原嶋里会、カセイ イノウエ

 

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