HOME信州上田 TSUKURUTE 〜手にした品物の向こうに、今日も作り手がいます〜 『知られざる器』

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『知られざる器』
手にした品物の向こうに、今日も作り手がいます。

バレリーナの真骨頂とも言える、あのつま先立ち。それを絶えず支え続ける、まばゆいトゥシューズ。その艶やかに輝くサテン生地の内側に、つま先部分をぐるりと取り囲むカップ状の特殊な型が隠されています。それは言わばチャコットのトゥシューズを代表する足先の重要な隠し砦、「カウンター」です。

広い工場の片隅には、壁を挟んで隔てられた一角が。棚と機械に取り囲まれたその独特な空間には、モノ作りへの熱意を宿した作り手がただ一人。直立型のプレス機械と向かい合うその姿は、まるで怪力の巨漢と対峙する武道の達人さながらです。

材料自体は平面で、小ぶりな折り紙大。巧みに切り抜かれた天然素材が複数枚重ねられ、三枚の羽を持つ風車のような形を形成しています。トゥシューズの種類毎にそれぞれ形や素材の組み合わせが異なり、あるものは茶色、またあるものは生成りなど、見た目にもその違いが現れています。重ね合わせのバランスや、各パーツの寸法にも目配りは欠かせません。僅かなズレも、仕上がり具合に直結します。

片足分ごとに重ね合わされた材料は、大型のグリルのような加熱機で、次々と熱を加えられていきます。作り手は、一枚ずつを出しては入れての繰り返し。その小気味良い手さばきは、熟練の煎餅職人をも彷彿とさせます。

表面温度は優に100℃。加熱機から手でつまみ取った材料を、銀色に輝く垂直の足先型へ素早く巻き付け、プレス機械で一気に圧力をかけます。自慢の羽を折りたたみ、三次元の世界へと足を踏み入れた「カウンター」が、絶妙な器の形へと変容を遂げる瞬間です。

『やはりタイミングが大事です。熱し過ぎると、焼け焦げてしまいますからね。』 体格の良い作り手が、柔和な面持ちでそう語ります。日に数百個もの成形を、一人で担うという重責。材料の種類やサイズを取り替えながら、小さな立体をひたむきに仕上げ続けるその姿には、雑念が付け入る隙は微塵も見当たりません。器用で大きな手先から、決して表舞台には姿を見せることのない「カウンター」が、整然と生み出されていきます。本物の価値を支えている、まさに裏方。

躍動する踊り手を迎え入れる、ステージという大きな器と、足先に隠された小さな器。作り手は額に汗して黙々と、今日も内に秘めた熱量を絶え間なく注ぎ込み続けています。

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