関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi

※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。
> >

Dance Cubeのリニューアル号(16号)は読者の方々からいろいろな反響をいただきました。ありがとうございました。これからももっともっとダンスに突っ込んで、できるだけおもしろい情報をご提供していこう、と思っております。どうかよろしくお願いします。

●ついに開幕したアダム・クーパーの『オン・ユア・トゥズ』
 今月の話題はやはり、アダム・クーパーの『オン・ユア・トゥズ』でしょう。アダムは、マシュー・ボーンの『白鳥の湖』では、ザ・スワン/ザ・ストレンジャーを演じて、忘れがたい鮮烈なイメージを日本の舞台に描いた、とはいえ、それは出演ダンサーとしてのこと。『オン・ユア・トゥズ』では、振付・主演、さらにタップを踊るまでは想像できるとしても、歌って台詞をしゃべって演技をする、というのだから。ご贔屓への心配のあまり、ヤキモキに耐えられなくなって、ロンドンまで観劇出かけて行った方々もいたのである。

 満員の初日の会場は、種々のご都合でロンドンには行けなかった大多数のアダム・ファンの期待のモヤモヤで眼鏡も曇ろうか、という雰囲気。

 序曲のロシア・バレエ団が華々しくニューヨークに登場するシーンから、一転、アメリカの有名な芸人一家ドーランのファミリーへ。主人公、フィル・ドーラン三世(通称ジュニア)の若き日、両親が出演中のキース劇場の楽屋でコミカルな掛け合いが繰り広げられる。ここで早くも顔を出す、イギリス人好みのやや品が落ち気味のネタ。これは後に踊られるというか演じられる、アダムのジュニアがよんどころなく出演するロシア・バレエ団の劇中バレエの大サービスシーンの伏線、いやネタ振りである。

 そして今度は、成長したジュニア(アダム扮する)が眼鏡を掛けた音楽のプロフェッサーとして、ほとんどが興味の無さそうな学生たちに珍妙な講義をするシーン。ここで教え子のフランキーや作曲者のコーンなどが登場し、くそ真面目なジュニアがじつは、達者なタップダンサーだったりすることが明かされる。と、ストーリーは予想以上に軽快な流れで、特に第1幕にはスラップスティックな展開が思いきって取り入れられていて、無声映画の喜劇を観ているような雰囲気があった。

 ジュニアことアダムは、女性にちょっと弱気な教授、突然ロシア・バレエ団の舞台に引っぱりだされるへんてこな即席バレエ・ダンサー、ドーラン家の血が騒いでライヴァルを蹴落として主役を得るパフォーマーと、さまざまな役どころを見せてスターの魅力をフルに発揮し、ファンを欣喜させる。

 作品としては、ロシアの文化が創ったバレエvsアメリカの文化から生れたジャズの対決が見どころである。ロシア・バレエ団のプリマ、ヴェラの太い巻舌のロシア訛りとわがままで支離滅裂な男への執着(サラ.ウィルドーが熱演)、ディアギレフを擬したと思われるセルゲイ・アレクサンドロヴィッチの耳障りな野太いがなりたてるような台詞回し、スターダンサー、コンスタンティンのプライドのためには悪魔とも手を結ぶ頑迷さなどなど、ロシア側の人物像は見事に描けている。

 そして私が気にいったのは、セルゲイを演じたラッセル・ディクソンの芝居。ルーティーンだと、芸術家ぶっていてじつは金のためには酷薄な嫌みたっぷりの男になる役を、ディクソンは人間味あふれる<恋するディアギレフ>を見事に演じてみせた。余談ながら、ホモセクシュアルを標榜しないディアギレフを観たのは、私の人生で初めての経験である。

 こうしたロシアへの辛辣でしかし親しみを感じさせる描写、とりわけ、人間ディアギレフへのピリリと皮肉の利いた鮮やかな捉え方に、このミュージカルを初演したバランシンの、鋭くそして愛情あふれるただならぬ観察眼を感じるのは、私だけではあるまい。
 終幕を飾る劇中ショー「十番街の殺人」のダンスは見もの。アダムとサラの大胆なリフトを多用にしたダンスは、このカップルならではの素晴らしいパートナーシップだった。

(4月28日、ゆうぽうと簡易保険ホール)




 

 

Copyright チャコット株式会社 All Rights Reserved.  
当サイトに掲載されている情報の無断転載、無断掲載、無断引用 はお断り致します。