アプローズ!番外編 

関口 紘一 text by Koichi Sekiguchi

第6回マリインスキー・インターナショナル・バレエ・フェスティバル < Part 3 >
スターズ・オブ・ワールド・バレエ・ガラコンサート


 フェスティバルの最終日、3月26日は<STARS OF WORLD BALLET GALA CONCERT>だった。ロシアのコンテンポラリー・バレエから、クラシックのパ・ド・ドゥ集、バランシン作品をパリ・オペラ座バレエや英国ロイヤル・バレエからゲストダンサーを招いて、4部構成で観せた。現在、ロシアで上演されているバレエの様々な局面を集成するガラコンサートである。

 Part Iは、『<スワン>家のほうへ』というロシアの現代音楽(同名の2台のピアノのための曲)を使った作品のマリインスキー劇場初演。これはワガノワ・バレエ・アカデミーで振付を学んだアレクセイ・ミロシュニチェンコが、ニューヨークの振付協会に招かれた際に、NYCBのダンサーに振付けたものである。オルセヤ・ノヴィコワとアレクサンダー・セルゲイエフが踊った。
 背景に巨大なバーコードが掲げられたセット。トウシューズを履いた足首に同様のミニ・バーコードが付けられ、レオタードを着たマネキンというかサイボーグみたいなノヴィコワを、白鳥もどきにヘアを固めたセルゲイエフが、物体のように扱い、鳥を思わせる動きを見せる。音楽は、サン=サーンスの「瀕死の白鳥」の曲を使い新たに作曲したものであろう。情感か枯渇したデジタルな関係によって、人間の中に動物的なものが目覚め始めた、といったいささかSF的な感触を感じた舞台であった。

『3つのグノシェンヌ』
ロパトキナ、クズネトフ

 Part IIは、やはりマリンスキー劇場初演の『コンチェルト・グロッソ』。ヘンデルの曲を使いタイトルも同じにしたコンテンポラリー・バレエである。振付はアラ・シガロワ。彼女もワガノワ・バレエ・アカデミーで振付を学んだが、ダンスのみならずオペラやミュージカルなども手掛け、現在はドイツ、ベルギーを中心に活躍している。
 イーゴリ・ゼレンスキーが黒のハイネックのセーターに黒のパンツ、顔を白塗りにして踊るソロである。回転を中心とした速い動きで、背景は、劇場自体の、乱雑な舞台裏そのものを剥き出しに見せる。終幕近くなると、マリインスキー劇場の天に設えられている、数本の照明のライトを付けたバーが、同時に床に向かって降りてくる。かつてフォーサイス作品などで見られた、素の劇場を使ったダンスだが、ここでは、パフォーマーの緊張した心理を表していると思われる。
 最近のロシアのコンテンポラリー・バレエを初めて観たが、ひと昔前は、ロシアのモダンな舞台は西側の作品の模倣のようであり、興味を惹かれるものはほとんどなかった。しかし今日ではまったく様相が異なっている。尖鋭な芸術的意識を、ロシアのダンサーや音楽の力強い表現力によって描いている。


『シンデレラ』ヴィシニョーワ、メリクリエフ

『マノン』コジョカル、コボルグ

 Part III は<デヴェルティスメント>。クラシック・バレエのパ・ド・ドゥ集である。
 まずは、今はボリショイ・バレエの芸術監督を務めるアレクセイ・ラトマンスキーがマリインスキー劇場バレエに振付けた『シンデレラ』。ディアナ・ヴィシニョーワとアンドレイ・メルクリエフが王子とシンデレラの出会いのパ・ド・ドゥを踊った。シンデレラの溢れる愛の歓びと一抹の不安を漂わせ、複雑でキラキラと輝く曲を、繊細でこころをこめて踊った見事な舞台だった。
 ヌレエフ版の『白鳥の湖』の黒鳥のパ・ド・トロワは、アニエス・ルティステュとジョゼ・マルティネス、ステファン・パヴロンのパリ・オペラ座組が踊った。ロットバルトのソロのヴァリエーションもある有名な場面である。

『ドン・キホーテ』
ノヴィコワ、サラファノフ
 マクミランの『マノン』は、アリーナ・コジョカルとヨハン・コボルグの英国ロイヤル・バレエ団のコンビ。コジョカルの軽さ、全身を使った表現力、コボルグも申し分のないステージだった。
 ハンス・ファン・マーネンが、エリック・サティの東洋の音楽に影響を受けて作曲したと言われる『3つのグノシェンヌ』に振付けた同名のダンスは、ウリヤ・ロパトキナとイリヤ・クズネトフが踊った。サティのピアノの音色にロパトキナのパステルブルーの衣裳が映え、美しいラインを描いたダンスである。
 そして、『ドン・キホーテ』のグラン・パ・ド・ドゥを、ノヴィコワとレオニード・サラファノフが踊り、劇場を揺るがすような喝采を浴びた。サラファノフのスピードあるフェッテと独特の決めのポーズが大いに受けた。なんだか、初めてロシアの劇場でバレエを観ている雰囲気を味わった気持だった。
 最後のPart IVは、バランシンの『ジュエルズ』からチャイコフスキーの音楽のパートである「ダイヤモンド」。ダリア・パヴレンコとゼレンスキーがメインだったが、やはり、チャイコフスキーの曲で踊るマリインスキー劇場バレエは素晴らしい。これはどこのバレエ団でも実現することのできない、バレエのひとつの極限の美しさ、といったら言い過ぎだろうか。
 こうして、第6回目を迎えたマリインスキー劇場のインターナショナル・バレエ・ガラは幕を落とした。また来年、あるいは近い将来にこの地のこの劇場でこのバレエ団のコンサートを観ることができるだろうか・・・・。
 

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